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(一番の難問は、君の心模様。) |
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![]() 小戸森和奏 |
(先日行われた数学の小テストは平均点を超えた。それでも満点に至らなかった大きな要因は、配点の大きい難問に打ち負かされた所為。放課後、教師の元に足を運びそれらの攻略の仕方を教わったなら早速自宅にて復習に努めようと昇降口へ向かう。明日は茶道部の活動日でもあるし、今日のうちにしっかり勉強しなくちゃ。なんて、肩にかけたスクールバッグの持ち手を握り直した。目標を定めたのも、それに向かって頑張ると決めたのも自分。廊下の窓から見えた体育館へ目を向けたなら、またやる気が湧いてきて、重たい足取りが幾分か軽くなった。このままじゃ、注目を一身に浴びているスーパースターみたいなあの男に何を言うことも出来ないままだ。どころか、お前は所詮そんなもんかと鼻で笑われる気がする。それは、ムカつく。)………っみ゛……!?(廊下を抜けて、向かった靴箱の前にて。つい先程まで思い描いていた金髪が目に入れば、思わず後ずさる。溢れた動揺を誤魔化すべく咳払いすれば、切り替えるように平素の愛想に欠けた表情を浮かべ)…宮じゃん。何、今から帰り?(友人らしく、平然と尋ねてみる。向かうは自宅か、体育館か。どちらにしても、立ち話くらいなら平気だろうか。黙っていると胸の内、心臓が飛んで跳ねてと暴れてうるさいから、「私は今から帰るとこだけど」「バレー部今日休みだっけ?」と付け足した。) |
Published:2019/06/02 (Sun) 14:03 [ 6 ] |
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引っ掛けとか、そういう狡い手は一切使てへんけど? |
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![]() 宮侑 |
(先日行われた数学の小テストは平均点丁度の出来であった。それでも、男の心に憂慮が芽生えることはなく、むしろ、満足げを通り越して意気揚々と笑みを深くさせる始末。斯様なる所以は、男にとっての世界が排球――現況にあっては、排球部を中心に回っているからこそ。赤点となれば補習に駆り出され練習時間を削られるばかりか、片割れとの間に生ずる差を許し――万が一にも己のみが赤点などはないと思うが念の為の憂慮である――、ばかりか、現部長から冷ややかな視線と正論マシンガンと浴びせられただろうが、平均点を取れば左様な心配とも無縁。当然、誤答した箇所への対策など思索の端に追いやって、何より比重を据えた部活へと赴いた、というのに。「今日は夕練あらへんで。朝練の時、説明したやろ。何を聞いとったんや、お前は。」部室へと入室をした後、ボール磨きに勤しむ部長より平坦な声音で浴びせられた現実によって、男の心は忽ちに退屈を帯びる。)は〜?!??なんっっやねん、設備整備って。んなもん、日曜のうちに終わらせとけや、クソボケ。(抱いた退屈は罵詈へと代わり、更には平素よりと乱雑な歩みにまで現れる。肩から提げたエナメルバッグは気だるげに揺れているかのような道中――手持ち無沙汰な思考を救いあげたのは、随分と濁った第一声。)……おん?(ぱたぱたと軽い音を立てスニーカーが床へと落ちる。その行方を追っていた視線は、すぐに音源を求むるように廊下へと戻された。さすれば、網膜に刻みつけられるとある少女の姿。数瞬、拍動が歓喜に満ちるも相貌に表出させることはなく。淡白な声色で、それでいて矢継ぎ早に言葉を紡ぐ少女を楽しげに見遣った。)どこぞのポンコツな業者が休日出勤サボったせいで、手持ち無沙汰なうって奴や。……で。俺に聞いといて、更に、わざわざこれから帰るって明言するんは……一緒に帰りたいって遠回しなアピールなん?――奏ちゃん。(名前の下2文字を捩ったあだ名は男が片割れに紡ぐ響きと似て、それでも、随分と柔らかさを孕んだ。ジャージのポケットに手を忍ばせたまま転がったスニーカーに足を通す様は極めて不遜なれど、視線ばかりは少女へと縫い付けたままに。) |
