慈雨
--星の座を結ぶ赤い糸を信じて--

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(初夏の夕映えは、透明な恋の予感に似て。)
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高梨藍
(出場するコンクールに関する手続きで、少女は先週末に半日授業を休んだ。友人らのサポートでノートの写しや連絡事項等は問題なく入手できたけれど、運悪くひとつだけ厄介な課題が出ており、こればかりは授業に出なかった少女ひとりでこなすのは難しい。イツメンの少女たちは部活や私用で付き合えないと、申しわけなさそうに手を合わせて教室を去っていった。さてどうしたものかと首を捻った彼女が今、放課後の教室で対峙しているのはなんと、) ……ごめんね、まっつん。せっかく部活休みでゆっくり出来るのに、巻き込んじゃって。 (彼女がいちばんふたりきりになるチャンスを心待ちにしている相手――松川一静そのひとなのであった。事情を知る友人たちが「松川くんこのへん得意分野だよね、手伝ってもらえば?」等とアシストしたのか、はたまた彼本人が偶然そばで聞いていて、名乗りを上げてくれたのか。いずれにせよ幸運であることには変わりない。申しわけなさそうに眉を下げて隣の席まで出張してきてくれている彼を見やりつつ、内心では小躍りが止まらない。) えっとね、このへん…まではその前の授業で聞いてたから分かるんだけど。 (ていねいに切り揃えられた爪のひとさし指で教科書を丸くなぞって示しながら、へらりと頼りなげに笑ってみせる。西日射す窓際で、白いレースのカーテンが揺れた。ふたりきりの課外授業。) それにしても、急に日が長くなったよねえ。体育館、すごく暑いでしょ。 (窓の外に広がる夕焼け空をぼんやり眺めてつぶやくと、彼の方へと視線を戻して首をかしいだ。始めたそばから無駄口ひとつ。こんな形でふたりきりになれるだなんて予想だにしていなかった。席だっていつもは盗み見ることも容易な程度には離れてるのに、今はすぐ横にいる。なにか喋っていないと落ち着かないのだ。)
Published:2019/06/02 (Sun) 00:30 [ 4 ]
夏って色が濃くなるよな。夕焼けとかつい見ちゃわない?
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松川一静
(やむを得ない事情で学校を欠席だなんて誰にでもある事。怪我、病気、家庭の事情。彼女の場合は熱心に取り組んでいるピアノに纏わる事が殆ど。知っていたからこそここ最近は特に気を配っていて、友人であるクラスメイトが自分の名を出したタイミングで「はーい?呼んだ?」なんて、平然と話に混ざる事が出来たのだった。あからさま過ぎたかとも思ったが、今こうして彼女と二人きりになれているという事は杞憂だったらしい。分かりやすく上昇する機嫌が顔に出なくて良かった、彼女が絡むといつもそんな事を考える。)いーって。俺と高梨の仲デショ。どうせ予定も無かったし、俺自身の勉強にもなるからさ。(申し訳なさそうな彼女へ茶化すように小さな笑みを浮かべて見せたなら、その隣へ腰掛ける。背凭れに腕を乗せて半身を向けつつ、開かれた教科書を覗き込んだ。)あぁ……なるほどね。だったら簡単だよ、ちょっとした応用問題。前回の授業と掛け合わせて考えるだけだから、コツさえ掴めばすぐ。(繊細な手入れの良き届いた指先を目で追っては、その笑みに「大丈夫」と頷いた。橙色が彼女の髪を透かし染める。見惚れてしまわぬよう、強く気を保って教科書へ視線を移しては)…ほんとにねぇ。練習終わる頃には大分汗だく、もう夏来たんじゃね?ってよく花巻と話してる。(努力は水の泡。容易く彼女に気を取られ、抗う事を諦めた。背凭れから机へ重心を移せば、体格差は関係無く彼女の顔を覗き込むようにして見ることが出来るだろうか。)高梨も体育で体育館使う時は気をつけなね、熱中症とか油断ならないし。(そんなありきたりな世間話すら、二人きりならば愛おしい。)
Published:2019/06/02 (Sun) 20:58 [ 9 ]
見ちゃう。なんでか、春とか冬よりさみしい気持ちになる。
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高梨藍
(「松川くんに」友人が気軽に口にしたその名前にさえ顔が熱を持つのだから、本人が登場した時の彼女の動揺は想像に難くないだろう。まるで自分の名前が出るのを予測していたかのような――とは、さすがに自惚れだろうか。けれど普段からさりげない距離感で、自分がクラスの時流に乗り遅れないように、なにかと声をかけてくれていると分かっていた。そういう押しつけがましくない優しさが、うれしかったし、好きだった。)……っ、予定がないならなおのこと、しっかり休むのも部活のうちじゃん。……でも、本当にありがとね。あとで自販機行こ。なにかごちそうさせて。(俺と高梨の仲。深い意味はないと分かってはいても、聞き流すことは出来ない表現だった。一瞬、言葉に詰まる。さらりとした笑顔をぱちぱちとまばたきを繰り返し見つめながら、どんな仲?と聞きたい気持ちをどうにか抑え込んだ。みんなに優しいんだから、このひとは。そういう意味の"仲"じゃないんだぞ。きっと。)ふむ……?ということは、ここが…こうで?あら?……松川せんせー大変。数字がひとつ余っていマス。この方は…どの式へ……?(応用だというアドバイスを元に取りかかってはみたものの、書き進めるにつれて首が傾いてゆく。