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(高校最後の作品を撮る相手は、一方的に決めていた) |
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![]() 土井花音 |
(昼休み開始のチャイムが鳴り響く中、教室は授業が終わったことによって気が抜けたような空気になっている。それぞれ話しはじめ賑やかになってきた所で、今日こそは言おうと思いを決めて席を立つ。いつだって彼に話しかける迄にほんの一拍程の間に息を吸うのは、彼を異性として意識してから僅かに残る緊張と逸る心を落ち着かせるためのルーティンのようなもの。それを彼の元に向かう間に済ませれば、常のように彼に声をかけようと購買に行ったのか空いた彼の前の席に手をかけ)岩泉、今ちょっと良い?あ、本当にちょっとで良いから(そう相手に断りを入れながらも前の席を陣取るように椅子の向きを彼に向けて座り、座ったことで目線が近くなれば僅かにうるさくなる心音につられて僅かに視線をさ迷わせて)その、さ……バレー部エースの岩泉に頼みというか、お願いというか、依頼?があるんだけど…(彼の目をしっかり見て話すのはいつものことで、この時期バレー部も忙しいのは重々承知してるが刻一刻と近づいて来る放送コンテストの日に放送部も現在てんてこ舞い状態だというのは耳にしているだろう、なんて思うのは自惚れが過ぎるだろうか。自分でも珍しく最後まで言わずに彼の様子を伺うのは彼が主人公のドキュメントを作りたい旨とそのために映像とインタビューを撮らせて欲しいというのが時期的な事で少しだけ申し訳ないという思いがあるからだ。) |
Published:2019/06/02 (Sun) 07:19 [ 5 ] |
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番組作るとき、土井ってなんの役すんだ?プロデューサー? |
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![]() 岩泉一 |
(「今日はここまで。」と淡白に告げる教科担当教師の声と、授業の終わりを告げるチャイムの音。二つの旋律がぴんと張り詰めた教室内の空気を緩め、まるで波が寄せては返すようにささやかなざわめきが段階を踏んで大きくなる。まだまだ受験シーズンまでには時間があるとはいえ、曲がりなりにも受験生という肩書を背負った教室は、去年までより少しだけ授業に緊張感を生んでいた。まだもうしばらく――少なくとも春高が終わるまでは受験生(これは肩書ではなく本人の意識の問題だ)になるつもりのない岩泉は、睡魔に打ち勝った自らをほめながら、凝り固まった筋をぐっと伸ばす。ひとつ前の休み時間に弁当は胃袋へおさめたが、男子高校生の旺盛な食欲はとどまることを知らないらしい。ぐうと主張する腹の虫にため息を零し、いつものように購買へと向かおうと席を立とうとした瞬間、耳慣れた声が鼓膜を打った。)土井。別にいいぜ。なした?(振り返った先にいるのは、クラスの中でもよく話をする少女だ。ほんのわずかに瞳をやわらげ、岩泉はそのまま自らの席へ座りなおす。心地よいソプラノを聞きながら、彷徨う視線に首を傾げた。)なんだ急に、改まって。別に頼みくれえ、俺に出来ることなら聞くけど。(岩泉には、じっと人の目を見て話す癖がある。それは時に威圧感を生むが、彼女と会話するときにはいつだって平素より柔らかな色を宿していた。絡まる視線が心地よい。聞きなれぬ「バレー部エース」なんて改まった称号に小さく噴出した。小さく首をかしげる岩泉は、彼女の意図を察することなく続きを促す。自分へ向くものにはとんと疎い男であった。) |
Published:2019/06/02 (Sun) 23:03 [ 10 ] |
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基本何でもかな。プロデューサーもディレクターもやるしね。 |