Published:2019/06/03 (Mon) 00:55 [ 11 ] |
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そもそもの式がややこしいの。もっと一桁の足し算引き算見習え。 |
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![]() 小戸森和奏 |
(――回答用紙を手に浮かべていた笑みを見れて、それだけで「今日はいい日だ」なんて浮かれていた少し前の自分を蹴飛ばしたい。彼の普段の様子を見るに満点、なんてことは無いだろうけど、それでも満足に足る結果だったのだろうと容易に想像がつく。どちらにせよ好きな人が笑っているならそれだけで良い気分になるのだから、恋とは何と人を単純にするものだろう。明日は言葉を交わせるといいなと、ふんわり考えていたくらいだったのに神様は小さなチャンスを与えてくれていたらしく。畜生、油断した!そう叫び出したい気分だった。部活に心血注ぐ彼はいつもすぐ教室を後にしていたから、今日だってもうとっくに体育館にいるものだと思っていたのにまさかこんな所で顔を合わせるなんて。完全に予想外。心臓が飛び出るかと思いきや、実際出たのは短く汚い悲鳴にも近いような音だったのもまた同じく。反射的に向けられた視線が此方に気付き愉快そうに細められたのがあまりに居た堪れなくて、伸ばしつつある髪の先に指先を埋めた。)ふぅん……折角着替えも済ませて準備万端!って感じなのに、どんまい。……っはぁ!?別にそんなん一言も言ってませんけど………!!(ここでそうと頷ける可愛げが無いのが小戸森である。心拍と体温、ついでに声のボリュームまで引き上げては不本意な否を突きつけた。時折とびきり柔くなるその響きがくすぐったくて苦手だ。錯覚しそうになる。此方へ向けられた視線から逃れるよう数歩の距離を駆けたなら自身もローファーへ手を伸ばすのだけれど、)………ま、まぁ、手持ち無沙汰ってことだったら、一緒に帰ってあげてもいいけど。(靴を履くためと俯けば、赤らんだ頬を隠せるだろうか。) |
Published:2019/06/03 (Mon) 15:12 [ 14 ] |
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簡単過ぎてもつまらんやん。それこそ、すぐ忘れられてしまうし。 |
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![]() 宮侑 |
(少女の胸中渦巻く一喜一憂の真実を知ることは難くも、己が行動によりその心を揺さぶりたいと願うことは易い。胸に巣食う感情は、間断的に小柄な体躯へと注がれる視線に如実に滲んで――解答用紙を手に、相好を崩す様を抜け目なく記憶へと刻むに至った。笑顔の所以を見抜けぬとも、愛し人の幸せの欠片を掬えば喜びは台頭して、故にこそ、放課後までは上機嫌を保っていた天邪鬼で気分屋な男の、天気雨のごとき機嫌。低気圧の台頭を見せたのも一瞬、切りそろえられた髪を弄る幼気な、それでいて弄らしい所作に上昇気流が発生。素直さの欠片のない言動すらいっそ清々しいほどに愛らしく、自ずと笑みが溢れると言うもの。)ふっふ。――どんまいなんは、俺よりもサムたちと、あとは俺の勇姿を見に来た女の子達やろな。今日も飽きもせず仰山屯っとったわ。嗚呼、茶道部の……誰やっけ。髪が長くて背の高い子もおったで。(さりとて、零す対象の意地の悪さに鑑みれば、台頭する笑みの彩も何処か裏があるように見受けられ、男の視線は不躾に、少女の内側を見定めるように稼働する。本日瞳に刻んだ全ての有象無象をカードとして切りながら、虹彩はその変化のひとつも零さぬように、いつだって、少女へと。)やから、言うてるやろ。´遠回しな´アピールなん?……って。やって、奏ちゃんが素直さをおかんの胎んなか忘れてきよったことなんざ、今更やし。(ふは、と軽やかに呼気を吐きながら紡ぎ出す揶揄の塊。