おどけた口調は照れ隠しだった。ひとつの教科書をふたりで見ているから、ともすれば腕や肩が触れてしまいそうだ。これまで席替えで隣同士になれなかったことを不満に思ってきたけれど、それでよかったのだと痛感した。これを毎日なんて、心臓が破裂してしまう。)ねー、もう来たよ、夏。これは夏認定していいやつ。(座っているだけでもじんわりと汗が滲む。首元をひらひらと手で仰ぎながら、「8月とかどうなるんだろう…」と呟く声は深刻だ。と、不意に――ぎ、と傍らの椅子が鳴る音がして、彼のからだがこちらへ傾いた。その双眸がまっすぐ彼女のひとみを射抜けば、くらりと甘いめまいを覚える。)……だ、大丈夫!ワタシ、こう見えて結構、基礎体力、自信ある。(どぎまぎしすぎて口調が迷子、今度はチャイナ風味だ。ピアノの技術力向上の一助となればとトレーニングしていることを指しての発言だったが、「…ん?」自身の発言を反芻して、違和感に気付く。)……筋トレと熱中症は……関係ないね?(眉根を寄せた真面目な表情で、同意を求めて彼を見つめた。かと思えば一転、あはっと弾けるように笑う。元より感情表現は豊かな少女だったけれど、彼のそばにいるときの表情が、いちばん色とりどりだった。)
Published:2019/06/03 (Mon) 01:21 [ 12 ]
へぇ…そりゃ不思議。夏って寂しさとは無縁な感じだけど。
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松川一静
(いつもいつも何食わぬ顔で、けれど狙い澄ましたかのように立ち回るものだから、いよいよ部の同期の数名かは松川の心が誰に傾いているか察している筈。別にばれたって構いやしなかったけれど、わざわざ言い触らすような事でもないから何を聞かれてもとぼけ倒してみせるのだけれど。「俺で良ければ教えるよ」と平然とした表情の裏、目に見えて動揺している様を愛でているだなんて――更に言えば、こうした時の彼女の反応がどうにもクセになっていて、最近は如何に不意を打てるかも考慮しているだなんてのは此処だけの話。)いやいや、ここで勉強することで家でゆっくりする時間を増やせる……って考えたらほら、プラマイゼロでしょ?割と自分のためって部分が大きいしお礼される程のことでもないんだけど……そう言ってくれるならお言葉に甘えようかな~。(自分とは違う、ガラス玉のように光を集める澄んだ瞳。物言いたげに瞬くのを見つめながら、浮かべていた薄い笑みはほんの少しその色を深めるだろう。クラスメイト、仲良し、困ったときはお互い様エトセトラ。そんな、言い訳にしては少々弱く、けれど何れのラインも越えられていない自分たちの間ならばどれを当て嵌めても不自然でない言葉を用意してはいた、けれど同時に、彼女の胸の内へ一歩踏み込む事も視野に入れていたのだけれど。突っ込まれなければそれはそれ、唯の軽口として流れるばかり。下心ありきの親切がそうとばれなかったことをありがたく思うことにして、今はとりあえず“先生”らしく振る舞おうと。)おやおや高梨くん、うっかりさんですね。計算式の順序が狂ってますよ。この方の行先を推理するにはまず、此処での式を見直さなくては。(うぉっほん、と数学教師の咳払いを真似してはほんの少し上体を彼女に寄せ、武骨な指先が教科書とノートの上を踊る。ここと、ここ。注目すべき箇所を示す傍ら、滅多に無い距離感に柄にもなく緊張を覚えていた。近々予定されている今度の席替えの際、彼女とは程々に近く、けれども遠すぎない距離に位置する席を引き当てられるようにと祈る事になるだろう。これは近すぎる、心臓に良くない。非常に。)だよねー。8月は…干乾びる人とか出てくるんじゃない?そういや写真部って夏休みは活動あるの?……あ、けど練習とかで忙しかったりする?(自身の下敷きで彼女へ風を送りつつ、探りを入れてみたりして。覗き込んだ先、分かりやすく狼狽えるものだから思わず眉根を寄せてくしゃりと笑った。募る想いが、また一つ。)なんでそこ片言?けど確かに、意外と体力あるよなー高梨。いや、弱そうって思ってたとかじゃないんだけど。(込み上げる笑いを噛み殺しつつ。追いかけて来た違和感に首を傾げたのは、彼女と目が合った三秒後。)まぁ……イコールで結ぶには無理があるな……?(背中を丸めて肩を揺らせば彼女の笑みを網膜に焼き付ける。「ちなみに筋トレってどんなの?」と尋ねた声音は楽し気であったろう。)
Published:2019/06/04 (Tue) 00:04 [ 17 ]
たぶん……他のどの季節よりもまぶしいからじゃ、ないかなあ。
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高梨藍
(学年でも指折りの長身。本当に17歳かと揶揄されるルックスは、特に黙っているときにその威力を発揮する。接触のない他クラスの女子が「松川くんって怖くない?」「圧やばいよね」と評するのも無理はない。けれど、すこし距離を詰めればすぐ分かる。彼が本当は気さくで、友人思いの優しい男だと。穏やかな声音が耳に心地好く、すごく話しやすい。今だってポジティブな切り返しで、甘えやすいようにしてくれている――少女はそう受け取った。あいにく、その凪いだ表情から打算を読み取れるほど鋭い女ではない。)うーん、そう…?じゃあまっつんも予習とか、してね。で、たくさん寝て。(助かります、とあらためて謝辞を告げたなら、素直に厚意を受け取ることとした。――思考を見透かすように細められた瞳が、艶っぽくてどきりとする。否、きっとほんとうにお見通しなのだろう。表情はおろか、奏でる音色にまで感情が反映する女だ。