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![]() 土井花音 |
(声をかける寸前の彼の動作から、昼休みに入る前に既に彼がお弁当を食べている姿は目にしていた事を思い出し逸る気持ちのままに行動を起こした事を僅かに後悔するけれどもそれはそれ、と気持ちを切り替えて彼の厚意に甘えようと口角を上げて)ありがとう!岩泉が購買に行く時間はちゃんと残すから安心して(なんて少し笑って。視線を合わせて話すのは何時もと変わらないけれど、彼の瞳の雰囲気があの有名な幼馴染や友人達と会話している時やバレーの時と自分と相対している時と違うと気づいたのはいつだったか。気が付いてからはその瞳をちゃんと見たいという欲と見られているのだという面映ゆさにいつも心は落ち着かないが、それでも目を見て話す事を止めようとは思わない。)本当?!言質取ったからね?後でやっぱなしはやめてよ?(なんて思わず身を乗り出して矢継ぎ早に言葉を紡ぐのは、バレー部の主将にも彼本人から既に了承を貰ったと堂々と言って撮影をしたいから。やった、と喜色を浮かべてから肝心の内容を伝えていない事を思い出せば、座りなおして誤魔化すように咳ばらいを一つ。)今度うちの放送部も大会があって、そのドキュメント部門の1作品を私が担当するの。だから……、岩泉、私の作品の主人公になって。お願い(先程までの喜色を浮かべていた表情を押さえて、真剣な顔で彼の反応を窺いながら改めて依頼をする。自分の高校最後の集大成としての作品をイイものにする為には何においても彼の協力が不可欠なのだ。緊張から膝に置いた手が微かに震えているのを隠しながら、彼の一挙手一投足を見逃すまいと言わんばかりに彼を見つめて返事を待つ。) |
Published:2019/06/04 (Tue) 00:16 [ 18 ] |
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すげえな。大人んなったらエンドロールに土井の名前探しそう。 |
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![]() 岩泉一 |
(購買へ出かけようとしたところに声をかけられたのだとしても、岩泉としては怒る心算は毛頭なかった。それこそ声をかけてきたのが幼馴染で在ったならばいざ知らず、彼女からの呼びかけに応じぬという選択肢はもとより持ち合わせてはいないため。気遣うことばがかかったならば「いーべ、気にすんな」と答えるように笑みを浮かべよう。互いを思いやる穏やかなやりとりが心地よい。)男に二言はねーべ。……ねーけどよ、俺に協力できることに限るかんな?そんな難しいこと頼もうとしてんの?(岩泉とて、己のことばを翻すつもりは毛頭ない。――が、前のめり気味の彼女があまりに懸命に念押しの言葉を重ねるものだから、勢いに圧され僅かに怯む。さて、こんなにも彼女の瞳を歓びに染めるもの事とは何だろうか、と言葉を待つ間考えた。普通に考えれば、彼女がその華奢な躰の内側に渦巻く情熱をささげてやまぬ、放送部関連のことだろうが――ほどなくして、答え合わせの時は訪れる。)………俺?(彼女のささやかなお願いに、素っ頓狂な声が出た。ぱちり、瞬く瞳は驚きの色を称えて。)……俺でいいんか?俺より、及川とかの方がカメラ映えすると思うけど。(続いて紡いだ言葉は単純な疑問。卑屈なわけでは全くないが、己の容姿が優れているとは思わない。バレーだって実力で劣っていると思ったことはない者の、優れた容姿で女子を侍らす幼馴染の方が、カメラ映えはするし、テレビ受けするエピソードがいくつも描けそうな気がした。故の疑問だ。) |
Published:2019/06/06 (Thu) 01:18 [ 33 ] |
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なら、何かでエンドロール載れるようだったら岩泉に教えるね。 |