距離を縮めんとする少女へは視線のみを送っては、その挙動のすべてを胸に刻んだ。)――ほんま素直なんか、強情なんか。(流れる髪の合間、仄かに色づく頬を見て、笑う。笑気の合間に零れた声音は、囁きの程度であったから恐らくはその鼓膜を揺らすには至らぬだろう。ついで少女の鼓膜を揺らすに至るのは、)はいはい。それはそれは光栄なことで……精々、俺のファン連中に目ぇ付けられんよう気張りや?(冗句九割の意地の悪い旋律であった。脚と引っ掛けただけのスニーカーは今や宮の足を保護するに至り、放課後デートの幕開けを今か今かと待ち望んでいる。) |
Published:2019/06/04 (Tue) 02:12 [ 19 ] |
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それは…まぁ。てかそんな殊勝な事思ったりするんだ。 |
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![]() 小戸森和奏 |
(気分屋な彼の相貌は秋空にも似ている。晴れやかな笑みを浮かべていたかと思いきや雷雲にも引けを取らない荒々しさを湛える事もあり、見ていて飽きないというのもまた本音。けれどこっそり盗み見るだけでもお腹一杯だというのに、真正面から向けられるともう堪ったものじゃない。毛先に指を通し整えつつ、落ち着かない心地で首元を撫で。「何笑ってんの」と睨み付けれどもその心は、そんなに見る程、何処か変な所でもあったろうかとの焦燥でいっぱい。夏を予感させる気温も相まって、バッグの持ち手を握り込んだままのその掌に汗が滲んだ。掻き乱されっ放しの内情を悟られぬようせめてと顰め面を継続していたが、作り物のそれが本心からのものとなるのは、彼の言葉でその光景が容易く脳裏に浮かんだから。)ふん。いつもいつもご苦労なこと。じゃー練習見れなかった分、帰りを狙って出待ちとかもあったりするんじゃないの?……………ああ、ネムちゃんでしょ。そういえばファンだって言ってた気がする。(羽村さん、通称「ネムちゃん」。すらりとした体躯に指通りの良い長髪が特徴の美少女。自分とは真逆の彼女をわざわざ連想させたのは茶道部と言う共通点があったからか、それとも底意地の悪さ故か。薄ら目が細まり唇が尖ったのも、肩にもつかないその毛先を引っ張ったのも無意識に傾いだ機嫌の表れ。)遠まわしも何も全然そんなん考えてませんでしたし。てか素直さだってちゃんと持ち合わせてますけど!?(素直に認めたら更に揶揄われるに決まっているとは勝手な思い込みかもしれないけれど、何より羞恥が邪魔をしていた。条件反射の様に噛みついたくせ彼があっさり引いたらどうしようと気が気じゃなかったのだけれど、どうやら今はご機嫌らしい。)は?笑えないんだけど……。その時はあんたがどうにかしなさいよ、あんたのファンなんだし。(ほっと緩んだ眉目は軽く靴先を打ち両足共の踵を収める間に引き締めて、彼を見上げれば行くよと促す。淡白な物言いに喜色が滲んでしまった事はこの際だと目を瞑った。) |
Published:2019/06/04 (Tue) 16:23 [ 21 ] |
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殊勝て……。奏ちゃんの中での俺の評価ってどんななん? |
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![]() 宮侑 |