向けられるまなざしがほかの級友へのそれとは異なっていることに、彼が気付いていないとは思えなかった。でも、まだ大丈夫。言葉にしていないから。言葉にされて、いないから。境界線がすぐそばに、そして容易に越えられる低さに在ると知っていながら、このモラトリアムを味わって、焦らすように歩いている。少女の傲慢で都合の良い解釈が正しければ、それが現在のふたりだった。とはいえ、)あはっ、それ吉野先生?似てる――(ただ緩慢に歩むだけでなく、時折確かめるように、こころの奥へ踏み込んでくるから厄介な男だ。おどけた口調に表情ほころんだのも束の間、伸びてきた指と、ふわりと空気を揺らした制汗剤のにおいにからだが固まった。鼓動はferoce、荒々しいほどに速くて、)……っあ、あーなるほど!ここね!はいはい、(なけなしの平常心でかろうじて会話を繋げる声は、わざとらしく大きい。)干からび死は嫌だなあ……。部活は一応あるけど、自由参加だよ。でも音楽室空いてれば練習もできるし、なるべく来るつもり。(プラスチックの波打つぺこぺこという音を伴う送風に猫のように目を細めながら答える。腰掛けとはいえ、多少は存在感のある幽霊部員になりたい少女なのであった。それから――1拍置いて、「まっつんは、」と静かに切り出す。双眸に、まっすぐなひかりが宿る。)夏は、インターハイだね。わたし、……応援に、(行ってもいい?空気に触れた声は驚くほどか細くて、ああ緊張している、と他人事のように思う。まだ本選出場も決まっていないけれど、きっと行けると信じていた。その軌跡を見守りたい。特別なひとの、特別な場所へ。一緒に。)ふっふ。指の力だけじゃ音出ないし、長い曲はスタミナも必要だからね。(笑うと途端に年相応になる彼が好きだ。こちらばかり心乱されているようでくやしいけれど、この笑顔を引き出せるなら悪くはない。運動部員から基礎体力を認められたことで得意気に口角を上げた少女は、両手をまっすぐ前に伸ばして、指先で鍵盤を弾くそぶり。)特に鍛えてるのは腕とか背中とか。あと手首!(ステージ衣装を着る関係でデコルテ周辺は削いでおきたいという理由だけは隠したのは、乙女心ゆえ。)
Published:2019/06/04 (Tue) 17:58 [ 22 ]
うーん…じゃ、眩しくても寂しくならない方法教えてあげよっか。
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松川一静
(たくさん寝て、というのが何だか妙にツボに入って思わず噴き出しては、そのままくつくつと喉を鳴らしながら頷いた。自分もノートを開いたなら授業中に教師が言っていたポイントだとか豆知識だとかのメモ書きをそのまま口頭で伝えれば「どういたしまして~」と気の抜けた声音で返そうか。この、互いに核心には触れない距離がじれったくも嫌いじゃない。地道な根回しの甲斐もあってか、彼女にとっての己がある程度特別な位置に立てているとは自負しているし、自分にとっての彼女もまたそうであると気付かれているだろう。試合で言うならば現状は3セット目、マッチポイントをどちらが取ってもおかしくない接戦中といったところ。但しこれは勝ちも負けもない、何方かが一歩踏み出すことを決めればあっという間に終わる駆け引きだ。互いに追い求める夢があるから決着を引き延ばしているというだけの話。)そう、正解。ちなみに古典の安室先生の真似も得意よ~。(それでも、万が一にでも彼女の目を惹く何者かが現れぬよう。余所見しないでねと距離を詰めるのは意地が悪いだろうか。物理的な近距離に持ち込んだならその体躯の小ささだとか、細い髪から香る女の子らしい香りだとかに胸の奥を締められる思いがして、不純な欲が鎌首を擡げた。会話が繋がれば再び距離を取る事で事なきを得るけれど、攻めに行って自爆だなんてと微かな苦みを含んだ笑みを浮かべ。)……ね?簡単でしょ?(平常心、と言い聞かせては小首を傾げた。親しいクラスメイトの肩書を改めて胸に抱き、続く会話に相槌を一つ。)じゃあ顔合わせることもあるかもね。その時は声かけてよ?何なら被写体とかにもなる……あーでも、及川は調子乗りそうだからNGで。(心地良さそうな彼女を見て茶トラのシルエットをこっそり重ねつつ、軽い口調で紡いでいく。夏休みに入っても彼女とこうして言葉を交わすことが出来れば幸いなことこの上ない。そんな事を頭の片隅で考えつつ、改めて呼びかけられてはぱちりと瞬きその双眸を見つめ返した。)………うん、高梨さえ良ければ。見に来てくれたら嬉しい。(いつの間にか扇ぐ手は止まり、彼女の声を遮るものは無くなっていた。今のチームで戦える最後の夏。静かな瞳の奥に宿る光が、彼女の言葉を受けて一層輝きを増すようだった。負ける気などさらさらない、頂点を掴み取るのは自分たちだと信じて疑わない。けれども彼女が見ていてくれるならより気合いも入るというものだ。)なるほどね…確かに、楽器弾くのって結構体力いるもんね。吹部とかも外走ったりしてるし。(彼女の前に鎮座する見えないピアノを脳裏に描いては、「それ何て曲?」と尋ねてみる。生憎音楽に明るい訳では無いし、タイトルだけではピンと来ないかもしれないが、好きな人の事なら何だって知りたいというのが恋心。)やっぱ上半身中心かあ。……俺もちゃんと、高梨のピアノ聴いてみたいな。(机に突っ伏しては顔を上げ、いつか聞かせてくれる?と問い掛ける。彼女が一等愛するそれにどんな風に向き合い触れるのか、見て見たかったから。)
Published:2019/06/05 (Wed) 00:44 [ 25 ]
えっ……うん。……そんな方法があるの?
