慈雨
--星の座を結ぶ赤い糸を信じて--

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(教科書とにらめっこするくらいなら、君と言葉を交わしたい。)
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都築円佳
(火曜日の五限は数学の授業。都築のクラスの数学担当教師は予習に厳しい上、出席番号通りの指名なんてしてくれない鬼畜教諭と専ら評判の45歳(二児のパパ)だ。そのため予習の手抜きが出来なくて、火曜日のお昼休みはいつでもピリッとした緊張をはらんだ空気が教室内に漂っている。例えば授業で指名されて答えられないなんて、長い人生においてはきっとなんてことない事象に違いない。けれど高校生にとってそれはなぜだかとてつもなく大事のように感じられるから、毎週火曜日のお昼休みは皆が昼食を早めに切り上げ、ノートを広げ教科書とにらめっこしているのである。さて――クラスメイトの誰もが忌み嫌うこの時間を、誰より楽しみにしている女が一人。烏野高校一年生、都築円佳その人である。別に数学が得意だなんてそんなわけはない。むしろどちらかというと苦手な方だ。けれど、だからこそ得られる役得がある。早めに昼食を切り上げた都築は自分の席へと腰を落ち着け、出席番号の関係で隣の席になった彼の方に視線をやった。今彼は何をしているだろうか。声をかけるタイミングを見計らう。間違っても間が悪いなんて思われぬよう細心の注意を払って――1,2の、3!今だ!)ね、ね。月島ぁ。(いつもより少しばかりやかましい鼓動の音を悟られぬよう、平静を装った間延びする声で彼の名を呼ぶ。ついでにシャーペンの先で彼の肘をつんつんつついて、意識を此方へ向けんと努めた。)数学の予習、終わってる?あたし、今日あたるんじゃないかなあって思ってて。ね、よかったら答え合わせしてくれない?(紡いだ言葉は、毎週火曜日にいつも彼へと差し出している"お願い"だ。「あたる予感」を隠れ蓑に彼と会話する機会を得んと、したたかな欲求を僅かににじませる。ほんの少し首をかしげながら覗き込むように彼を見た。)
Published:2019/06/02 (Sun) 00:24 [ 3 ]
喋りたかったらもう少し教科書も読むべきだと思うけど?
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月島蛍
(そわつく空気も張り詰めた授業も、浮かれたランチタイムも他人事。元より纏う余裕は努力と称すよりも効率の良さを率先する合理主義の賜物で、鬼教師だ何だと評判の火曜5限が近付いたところで非生産的な騒めきなぞ対岸の火事。甚だ冷め切った見解の下、平常に変わらずの速度で図体にそぐわぬ量の昼食を摂り終え、愛用のヘッドホンで外界を遮断するはマイペース極まる昼放課の過ごし方。殊に暑苦しい部のチームメイトがやれ昼練だと騒ぎに来たとて、知らぬ存ぜぬを突き通す為の先手でもあり、暇そうだからと雑用を押し付けられたりしない為の防壁でもある。省エネに特化したドライな性状は如何なる場面に於いても改善の余地無く、今日とて感情を悟らせぬ無感動な双眸が手持ち無沙汰に液晶を撫ぜる、いつも通りの昼下がり。教室内を張り詰める空気感含め常に同じとなれば、きっと恐らく今週も。予定調和を予期する胸裡は期待と名付けるにはやや傲慢な、そうあるべきと微塵の狐疑も持していないのだから醜悪な慕情だ。耳朶を揺る音量を絞れば、ほら。)……何、都築。(素っ気ない音韻は、信頼の証とでも称すれば良心的な解釈を持つか。尤も男の口から敢えて語られる事なんて無いけれど、ペン先で呼び寄せられずとも耳を塞ぐ其れを引き下げる方が早ければ彼女への意は伝わろう。スマホをポケットへ仕舞い込みながら、)そんな事言って、先週も結局当たらなかったデショ。僕が毎週ボランティアするようなお人好しに見える?(頬杖付いて手向けるは鼻白む微笑。硝子を隔てた双眸こそ硝子玉のような色彩を呈しており、つまりは他者を小馬鹿にする際の悪癖。偉そうな口吻は弾む。)僕、無償で手伝ってあげる程暇じゃないんだよね。(相手の困窮を逆手に取っては意地悪く宣うも、腰を据え彼女へ向き合っている時点で立ち去るつもりも毛頭無い。それ即ち、何か寄越せと言外に。)
Published:2019/06/03 (Mon) 21:55 [ 15 ]
あ、じゃあさ、月島が読み聞かせしてくれるとかどう?