(「かいらしいな、思って。」睥睨と共に投げられた言葉に、平然と言ってのける。初々しく、それでいて健気さをも感じさせる所作が、小柄な体躯であることも相俟って愛らしく感じたことに偽りはなく。けれど、言葉を与え、音にしたのは眼前の顰め面を崩したい等という希求が芽生えたからこそ。斯様なる思惑が奏功したかは彼女次第として、心よりの歪みが少女の相貌に宿った暁にはその歪の核心に座する感情を”嫉妬”と名付けたい自分本位な希望的観測が男の中を駆け巡る。表情や言動に飽き足らず、思考までもを支配したいと思う慾の強さは折り紙つき。)帰りしな適当にファンサしといたから満足したんちゃう? あの子らが見にきとるんは「バレーしとる俺」やないやろうし。そも。俺、出待ちとかしよる女は嫌いやし。――……、へえ。ほな、“今後ともご贔屓に”って伝えといてや。その、ネムちゃんって子に。(昇降口は構造上、声がよく響く。心なしかやや声量を上げて告げた前半の旋律は偏に牽制のために。仮令、少女の言のとおり“あわよくば”を狙う少女たちが居たとして、自ら慕う相手が直前に“嫌い”と告げた行為に走ることはなかろう。折角得られた幸運。少女と過ごす二人だけの空間を何者にも侵されたくはないという、これもある種の独占慾の表れだった。して、後半については、己が言動によって少女の機嫌が左右される様を見遣れば目的達成。よく少女の傍らで見かけるからという理由だけで姿形を把握していた羽村さんについては感心など微塵もなく、へらりと軽薄に笑っては、淡白な言伝を押し付ける。)ほぉん。ちゃんとなあ。(品定めするかのような不躾な視線を這わせて、噛み締めるかのように唇から音を零す。)せやったら、こうして一緒に帰ることになったことについてはどう思ってるん? ちなみに俺は結構、嬉しいんやけど。(疑問符ののち、間髪を居れずに奏でた旋律は少女への搦め手となりえようか。「素直なとこ、見せてみ?」と首を微かに傾げる一方で、まろむ琥珀の虹彩が紡いだ言葉が決して嘘ではないことを如実に示した。)まあ。俺やったら何とでもできるやろうけど。ただ俺が庇ったら火に油なんちゃう? 奏ちゃんが堂々しとるだけでいいと思うで。ただの友達なんやし、疚しいことなんてなんもないんやから、俺ら。(ダチと帰って何を文句いわれなあかんねん。位に構えとったらええんちゃう――付言する旋律は軽やかに。それでもいつものとおり明確に線を引いた。彼女と、平素己を取り巻くファンの少女たちとの間の決定的な隔たりを。さりとて、恋人には至らぬ現在の、友人という関係性を。そうして促されるままに歩き出す。雑談を交えながら少女の隣を歩むこと数分、コンビニの前に差し掛かった頃。)そういやサムから聞いたんやけど、新しく出たファミマのフラッペがめっちゃ美味いらしいわ。奏ちゃん、飲んだことある?(異常なまでに食へと関心を寄せる片割れの言を引き合いに、つい、と指先を入口の自動ドアへと差し向ける。ただ二人寄り添って帰路を辿るだけではデートとは言えぬだろうから、正真正銘、放課後デートへのお誘いだった。) |
Published:2019/06/05 (Wed) 11:19 [ 26 ] |
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例え1+1の式でも答え俺やったら忘れんやろ、とか言いそう的な |
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![]() 小戸森和奏 |
(その唇からさらりと紡がれる何気無い一言がどれ程の威力を持っているか、この男はきっと知っている。知っていて、態とこうして口にしたのだろう。一瞬ぽかんと丸くなった瞳が慌てて、そう思い通りになって堪るかと再び険しさを纏うけれど喉元から迫り上がる羞恥を完全に塞きとめることは叶わず。額に手を当て俯けば、「こんっの……どあほ……!そういうこと言うなや……!」とつられるよう彼に似た口調で毒吐いた。それは、負け惜しみにも似た響き。こんな些細な一言に舞い上がるなんて悔しいにも程がある。体育館の周りできゃっきゃ言う可愛らしい女子の集団を思い出せばそんな動揺もまた冷めていくのだけれど。それが世間一般で言う嫉妬と呼ばれる感情だとは気付いていても、唯の友達にすぎない己が言ったところでどうしようもないのは火を見るより明らか。よっていつだって不機嫌そうな相好を湛えるばかり。)ふーん……、…………ファンサ?サインとか?…はぁ。まぁ、言っとくけどさぁ。別にそんなん思ってないでしょーに……。(やけに強調したなと思いつつ、自身もその言を胸に刻む。待ち伏せする度胸なんて無いが、今後のためにも覚えておいて損はないだろうとの思考の隅で、引っかかったワードにきょとりと瞳が丸みを帯びる。