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高梨藍
(「なっ、なんで笑うの…!」予期せぬリアクションに赤くなるけれど、授業中にしか得られない情報を共有されれば異議を唱える言葉はかき消える。待って待って、と慌ててノートにペンを走らせた自分を、彼はまた笑ってくれるだろうか。――告白すればいいのに。藍だってさすがにそこまで鈍くないでしょ。彼がこちらから目を離したところを狙ってそうっとその横顔を盗み見ると、友人たちの言葉が頭のなかで響く。自分でもそう思うときもある。残り1年を切った高校生活、恋人同士として過ごせたらと。でも――今しかないから。少女は答える。わたしも彼も、今しか登れない山頂の景色を求めているから。この恋をきっかけに、さなぎから蝶へと羽化するように華やかになった音色。間違いなくこれまででいちばんの演奏になる。隣で高みを目指す彼の存在が自分の背中を押していることが、少女はとても幸福だった。そしておそらくは同じような感覚を、彼も抱いてくれていることが。)……う、ん、これで分かった…気がする!さすが松川先生、教えるのが上手だなあ。(元に戻ったおたがいのポジションにほっとしつつ、ほんのすこしだけ名残惜しかった。大きく頷いてへらと笑い、「その物真似コレクションどこで披露するの?」と軽口の応酬。それから課題に集中しているポーズを取ることで、跳ねた心臓を落ち着けるための時間を得よう。正しい場所へおさまった計算式を、心の中で悪態をつきながら順番に倒してゆく。――よそ見なんて、しないよ。ずっと前からしてないよ。まっつん。)もち、声かけるよ!ええっ、本当に?うれしい。じゃあ今年は、バレー部の写真を出そうかな。……ああ、トオル王子ねえ。あのひとルックスは文句ないけど、写真慣れしすぎよね。もうちょっと自然にしててほしいんだよね。(「意地でもフレームインしてくるし、すごい目線くれるし。」左のてのひらを頬にあて、ふぅとわざとらしくため息をついてみせる。と同時、やっぱりなるべく学校に来ようと決意を新たにするのであった。夏休みは長いのだ。会えるチャンスはぜんぶ活かしたい。だから、)――……っ、うん!(「来ていいよ」という自分のねがいへの承諾ではなく、「来てくれたら」と彼の方からも希望のかたちで差し出された言葉が嬉しかった。パッと花火が宙で咲くように破顔する。飾り気のないその表情は、平素よりあどけないものだった。)そうなんよ。吹部とか演劇部とかね、体育系文化部はからだも大事なのよ。(ピアノなんて縁がないだろうに、理解を示してくれる彼は優しいと思う。興味を持ってもらえたことも嬉しくて、「きらきらぼし変奏曲!」と明るい声音で応えた。童謡としても知られ、有名なアニメでも使用された曲だから、きっと主旋律は思い浮かぶはず。そんなふうに考えながら机に伏す彼を不思議そうに見つめていたけれど、)――……、(聴かせてくれる?問いかける声がいつもよりもやわらかな響きを帯びていた気がして、まばたきも忘れて彼の視線を受け止める。すこしの沈黙のあと、「うん。」とていねいに頷きはにかんだ少女の頬は、とびきりあまやかな色をしていただろう。)
Published:2019/06/05 (Wed) 16:57 [ 29 ]
あるんです。此処だけの話なんだけ…おっと誰か来たようだ。
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松川一静
(「いやなんか、つぼっちゃって?」と事実をありのままに述べるけれど果たして納得してもらえるかどうか。制止の声に素直に従う辺り、我ながら甘いとは思う。これがチームメイト相手ならばお構いなしに読み上げ切っていたことだろう。友人であるからこその、ぬるま湯のような心地よさ。けれど確かな距離があるからこそ互いに寄りかかる事無く、其々の目標に向かって走る事が出来るのだろう。今は唯、目の前の事に集中することこそが最優先。彼女もきっと頂点目指して走り続けているのだから、自分だって負けていられない。その為部活に影響が出ないよう勉学に励んでいたというのもあるけれど、彼女とふとこうした時間を作るに繋がったのなら睡魔に打ち勝った甲斐もあるというものだ。)そう?高梨の飲み込みが早いんだよ。お陰で先生は楽ちんだった。(ふう、と一息ついては椅子の背に体重を預け、考え込むように視線は天井へ。髭を撫でる老人のような仕草で顎に触れたなら、瞳を閉じて大袈裟に唸って見せた。「…とりあえずは合宿中の隠し芸大会かな。毎年商品が出るから負けられないんだよね。」緩やかな弧を描いた口元から紡がれるのは嘘か真か。