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![]() 土井花音 |
(昼休みに空腹を満たしておくことは放課後に部活動のある生徒にとって重要な事。だからこそ短めにと思ってはいるが彼との会話は長く続いてしまう事もあるため、長くなった際は自分のお弁当箱に堂々と存在するお握りを差し出す事を決めて。それでも気にするなと言って貰えば「ありがとう」と笑みを浮かべて返そう。)そう言ってくれて良かった…。あ、当然岩泉が協力できる範囲だし、難しくない!難しくはないけど、このインターハイ前の忙しい時に岩泉の時間貰うからさ。でも基本手間は取らせないようにするから!(インタビュー内容に厚みを持たせたくとも規定時間を考えるとそう多くは使えない。カットするものも当然出てくるだろうが、妥協なんてしない。珍しく怯んでいる彼の様子に思わず、カメラ欲しい。なんて思ったが、確認の為か驚きの為か復唱された事に大きく頷いてみせる。そうして続けて紡がれた言葉に驚きから目を丸くしたなら首を横に振り)及川は…こう言っちゃファンの子とかに刺されそうだけどいらない。いや、岩泉関係で映るなら別に良いしバレーしてるとこ撮るなら切っても切れないものだろうけど…顔が良くてもあいつを私の作品の主人公にしたいとは思わないかな。(そうキッパリと誤解の無い様に言い切る。確かに彼の幼馴染はカメラ映えはするだろうし、エピソードも営業スマイルもお手の物だろう。でもそれは誰かが既にやっている事だし、何より目の前の彼には気づかないで欲しいが此方が一方的に彼関連の事でライバル視している部分もあるから却下だ。相手方からも分かっているというような言動をされれば余計に、だ。)それと、これだけは言っておくけど岩泉「で」良いんじゃなくて、私は岩泉「が」良いの。バレー部の誰か、じゃなくて岩泉を撮りたいの。そこの所、間違えないでよ?私が撮りたいと思ったのは岩泉なんだから。(指差しまではしないが、再び前のめりになりながらも彼の言葉で気になった所を間違える事なくキチンと強調して伝える。他の誰でもなく、好いている彼を撮りたい。そう思ったのは自分。劇的なエピソードが欲しいわけじゃなく、ただ誰だって成長しながら前へ進んでくことを主に置きたいと考えた時に、此方が眩しくなるほど真っ直ぐ進み、エースと呼ばれる実力を持ち、背中でついてこいとばかりに後輩達を引っ張る彼を撮りたいと思ったのだ。そんなある意味ありふれた内容で全国に行けるのか、なんて言われなくても難しい事は重々承知の上。それでも自分の培ってきた力全てと、彼の画で、全国へ行く。ただそれだけ。) |
Published:2019/06/08 (Sat) 13:29 [ 45 ] |
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すげえ楽しみにしてる。DVDとか出たら買いてえな。 |
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![]() 岩泉一 |
(いらないという言葉は語感こそ強いが、まっすぐな言葉選びは彼女のひたむきさをよく表しているように思った。「及川が聞いたら拗ねんべ」なんて笑い交じりに紡ぎつつ、彼女の言葉に耳を傾ける。印象的だったのは、「彼女の作品の主人公」という一続きのことばであった。口の中だけで繰り返す。意志の強さを示す釣り目は、ぱちり、ともう一度瞬いた。)………ふはっ!なんだそりゃ、(前のめりに伝える彼女の言葉は、驚くほどしっかりとした強さを伴って岩泉の方へと向かってくる。思わず双眸が緩み、笑い声が上がったのは、彼女の言葉が純粋に嬉しかったためだ。褒められるとくすぐったい。)土井は俺のこと買いかぶりすぎだべや(くつくつと愉快げに笑い声をあげながら、伸ばした無骨な手はぽん、と彼女の頭の上にのせられた。「でもありがとな」と続く言葉は心底の喜色をまとっていることだろう。数度ぽんぽん、とあやすように頭を撫でたら、ふっと息を吐いて。)俺がそんな言ってもらえるほどのもんかはわかんねえけどよ、そりゃうちの部の中でバレーに×想いが負けてるとかは思った事ねえし。そうやって、土井に撮りてえって思ってもらえんのは嬉しいわ。その分答えてえって思うしな。……男に二言はねーべ!なんでも言えよ(にかっと明るく笑って言葉を紡いだ。さて、なんでも言えなんて大見栄を切ったはいいが、結局岩泉は何をすればよいのかまったくわかっていない。彼女の方へ向き合ってこちらもわずかに前のめりになりつつ、)ところで、撮影って具体的に何すんだ? |