体育館には授業以外じゃ近寄らないから実際のところ彼とファンがどのような関係なのかあまり詳しく知らない、ファンへのサービスと聞いてイメージするのは友人から聞きかじったアイドルの振る舞い。だからこそ割と本気で思いついたそれを口にした。続いた承諾は軽薄な笑みに対して呆れたような苦笑い。)……な、何、それ。そんなん………………、(先手を打たれ明かされた胸の内。どうせ全部お見通しの癖にと思いつつ、素直さも持ち合わせてると言った手前意地ばかり張るのも考えもので。深い琥珀色を覗くよう真っ直ぐ見つめ返したなら、言ってやろうじゃないか、素直な本心。「…嬉しくない訳ないじゃんばか」幼稚な罵倒がおまけされるのは致し方無し。)あー………それはそれでめんどくさい……。……確かに。たまたま顔合わせたから帰るだけだし、別に文句言われることでもないか。気にするだけ時間の無駄だね。(はぁ、と大きな溜息に肩を揺らす。開き直りとも見えようか。実際自分達は唯の友達なわけで、その為の線を常に彼が明瞭に引いてくれている。いつか踏み込める日が来るのか、それとも、なんて考えながら二人分の靴音をぼんやり聞いていた。)……フラッペ?いや、知らない。何味?(初耳だと首を傾げつつ彼と自動ドアを見比べて。「…あるかな、」と興味を引かれた様子で方向転換。彼ともっと過ごしたいからこそ、それは声なき誘いに対する小戸森なりの返事。) |
Published:2019/06/05 (Wed) 15:04 [ 27 ] |
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ふっ不遜~!?!え、めっちゃショックなんやけど。傷つくわー。 |
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![]() 宮侑 |
(「なんでなん?そうやって、照れてまうから――とか?」悪辣めいた言の葉。片割れやクラスメイトから紡がれたならば、売り言葉に買い言葉とたやすく喧嘩に発展しそうなものだが、奏で手が想い人になった途端に男の沸点はたやすく上がる。額に添えられた掌によって少女の相貌にのせられた色を直接見ることが叶わぬことは不服ではあるも、挙動の直前に晒された狼狽を携えた瞳を拾い上げることができたのだから成果は上々。追い討ちをかけるかのよに楽しげに紡ぐも、少女の機嫌を損ねることは本意ではないために、反応を窺いつつ引き際は見極めるつもり。不機嫌そうな相好よりも、笑顔をこの目に刻みたいという普遍的な願いだって、勿論、持してはいるのだから。今は未だ、膨れっ面を拝む回数のほうが圧倒的に多いけれど。)そんなめんどいことせーへん。精々、目ぇ合わせて、軽く手振りながら挨拶するくらいや。こう――(鞄を持ち直す所作から流れるように右手を持ち上げる。掌を少女へと示せば、指先を微かに丸めた。口角を持ち上げて、眦を緩めて人当たりのよい笑みを作り出す。)「ほなね。」って。(それは先刻、体育館を抜ける際に名も知らぬ少女たちへ送ったもの。中身の伴わない、薄っぺらい感謝の証。)えー。お行儀良くお利口さんに観戦してくれるんやったら、普通に嬉しいもんやで。チームの士気も高まるし。試合での勝敗っちゅうんは、チームの完成度ももちろんやけど、案外、会場の雰囲気とか、観客の歓声とかそういうもんにも左右されてまうからな。(故にこそ、空気も読まずに耳障りな歓声ばかりを上げる一部のファンに対しては、苛烈にして非情な感情を抱くこともあるのだが、それは今は胸に秘めておこう。現況何よりも優先すべきは、少女の心の欠片をひとつでも掬い上げること。零れ落ちる欠片の所以が、己が言動に因るのであれば、なおのこと。)ん? そんなん? ……、(少女の機微をひとつだって逃すことのないように、他方で、折角の好機を棒に振ることのないように、彼女が言葉を選び取るまでの間は静かに待った。暫しのお預けの後、ぽろり、零れ落ちた一欠片は付随した悪態も含めて、少女らしくて愛らしい。堪らず先刻も紡いだ形容詞が口から零れ落ちそうになるも、ぐ、と堪えて。