真偽はさて置き、自分もノートを捲っては次の授業範囲に目を通す。時折彼女を盗み見ては、その真剣な横顔に此方も触発されて暫くはペンの走る音と時計の秒針が刻む音ばかり室内に響くだろう。二人きり、この静けさが心地良いのも相手が彼女であるから。)やった。写真映えするかはともかくって話だけど、動きは割と激しいから……撮り甲斐はあるんじゃないかな。……ほんと、すぐ格好つけるからなぁ。でも練習中なら大概岩泉がいるし、その辺は心配いらないんじゃないかと思うよ。(お目付け役とも言える日頃の何気ない掛け合いを思い返しつつ。「フレームインしようとしてぶれっぶれになった及川の写真コレクションが実はある。」とは此処だけの話。撮る側も大変ネ、と頬杖を突いては苦笑いを返せば――西日に染まり、夜空を彩る大輪にも似た笑みが瞳に焼き付いて。見開いた双眸は瞬きの後に柔くとろけ、胸に秘めた恋情を色濃く宿す。)文化部だからって侮れないね…自分と同じくらいの大きさの楽器を扱ったり、演劇部だとマイク無しで声出したりもするわけだから、当然っちゃ当然だけど。いやはや、恐るべし。(神妙な顔付で頷けば、彼女の言葉にそのままぽんっと拳を掌に打ち付ける。閃けば途端鼓膜を揺らした気がした旋律。何となく懐かしくて、鼻歌でも口遊んでしまいそうだ。だらしない姿勢で、けれど視線だけは逸らさず彼女へ。夜空に輝く星にも似たその眼差しが一層煌めいては、綻ぶ。自身がもしも彼女と同じ部に属していたならば、きっとこの瞬間シャッターを押すだろう。生憎機材は無いので、忘れぬよう真っ直ぐに見つめ柔く口元を緩めて見せるにとどまるのだけれど。)じゃあ、約束。(そう言っては立てた小指を差し出した。)
Published:2019/06/05 (Wed) 23:48 [ 31 ]
ふむふむ此処だけの……ってまさかの寸止め!ど、ドS…!(笑)
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高梨藍
(打ち解けるまではすぐだった。決定的にこころが攫われたのはきっと、初めて試合を見たときだ。涼やかな瞳の奥でしずかに匂い立つプライド。相手の攻撃を阻む射抜くような視線。何気なく向けていたレンズから、指が離れた瞬間を覚えている。ほかの一切が無彩色になり、彼だけがくっきりと鮮やかだった。正念場となる今年、この恋を得た自分は強い、と少女は思う。彼との些細なやりとりすべてが、自分を高みへと押し上げている。――笑った理由を告げられれば、いまだ照れ隠しにふくれてはいるものの矛は収めた様子。)あはっ。よかった、先生に苦労させなくて。えっそれ本当?かくし芸大会なんてやるんだ。リベロの……渡くんだっけ。とか、恥ずかしがりそう。(意外にも大舞台だった披露の場にくすくすと笑いながら、ひとつ下の純朴そうな少年の名前を挙げる。他の3年メンバーとはこれまで何かしらで一緒だったから交流があるけれど、他学年の子は彼と一緒にいるときに挨拶を交わす程度だから、あくまでイメージの話だ。「男バレ、ほんと仲良しだよねえ。」にこ…と穏やかに瞳を細めて言う。男子特有のノリと息の合った掛け合いは微笑ましくて、見ているのが好きだった。しばしの静寂。多少厄介とはいえ授業の延長として出された課題だ。解法の糸口も掴んだとあれば、ほどなくして少女の「できた!」という誇らしげな声が響くことだろう。)撮り甲斐も写真映えもありありだよ。岩泉はなんか、しょっちゅう怒ってるよね。王子に。お母さんみたい。(自分と話すときは比較的おだやかな声音のエース。彼の幼馴染に対する当たりの強さを思い返し、少女は薄くわらった。「ぶれぶれ及川コレクション……!!」打ち明けられた事実には我慢できずに吹き出して、両手で口を覆うことだろう。――バレーに向ける情熱をはらんだ双眸が、自分の返答を受けてその色を柔らかなものへと変えたのを、少女は胸が痛くなるほどの高揚感をもって見つめる。そんな顔、ずるい。必死で押しとどめている気持ちがこぼれ落ちてしまいそうで、ちいさく唇を噛んではゆっくりと数度まばたきを重ねた。言葉がなくとも、こんなにも伝わるものなのか。1秒ごと違う彩を映す、わたしたちに与えられたふたつの宝石。)まあね!でももちろん、わたしの運動量なんてまっつんには全然及ばないけどね。応援に行くたびにね、思うんだ。すごいなあって。(簡素な語彙だからこそ、敬愛の気持ちも素直に乗る。曲名を聞いて合点した様子の彼に、「聞こえた?」と小さく首を傾げて笑った。)――……、(自分を見つめる彼の瞳が、やさしく弧を描く唇が、こんなにも心を揺さぶるのは夕日に照らされた教室の儚さゆえか。約束。その単語から意図を汲み、彼の表情と小指とを交互に見つめた。おずおずと寄せた小指は、わずかに彼のそれに触れるに留まる。幼いころのように無邪気な指切りは、少女のほうからは出来なかった。)……うん。約束。(でも、引き寄せて、からめとってほしい。そう思ったらわがままだろうか。ああ、心臓がくすぐったい。)