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都築円佳
(彼の瞳は美しい宝石によく似ている。涼しげな目元は動揺や驚嘆といった感情の高ぶりを映すことはほとんどなく、だからこそ、そんな瞳が己の姿を映す瞬間に胸が高鳴った。都築の呼びかけをきっかけに、すべてを遮断していた彼の世界へと迎え入れられる。鼓膜を揺らすそっけない音、同時に絡まるふたりの視線。とたんに心臓がことさら大きな音を立てるから、続きは曖昧に笑って誤魔化そうとする。眉間に少し力をこめて、わざとらしく唇をとがらせた。)月島がお人よしにみえるなら、それこそ眼科に行かなきゃだ。……なあんてね!それこそ、先週も先週もあたらなかったから、今週こそあたりそうだなあってお持っちゃったんだもん。いいじゃん、月島、中学時代から数学、得意だったでしょ?(初めて彼とクラスメイトになった3年時のことを思い出しながら、指を器用につかってくるんとシャーペンを回した。眼鏡の向こう側の一対の琥珀が見せる色彩が美しい。小馬鹿にされようと、こうして彼の瞳を覗き込む瞬間が一番好きだった。自然と緩んだ双眸をごまかすように咳ばらいをひとつして、大げさに唸り声をひとつ。)え~、報酬っていってもなあ。あたしができることなんて限られて――あ、(一度、二度、まばたきを繰り返して。思いついたといわんばかりに人差し指をたてた。「じゃあさあ、」緊張で声が震えそうになるのを演劇部の意地で持ち直す。)今度、……例えば今日でも、いいんだけど。新しくできたケーキ屋さんのショートケーキをごちそうする。とか、どうかなあ?(財布事情は置いておくとして、体よく彼と出かける約束を取り付けられたりしないかと。ちょうどよく自分の部活が休養日だったから、すぐにでも行きたい気持ちは選んだ言葉に滲んだか。)
Published:2019/06/04 (Tue) 20:16 [ 24 ]
……それ僕に何のメリットが……?(いやっそーーな顔)
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月島蛍
チョット。邪魔しに来たなら閉店するけど。(開口一番の戯れに冷淡な声色が相対したら、外したばかりのヘッドホンを再度上げんとして、るところに差し込まれた粗雑な撤回へ一瞥向け、吐く溜息だってそれこそ戯れの範疇内だ。)都築は中学の頃から数学苦手だよね。この調子で行くと来年辺り学年別れちゃうんじゃないの?大丈夫??(はいはい仕方無いな、の態度は隠しもしないどころかいっそ大仰に、然れど席を立つ素振りすら見せぬのだから解し難くとも絆されていることに変わりはない。敢えて煽るような口振りは悪癖の最たる一つに違いなく、同じ部内の想像絶する馬鹿達に比すれば、特進クラスの一員として肩並べる彼女がどの程度手に負えるかなんてとうに理解に及んでいるからこそ。これが冗句となるかは彼女の努力次第。呑気な口吻をなぞって、天啓を得た一音に釣られ此方も落とす瞬きひとつ。)新しく、って、商店街の?……ふーーん、(思案の素振りで記憶を辿る。通る度女性客で賑わうさまの店内に入る機を得る事など恐らく無いだろうし、小洒落た店構えから察するに高校生が日常的に通える価格帯でもないように思える。)都築にしては悪くないんじゃない。肩たたき券とか言い出したらどうしてやろうかと思った。(ひと匙ばかりの下心を強欲に挿げ替えて、)コーヒーも付けていいよね。(意地悪く口角上げては迂遠な言い回しの是を差し出す。隠してる訳でもないが開けっ広げにしてる訳でもない好物を彼女に把握させているのは斯様な機を逃すまいと思慮巡らす周到に他ならない。ついでに彼女の財布を微塵も慮らぬ冷酷はさて置き、観念と相成るなら件の数学のテキストとノートを引っ張り出そう。捲りながら、)部活。待てるなら今日でもいいけど、無理なら来週。(決めとかないと逃げられそうだし。そんな建前を浅瀬に用意しながら、指先がシャーペンの芯を数度押し出す。)
Published:2019/06/05 (Wed) 23:14 [ 30 ]
……エット……腹式呼吸がうまくなる、とか?