「ありがとう。」と簡素ながらも心よりの謝辞を紡ぐに留めた。ファンへの対応に関する話題に関しては、少女よりの納得が得られたのを結びとした。一歩歩みだした頃より、二人きりの時間は始まっている。ならば、ほかの女に関する処遇を議論するよりも、二人楽しめる議題を選択するほうが有意義だ。たとえば、これから食べる新作のコンビニスイーツについてとか。)確か、チーズケーキとバナナアイスやったと……、(この二択ならば今の気分的には前者だろうか。他愛ない思索を巡らせ、コンビニの窓ガラスへと目を向ける。さすれば、「期間限定」と大きく付されたポスターが新たなる選択肢を持ち込んだ。)ああ、タピオカミルクティーっちゅうんもあるみたいやな。奏ちゃんどれ飲む? どうせやったら、別々の頼んで二倍楽しもうや。(紡ぎながら、少女を誘導するようにコンビニの自動ドアの前まで歩みを進める。二人の到来を感知したセンサーが反応しては、ひやりとした室内の風が頬を撫でた。気だるげな店員よりの歓迎の言葉が耳朶に触れるも男が音源を辿ることはない。あわよくば”間接キス”なんて思考は存外子供らしい欲求だった。) |
Published:2019/06/06 (Thu) 11:32 [ 35 ] |
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実際そうじゃん!忘れさす気もないでしょ、…けどその、ごめん? |
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![]() 小戸森和奏 |
(畳み掛けて煽ってくる辺り、本当に良い性格をしている。「てっ………照れてない!」思わずつっかえた否定は実に説得力の欠けた音であったろう。未だ冷め切らぬ熱が残る顔を、それで漸く上げた。自分の意地と彼と過ごせる時間、天秤に乗せれば何方が重いかは明白だ。なればこそ、外気に触れれば多少ましにもなるだろうと言い聞かせ「……あんまからかわないで。言われ慣れてないんだし、あんたと違って。」と、その楽しげな笑みをちらりと見上げたなら皮肉交じりの本心を零す。素直に笑顔を浮かべられるのはいつになるやら。本日の反省点、また一つ追加。)……………はぁ〜……………、………てか手でか。ボール余裕で掴めるね、流石。(形ばかりの笑みと分かっていても、うっかりときめく己が憎い。とすりと軽い音を立てて胸に刺さった矢を引き抜きがてら、逃避を兼ねて話題を逸らす。掌から彼へ視線を移せば「そんなもん?」と首を傾げた。運動とはあまり縁が無い為いまいちピンとは来ないけれど、『お利口さん』に見ていれば良いというなら。緊張を誤魔化すべく少しだけ唇を濡らせばそろりと切り出した。)…じゃあ、さ。今度試合見に行ってもいい?……ネムちゃんにもずっと誘われてたんだよね。(これは事実。誘われる度に気恥ずかしくて断り続けていた。多数のファンたちに混ざる勇気だってなく、けれど一回くらい彼がどんなプレーをするのか見てみたいというのも本心。少しでも嫌がる素振りが見えようものなら即座に撤回するつもりで彼の様子を伺えば、緊張に跳ねる心臓をこっそり押さえつけた。)……どういたしまして。ほらね、ちゃんと言えるでしょ。(余裕綽々な態度が揺れたように見えたのは一瞬のこと。まさかお礼を言われるなんて思ってもみなかったから咄嗟にどうだと言わんばかりの誇らしげな声音でつんとそっぽを向くけれど、耳の先まで真っ赤にしては格好なんてつくわけない。歩調を緩め一歩彼よりも遅れたなら両手で頬を包み込んだ。口先だけの軽やかなものではない先の声が反芻すれば体温がまた一度上がった気がして――ああもう、と八つ当たりのように大きな背中を睨みつけた。お陰様でいつの間にか、胸の内を占領していた陰湿な感情は吹き飛んで、代わりに染めるは彼一色。)へー、美味しそ……。普通に迷うんだけど……けど、やっぱミルクティーかな。宮は?(後ろをついて歩く形で入店すれば冷房の効いた店内の心地よさに眼を細める。冷食コーナーへ近付けばお目当のそれらを大々的に宣伝するポップが目に入るだろう。あれこれ迷いに揺れた視線は、元々のお茶好きと魅惑の四字に背中を押され固定される。