Published:2019/06/06 (Thu) 18:36 [ 36 ]
先が気になって寂しい所じゃなくなったでしょ?(笑)
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松川一静
(目眩く移り変わるその表情に引き寄せられる。打算も計算も無く、ただシンプルに心惹かれていく。これまで何者にも固執したことなど無かった男にとって、彼女と接する中で生まれる感情は初めてのものばかりだ。それを音に乗せることは今はまだ、けれど指先に纏わせるくらいなら許されようか。まだ少し納得の行かない様子を見せる彼女の頬を人差し指の背でそっと撫でれば「高梨も今日はたくさん寝てね。」と言い返し。)うん、恒例行事。言ってもそんな大したものじゃ無いけど……そうだね、みんな最初だいぶ戸惑ってたなー。事前告知無しのぶっつけ本番勝負だったから仕方ないけど。(懐かしさに目を細めつつ、思い返した無茶な振りには少し反省するところ。指先で頰を掻きながら「まーね」と端的に返すのは彼女の微笑みが暖かで気恥ずかしさが芽生えたから。団結力は自負する所、けれどそうと表現されると素直に頷くのも何だかなといった具合。自分で言うならこうも妙な羞恥が芽生えることは無いだろうに。そう言う意味では互いに課題に向き合う時間が有り難かった。彼女の嬉しそうな声が響く頃には気持ちも切り替わり、ペンを置いて「おめでと〜」と緩やかに告げたなら続けて疑問点は無かったかと首を傾げ。)怒ってるっていうか、怒らされてるっていうか…? それ本人に言っちゃダメよ、高梨さん。てか王子ってなに?(愉快そうに弾んだ声音のまま鞄にしまい込んでいたスマホへ手を伸ばす。目当てのフォルダを開いたなら「俺の一押しはこれ」と。三年生が密接した画面の隅、一人だけ躍動感に溢れた主将が写り込む一枚。ピースサインだけは辛うじて分かろうがその表情は全くの謎である。――揺らぐ瞳は、光を反射する水面の様。秘めた思いが、伝わってくるかのようだった。心の鏡と言われる所以も分かるというものだ、その眼に映る自分もきっと今、同じ感情を滲ませているに違いないと、衝動的に伸ばしかけた手を寸でのところで堪えた己は偉いと思う。現状維持。お互いを思えばこその選択を、今はまだ捨てるわけには行かない。)はは、ありがと〜。応援もいつも励みになってるからさ、今後ともよろしくね。これほんとに。(にこにこと分かりやすい笑顔はそれだけ胸中が喜色に染まっている証。聞こえたよと頷いてはつられる様に笑みを深める。普段あまり仕事をしない表情筋がずいぶん素直に緩むものだと、他の誰かに見られでもしたら驚かれるかもしれない。)……………嘘ついたら、ん〜…ガストのハンバーグ奢りってことで。(他愛ない負荷を追加し触れた指先を逃さぬ様絡め取る。自分よりも細いそれに触れる口実が常欲しくないのかと聞かれれば答えは否、だからこそ緩慢に遊び歌を紡いでは離れるその瞬間を先延ばしにする。二人だけの秘密の約束、果たされるのを心待ちに。)
Published:2019/06/07 (Fri) 12:48 [ 40 ]
……えっ?ちょっと松川さんテクニシャンすぎません?(笑)
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高梨藍
なんかわたし、しょっちゅうまっつんのツボに――……、……。!(ひっかかる、と続けるはずだった言葉が、奇襲によって遮られる。くるり、最初に見開かれるのは瞳。やや遅れて頬に触れているのが彼の指だと理解すればボンと音が聞こえるほど一気に耳まで赤くなった。あわてて喉の奥へ引っ込んだ二の句は、「んっ、」という小さな吐息だけを残して逃げる。寝てね、に何度も大きく頷けば、いよいよ反論の余裕は尽き果てた。)告知なし…なんて無茶振り…!でも、ふふ、面白そう。うちの学年は特にノリいいもんね。全員一芸持ってそう。(彼を含めた背番号1234の面々を思い浮かべて、先輩がこれでは下の子らも腹をくくるしかあるまいとこっそり同情する。仲良しの言葉に照れた様子の彼を見て、少女の方は笑みがまたひとつ深くなるのであった。「ありがと~」口調を真似て返せば、ぐーんと大きく伸びをする。最後まで面倒見のいい彼の問いかけには、大丈夫!と感謝をこめて微笑もう。)王子が、怒ってもらいたがってるっていうか…?