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都築円佳
あは、おっしゃる通りで。でもだいじょーぶ。学年が分かれちゃわないように、月島先生に頑張ってもらう。(にっこり笑ってサムズアップ。彼と同じクラスになる確率を上げたくて、必死こいて勉強をしているのはさておくとして、鼓膜揺らす彼の言葉に本気と冗談が3:7の割合でまじりあった言葉を返そう。あまりに他力本願が過ぎる言葉故、また彼の眉間にしわを刻んでしまうだろうか。思い描いてくすくす笑う。――なんて、都築がそんな余裕の態度をとることができていたのも、このやり取りがここ最近の定番となっているからに他ならない。定石が崩れれば勝手が変わるのは世の道理。求められた対価にと差し出した提案は、常のやり取りにはないお誘いであったからこそ、その心臓はどきどきと煩く自己主張を始めるのだ。――正直なところ。都築は彼に笑って一蹴される可能性だってあると考えていた。ゆえに、永遠にも思える沈黙のあとに続いた言葉に「ぇあっ、」と間抜けな声を上げて。)あ、はは、……肩たたき券、浮かばなかったと言えばうそになるんだけどねえ。言ってたらどうなっちゃったんだろ?次回に期待だなあ。ていうか月島、あたしのお財布に厳しいね??(どうにか平静を装っていつものごとくへらりと笑う。ほんのわずかに滲んでしまった動揺はお財布事情に関することだと思ってもらえるよう言葉を足して小細工を。彼がノートを取り出したのに習って自分もノートに視線を落とすが、当然意識は目の前の彼へ。ゆえに、)今日行こ!……あたしも覚えないといけない台本あるし、……来週に回すと、ほら、来週の分のお礼も重ねることになっちゃうから……。(暗に来週も課題の答え合わせお願いしますと伝えつつ、彼にならって指先がシャーペンをノックする。違いはというと、彼の指よりも続きの指の方がカチカチ、せわしなく動いている。押し出しては芯をしまい、押し出しては芯をしまい、と不毛な手遊びを繰り返しつつ、)部活、何時くらいまでやってる?……あ、部活後だったら、山口もいっしょとかのほうがいいのかなあ。さすがに山口の分は奢れないけど、(鼓動の音をごまかしたくて引き合いに出したのは彼の幼馴染、兼、己にとっても気心知れた中学からの同級生。逃げの一手を打ってしまったのは、ひとえに恋する乙女の臆病心が顔を出したからに他ならない。)
Published:2019/06/07 (Fri) 02:46 [ 39 ]
……ハイ却下。同級生に読み聞かせの図、お互い痛すぎデショ。
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月島蛍
他力本願かよ。自分で努力出来るようになってから出直してくださーい(ド軽率なサムズアップをむぎゅっと捕まえ横合いへポイッ。次ぐ露骨な動揺に頓着せぬほど愚鈍でなくとも、直ぐ様確信を抱けるほど傲慢でもなかった。彼女が自分を見る時、他の同性よりも数刻長い事を知っていても、彼女が秘密裏に自分に近付く為の努力を講じているなんて知る由もない。そんな距離感は此処暫く変わらない事実だった。故に特段深入りするつもりも無ければ小さく息吐くのみに留めて、)次回って、君懲りる気無いでしょ。お望みならそろそろ割増料金要求しようかな。段々高い店にしてくってのはどう?(頬杖を付いたまま、意地悪い言葉選びは楽しげに。己の筆跡とは異なる紙面の文字列に視線を流す最中、つんのめった肯定が食い気味に響けば、)そんな焦らなくても今更逃げないって。(尤も奢らせるのは此方の方なのだから筋だけ見れば可笑しな話で、けれど真意を悟らせるでもない口吻は意図して不可解にも取れよう。然し一転隠しもしない怪訝が顔を出す「来週もお礼する気でいるワケ??」は思わず付随させる脊髄反射の圧。「あ、そこ4問目。公式違う。」シャーペンの先でトントンと示す律儀は少なからず報酬分の仕事はしてやろうと腹括った証に違いない。人様のノートに無遠慮にお邪魔するペン先がサラサラと矢印を書き込むその途中で、ぴた、と静止するは徐ろに。)……何で山口?(皺の寄る眉間はさも露骨に、仲良しとして括られるのが不本意ですとでも言いたげに、重苦しい溜息混じりのオマケ付き。声を掛けたら喜び勇んで付いて来る姿が想像しなくても目に浮かんで少しげんなりした。望んでもいないお邪魔虫。)アイツは別にいらないデショ。甘い物好きでもないし。(指摘した間違い、の部分にバッテンマークを引きながら一蹴。)6……時半ぐらいには終わるかな。待てるの?(熱血燃やす周囲を考えると定刻通りも想像に難く、宙へ視線彷徨わせての概算は経験に基づく統計。然れど遅くなるに違いはないから、一応の最終確認ののち、)居るとこ後で連絡しといて。迎え行くから。(そんな帰結は、常の男を見れば随分と甘っちょろい言い分か。「都築じゃなくてケーキをね」なんて付け加える余計な一言も可愛げの無い本音の一欠片だ。)
Published:2019/06/09 (Sun) 19:04 [ 49 ]
えっと、ほら!誰にも見られなかったらセーフ……的な?