「宮はチーズケーキにしない?」なんて自身の第二希望を勧めてみるけれど果たして結果は如何なることやら。何方にせよ、店を出る二人の手には異なるフレーバーが握られているはずだ。)…………んん、美味しい………!ね、これ、(一口でぱっと眼を輝かせたなら初めの約束通りにと、彼の腕を叩いて注意を引けばカップを差し出しかけて。そこではたと瞬く。二人で分け合うとはどういうことか、漸く察すれどもう遅い。引くに引けず、けれど動揺してはまたもいいように揶揄われるだけど平静を装って「…飲む?」訪ねた声色は、やや及び腰であった。) |
Published:2019/06/06 (Thu) 20:43 [ 37 ] |
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それって、むしろ。俺の事なら忘れないって自白? |
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![]() 宮侑 |
スマンスマン。けど、からかってへんよ。(何よりも肯定を示す否定の言辞が耳朶打てば、男の相貌に喜悦が宿った。少女が相貌を持ち上げた折には、屹度、ずいぶんと楽しげに相好を崩す男の姿がその瞳に映ったことだろう。良い性格、どころか、性質の悪さは一級品。好きな子ほど苛めたいなんて、小学生男子の如き愛情表現を一身に向けられる少女は堪ったものではなかろう。けれど、紛いなりにも高校生男子。小学生と異なるのは引き際を弁えていること。本心の一端に触れたならば、そっと眦を緩めて、許されるならば切り揃えられた触り心地のよさそうな髪に手を添えて、穏やかな声音でそっと告げた。斯様なる優しい所作も、声音も句点と同時に彼方へと追い遣って、あとに残るは友人らしい距離感。ファンサを再現する男は、少女からの指摘を受けて自らの手と向かい合っては、結んでは、開き、結んでは開くを繰り返す。)あんま気にしたことなかったわ。サムは一緒くらいやし……、んー。奏ちゃん、ちょぉ、手。貸してくれへん?(ボールに触れる指先は念入りにケアをしているし、爪だってきれいに切り揃えている。少女が紡ぐとおり、ボールひとつ持ち上げることは難なくこなせることではあるが、男の周囲にある比較対象は皆、当たり前のようにボールを掴み上げる面々ばかりでいるからいまいちピンと来なかった。故に、少女の前へと今一度手を差し出しては、頼みごとひとつ。掌合わせのくらべっこをしてみたいという願望は、さて、叶えられるか否か。いずれにせよ、少女より願ってもいない問いかけがなされる頃には、些細な触れ合いも終わりを迎えているはず。)ええよ。ついでに差し入れとか持ってきてくれたら嬉しいんやけど?(平素はファンよりの差し入れなど受け取らぬ身。さりとて、これまで試合へ足を向けたことの無い少女ならばその事実を知らぬかもしれぬ。さらりと紡ぐ言の葉に潜めたのは、試合の前、あるいは後に二人の時間を確保出来たら、なんていう策だった。柔らかそうな耳朶まで朱に染めながらも、つんと澄ました相貌と言葉を紡ぐ姿に口角を持ち上げて、)今後は、そのちゃんとを、もっとちゃんと出来るようにしよな。(尊敬する部長の言葉を捩りながら、少女へとからわぬ揶揄を紡ぎ出す。集う朱色は己がものだけに留めおきたいから、少女自身にも気取ったことを悟らせないよう努め、悠然と歩き出す。昇降口のガラス窓の清掃が行き届いていたならば、両の頬を包み込む愛らしい姿を見られたかもしれぬけれど、雨粒を浴び土埃を受けた本日の有り様では難しそうだ。数刹那の後、傍らへと舞い戻った少女の姿を見つめては、上機嫌な様子に眦を緩める。)ミルクティー……、やっぱお茶好きなんやな。俺は……うーん――…チーズケーキ? それ、奏ちゃんが飲みたいだけやろ?(うつろわせていた視線が少女の言によって固定する。先刻の3つの選択肢の内、もっとも女子力が高そうなパッケージを見つめた後、その真意をうかがうように目を眇めた。決めあぐねていたことに違いはないから、注文の品は少女よりの天啓に従うこととして、ひやりと冷えたカップを持つ男女の姿が直にコンビニの駐車場へと描かれることだろう。