Published:2019/06/10 (Mon) 00:13 [ 51 ] |
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なら、DVDが出るまでになったら一枚送ろうか? |
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![]() 土井花音【〆】 |
(「別に及川が拗ねても何とも思わな…いや、鬱陶しさが増す?」なんて小首を傾げ、彼に迷惑をかけるならと「面倒そうだから及川には内緒で」と付け足して。彼から眼を離せないのはいつもの事にしても、目の前で変わる彼の表情を撮りたいという欲がこうも出てくるのは許可を貰ったが故か。)何って、そのまんまだけど?(何か可笑しな事でも言っただろうか、と眼を丸くするも、彼の笑みに自然と視線は惹き付けられる。そうして伸びてきた彼の手が自分の頭に乗った、と認識すれば一気に顔が熱を持ったかのように頬が熱くなった。彼の言葉も聞こえていたが、反応しようにも自分よりも大きく強い手に意識が行ってしまう。)…買い被りすぎなわけないでしょ、ばか(なんて可愛げのない言葉をようやく口に出来たのは彼が一息ついてから。そして続けられた言葉には少しばかり唇を結んで。)……私にとっては岩泉がそれ程の相手って事!他の奴が頑張ってないとは思ってないけど、岩泉があの及川の相棒やってるのも、頑張ってレギュラー勝ち取ってエースになったのも…一年の頃から見てたから、知ってる。(強豪と呼ばれる部活動が多い青城の中でも、先輩に連れられてバレー部の練習を見学しに行った時に彼のスパイクを見て、視線を奪われた。きっとあれを一目惚れというのだろう。そんな相手に自分が撮りたいと思った事を嬉しいと言われたのだから、頬が緩むのも仕方ない。だからこそ「ありがとう」と改めて言葉にして。)ん?岩泉は基本そのままで大丈夫。普段の画を撮るのにカメラを回してるだけだし、それも私がやるからさ。安心して、構図とか頭に入ってるし絶対良い画撮るから!あ、でもインタビューと再現Vとか必要な時はお願い!インタビューは…まぁ普段と変わらないと思って?再現Vはちょっと構図指定とかするかもだけどね。(先程よりも近付いた距離にまたしても心臓が跳ねるも、彼の質問で放送部としての自分に切り替えが出来たから御の字だ。そうしてほっとしたのも束の間、自分の腕時計が目に入れば目を丸くして。)やばっ、岩泉ごめん!昼休み半分過ぎてる!(購買のめぼしい物も売り切れている頃合い。この席のクラスメイトも見渡せば疾うに戻って来ていたようで、慌てて席を立つと当初に予定した通り、自分の昼食からおにぎりを二つ取り出し「良かったらこれ食べて!」と彼の返事を聞く前に机に置いて行こう。)じゃ、これからは放課後とか試合とか岩泉の事撮りに行くから!(そう、ニッコリと笑みを浮かべて昼放送を行っている放送室へ向かう足取りは軽やかに。そうして放送室の扉を開ければ「岩泉の許可、貰った!」と部員に周知させて残りの昼休みの時間を「顔が赤いけど、どうした?」なんて言葉を無視しながらドキュメント班の話し合いの場とした。彼を撮れる、それがこんなにも心を躍らせる事だと知れたのは僥倖。もう一つのドキュメント班の内容も聞きつつ、互いに協力し合おうと改めて心を一つにして望むとしよう。) |
Published:2019/06/11 (Tue) 23:47 [ 54 ] |
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