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都築円佳
ぎゃっ お 折れたらどうすんの、もお……!!(茶化しながら作った冗談交じりの親指がむぎゅっとつかまれたら色気もへったくれもない声が出た。同様の理由を感じもしなかった痛みのせいに挿げ替えて自業自得の苦情を投げる。「くっそお、月島のばあか」と悔し紛れに紡いで突っ伏し、どきどきと煩い心臓と頬に集まる熱が鎮まるのを待った。ほんの少しの、彼にとっては冗談の一端にすぎぬ触れ合いに違いない。けれど都築にとってはあまりにも大きい。月島のばか激ニブチンめ――なんて恨み言は間違っても口には出せないから心の中で。復活は存外早く、小さな吐息の音に乗じてそっと顔を上げた。)わー、待って待って!今年あと何回数学あると思う?破産しちゃう!(楽しそうな彼の言葉は決して数が多いとは言えず、だからこそまるで自分とのやり取りが特別であるかのように思えて心地よい。しかしながら、移ろいやすい乙女心は彼の言葉一つであっという間に感情そのものがひっくり返る。来週も、との言葉には、さすがにわざとらしすぎただろうか、図々しかっただろうかと気まずい気持ちがむくむくと沸き上がって。「あ、もしかして、もうお礼いらない?さすが月島」なんて茶化す言葉とともに一歩引いて、そっと彼の安納を見る。合間に挟まれるバッテンに、「うえっなんで??」なんて数字の羅列をにらみつけながら。つまるところわかっていない。数学なんてくそくらえである。)えっ。だって、ほら、……月島と山口って、よく一緒にかえってるじゃん?(曲がりなりにも部活ガチ勢の都築である。遅くまで活動しているバレー部が終わる姿をみかけることもよくあるのだ。その際、彼の幼馴染が「待ってよツッキー!」なんて明るい声をあげながら彼の後ろをついていくのを見た回数は、一度や二度ではない。「あと、あたしもまあまあ仲いいし、」と言い訳がましく理由を付け足す。気まずいのは、目の前の想い人に関しての情報源が主に彼の幼馴染だからにほかならない。)……そ、っか。いや、うん。月島がいいんならいいんだよあたしは。うん。(と、いうことは。ふたりきり。彼の一蹴を耳にして、カッと頬が熱くなった。むずむずと緩みそうになる唇を叱咤する。)待つ。……言ったじゃん?憶えなきゃいけない台本があるんだよね。台本読み込んでたら、時間なんてあっという間だよ(へらりと笑って首を柔く傾げた。待ち合わせ、なんてまるでデートみたいだ。ふわふわと浮ついた心のまま、)……っわざわざ言われなくてもわかってるってば!(ぎゅうと心臓をつかまれた心地で、悔し紛れに一言投げて。「月島ここわかんないっ」とその勢いのまま語尾をはずませた。彼のつけたバッテンの隣にはてなを書く。三角関数は滅べばいい。)
Published:2019/06/10 (Mon) 00:29 [ 52 ]