太めのストローへと口を付ければ、チーズのまったりとした甘さといちごの甘酸っぱさが口腔に広がった。たしかに美味いな――スイーツに対する男の感想など淡白なもの。少女の口にあったものだろうか、と視線を向けようとした矢先、くい、と引き寄せられる。引き寄せられるまま上体を屈めた先、ほんのりと憂いに帯びる頬と、しとりと濡れたストローが瞳に飛び込む。)そういう約束やったやろ。(躊躇する様子もなく、差し出された其れを唇で食めば、ごくり、と一口――喉仏が上下に揺れる。)うん。確かに、めっちゃ美味いな…、こっちのが甘さ控えめで俺好みかもしらん。っちゅうわけで、ほら。こっちも飲んでみ。(約束の言葉を武器にして、しれりと少女に差し出した。) |
Published:2019/06/08 (Sat) 12:58 [ 44 ] |
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……だったら? 宮だって私のことなら忘れないでしょ。 |
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![]() 小戸森和奏 |
(芽生えた想いを葬らず、むしろ大切に抱え日々の励みと出来ているのはふとした拍子の視線や指先から伝わる特別があったから。それこそ、今この瞬間のような。夕陽を落とし込んでより深みを増した琥珀色を見上げては、触れられたところが熱を持つ。全身を打ち鳴らす鼓動が彼に聞こえるのではないか、なんてあり得ないことを考えながら小さく震えた唇を噛み締めた。憎まれ口が飛び出す余裕もない。自身の言葉を受けて視線を落とした彼に気付かれぬよう密やかに息を吐き出したなら「私は片手で掴めないもん。」と友人同士のやり取りに相応しい調子であるか、確認すべく声を出した。)……ん。(せっかく落ち着けた心地が再び駆け出すけれど、平然とした様子を取り繕ってはその掌に自身のものを重ねた。その差は大凡一関節分くらいといったところか。大きく骨張った掌は硬く自身のとは全くの別物、それは彼がバレーに打ち込んでいる証のようにも思えて何となく嬉しくなる。離した手を握ったり開いたりして見つめる様は先の彼のようで、「やっぱり全然違ったでしょ」と零す声は明るい。)差し入れって…どういうものだったら迷惑にならない?スポドリとか……?(断られるどころかすんなり許可を貰えれば、その眼差しは安堵に緩むことだろう。どうせ持って行くならば少しでも喜んで貰いたいとは人の心理、更には緩んだ心持ちともあれば意地っ張りはその身を潜め、素直に彼の希望を伺って。)…………善処する。(大人びた態度に不貞腐れた声音で返す己の幼稚さに内心頭を抱えるものの、欠点を埋めたい気持ちは本物だ。もっとちゃんと素直になれれば、彼の隣に立つのに相応しくなれるかな。そんな事を考えながら、柔い視線を受け止め見つめ返すのだ。)うん、好き。おばあちゃん紅茶も好きだから家でもよく飲むし。あーバレた?……だって、バナナあんま得意じゃないんだよね。(戯けた物言いの後口籠りつつ本音を吐露すれば、気まずさに目を逸らす。そんな他愛ないやり取りの後だから、彼が最終的に選んだそれを見れば店を出た時小さくお礼を告げたことだろう。)………でしょ。(縮んだ距離に緊張しつつ、その喉が揺れるのを見つめては鼓動がまた早まった。気付いてるのは此方だけなのだろうかと戸惑いつつ、けれどこんなチャンスを逃すのも惜しい。意を決して差し出されたストローに口をつければ、その甘酸っぱさに緊張も紛れた。)あ〜……こっちも美味しい。また買いに来ちゃいそう。(どきどきとうるさい心臓が落ち着くのを待つため、隣でおとなしく自分の分に再び口をつける。一歩分開いた距離にいる彼と、気温のせいで早くも夏休みが到来した気分だ。冷たくすっきりした味わいが有り難くて仕方ない。) |
Published:2019/06/09 (Sun) 15:18 [ 48 ] |
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