う、了解。岩泉はのっとお母さん。……うん?及川のあだ名!下級生の子とかが、王子さまみたいって言ってたから。(揶揄も大いに含んでいるけれど、余計なことを言わなければ見目麗しく聡明な主将だと認めているからこその愛あるニックネーム、のつもり。そんな王子の悲惨な瞬間を捉えた1枚は想像を越えるインパクトで。「あっはっは!お、及川……やば…!」涙が出るほど笑ったあと、「はー…これやばい、#及川の写真へたくそ選手権 優勝じゃない?」と息を切らしながら絶賛しよう。――現状維持。互いがその道を選んでいるのは目標の存在もさることながら、少女にしてみれば、今のままでも十分すぎるほど満たされているからというのも大きいかもしれない。同じ教室で学び、こうして笑い合える。好きなひとがすぐそばにいる幸福感は、片想いであってもきらきらとまぶしい。)えへっ、もちろんですとも!大ファンの松川選手にそんなふうに言ってもらえるなんて、わたし嬉しい。(100点満点のファンサービスに、わざとらしくはしゃいだ演技を織り交ぜながら応じる。声張るためには腹筋もしなくちゃねえ、ときりっと眉を上げて、先の筋トレの話に付け足しつつ。)…………えっと…それは1人前…デスヨネ?(彼の穏やかな声で紡がれる、ゆったりとしたテンポのメロディ。寄り添うようにオクターブ上を歌えば、その顔にも悪戯っぽい笑みが戻った。こちらの恥じらいを物ともせず絡めとってくれた指は力強くて、すこし硬い。思うと同時、試合中何度も相手のスパイクを蹴散らす頼もしい姿が脳裏に浮かんだ。蒼い城への侵入を阻むそれはまるで、)――……。及川が王子なら、……まっつんは、ナイトだね。(やわらかな雨だれのような声でつぶやく。かっこいいね。てらいのないほほえみで差し出したそれは、殆ど彼女のこころそのものだ。)
Published:2019/06/08 (Sat) 14:26 [ 46 ]
こんなのテクニックでも何でもないよ、オチが無いってだけ(笑)
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松川一静
(続く筈だった言葉が霧散し、今し方触れた頬の熱が上がるのがよく分かった。その心に波紋を広げたのが己と分かっているからこそ、男の瞼は柔く弧を描き笑む色を一層深くするのだ。もう少しくらいならばいいだろうか、と周囲に人の気配が無いのを良い事に、揺れる頭頂部にぽふりと掌を乗せたなら「いい子。」なんて幼子へ向ける様な声音で紡いでは柔く細い髪を撫ぜた。言葉に出来ない代わりに触れたがる、それは現状における極上の愛情表現。)無茶振り可哀想だから~って声も上がるんだけど、少なくともここ三年は毎年やるんだから皆好きなんだよね~。何なら三年の合わせ技とかもある。写真部は……そういうギャグなノリはあんま無さそうだよね。(クラスを一歩出てしまえば、彼女について知っている事はまだまだ少ない。些細な事でも知ることが出来たならと話題の矛先を向ければ他愛ない話に花を咲かせつつノートを閉じる。心配無用と言いたげな笑みに戯れるようサムズアップを返したなら、自身も教材を鞄の中へ仕舞い込もう。真面目な時間は一先ず此処まで、あとは彼女との他愛ない会話を楽しむべく邪魔な物は片すに限る。)ちょっとマゾ入ってるから……。うん、それでよし。まぁお母さんみたいって思うのも分かるけどね、普段のあの二人見てると小学生と母って感じだし。うわ~…まじでか。流石及川。(尊敬は然程感じられない淡白さで紡がれた言葉の真意は、早く目を覚ました方がいいとの憐憫。確かに黙らせた状態を傍目から見ればそう輝かしく見えない事も無いのだろうと思いつつも、実態を知っているからこそ何となく愉快な心地である。王子とはお世辞にも言えぬ瞬間ばかりが集められたフォルダを今まさに漁っているから尚更。他にも数枚スライドさせて披露したならば、「バズるの間違い無し」なんてきりりと引き締まった顔で言い放つ。バレーとはまた違った楽しさと充実感を彼女はいつも与えてくれるから、そんな彼女を笑顔に出来たならそれだけで幸せだ。ネタが主将というのは些かの申し訳なさもある為、詫びとして今度肉まんでも奢ろうと思いつつ。)………さぁて、どうでしょう?それは当日のお楽しみってことで。(重なった声が橙色の教室に小さく響く。他愛ない約束でも、また一つ心を支えてくれる柱となろう。細いだけでは無い、確りとした芯のある指先。いつか小指だけでは無くその手ごと絡め取る日を待ち望みながらその歌の最後のフレーズが零れ落ちる。)……じゃあ高梨はお姫さま?……でもそうなると、王子の及川と結ばれる運命になるので却下として……んー……宮廷音楽家とか。(余計な装飾の無い真っ直ぐな言葉は強い。とくりと跳ねた鼓動が耳の良い彼女に聞こえていないことを祈っては、ifの世界でも己が隣に立てるよう配置を考え込む。)……なんてね。そろそろ暗くなっちゃいそうだし、帰ろうか。――…あ、自販機寄る?(名残惜しいけれど、今日は此処まで。あともう少しの延長を望んだが故の寄り道は果たして聞き入れられるかどうか。駅までの帰り道でも他愛ない事を二人で話しながら、時折触れ掠める手の甲を繋ぎとめる事の出来ない距離をもどかしく思うだなんて、今はまだ言えないまま。今日も二人、友人らしく笑ってさよならを言い合おう。)
Published:2019/06/09 (Sun) 21:37 [ 50 ]
予期せぬ角度の解決法だった……おぬし、やるな(笑)
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高梨藍【〆】
(簡単に赤くなる自分よりもそれを見て微笑む彼は一枚も二枚も上手だ。余裕をにじませるまなじりが、けれどたまらなく好きなのもまたくやしい。素っ頓狂な悲鳴を上げることだけはかろうじて耐えた自分を褒めたい――そう安堵した少女を、)………っ、まっ、つん、(なお攻める手を緩めないこの男は、本当に厄介なひとだ。夕日を透かして揺れるましろいレースカーテンだけが見ている、ひそやかな接触。大きなてのひらがさらさらと髪をすべるのが心地よくて、少女は思わずじっとその双眸を見つめた。ねえきみは、わたしをどうしたいの。これ以上好きになったら、もう隠しておけないかもしれないのに。)合わせ技めっちゃ気になる…!えっ…合宿忍び込んだら見られる……?写真部はねえ、わ~!って騒ぐのはわたしくらいで、静かに盛り上がる感じかも。人狼ゲームの猛者がたくさんいる。(「だいたいわたしが最初にバレて吊られる。」解せぬと言わんばかりに唇をとがらせながら、別のコミュニティでの様子を楽しげに話して。ぴこっと挙げた親指は、課題を倒した解放感で軽やかだ。片付けが準備の倍は早く終わるのも、雑談の許されるボーナスステージを楽しみにしていたからこそ。)王子の甘え上手と岩泉の面倒見のよさが相性最高なんだよねえ……。ね、さすがだよね。他校の制服着た子も見かけたことあるよ。(あっさりとした口調にくすくすと笑って同意を示しながら、「まぁ……ふふっ、く、こういう残念なところも含めて、スキだけどね……っ」なんて続けよう。次々くりだされる決定的瞬間の数々に、おなか痛いよぉ、と降参の声があがるのも間もなくのこと。)うむむ……でも嘘ついたら、だもんね。あっ、花巻とか連れてくるのもなしだからね!(なんて、予算の心配の振りしてちゃっかり"ふたりきり"の確約を取ろうと。ピアノを弾いて聞かせる約束を果たせば幻となるデートだと思えば、それもまた惜しいような気もした。両方叶える方法はないものか。わらべうたに忍ばせるのは、そんなわがままな願い。)……えっ!ひ、姫、………あはっ、それいいかも。ナイト松川も聞きに来てくれるんでしょ?(こともなげに返された言葉にパッと瞳を見開く。お姫さま。それって。想う相手からとくべつの称号を得たかと舞い上がりかけたけれど、即座に下された却下の理由を聞けば納得するほかなくて「やぁだあ」ところころ笑った。おしゃべり好きな宮廷ピアニストの奏でるピアノの、譜面台にもたれかかって笑う騎士。Ifの世界でも仲良しでいたいなと思う。甘えるように、首をかしぐ。)そだね、かえろ。自販機寄る……あっ、コンビニでもいいよ?わたし雑誌の新刊、見たいんだった。(寄り道の意図を正しく汲んで、そのもうすこしをさらに引き延ばさんと選択肢を作る少女は恋ゆえの計算高さを出し惜しみしない。どんな話題でも、なにを買い食いしても、かんかん照りでも大雪でも、彼との帰り道なら幸福だった。帰路が分かれるそのときまで、少女の笑い声は絶えなかったことだろう。「まっつん、今日は本当にありがと。」改札口、最後にあらためて感謝を述べる。そうしたら、「またあしたね。」いよいよ今日は、さようならだ。)――……、(ばいばい、と手を振りひとりになった電車のなか、少女はそっと右手の小指に触れた。ゆびきりげんまん。脳裏によみがえるメロディに、泣いてしまいそうになるのはなぜなんだろう。扉の硝子窓に手を添えて、夜の帳に沈む街並みが流れてゆくのを見つめていると、からだの内側からひかりの粒が次々生まれるような心地がした。不意に衝動が胸を突く。ああ、弾きたい、今すぐ、ピアノが。 やわらかく綻ぶ彼のまなざしを思い出しながら、少女の指が透明な鍵盤で踊る。)
Published:2019/06/11 (Tue) 02:36 [ 53 ]