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(漆黒の風切羽が止まり木を求めて。) |
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![]() 月島蛍 |
(公式試合。数多数え切れぬ程繰り広げられる試合のその中のたったの一端。常に同様冷めた顔貌を裏切らず冷え切った胸懐にて抱く感慨はそう深くもなく、燥ぎ回り騒ぎ倒す同級生に意気込み過多の上級生の面々を、冷静通り越していっそ冷淡な双眸で受け流す程度には平常心だ。落ちた強豪。飛べない烏。耳に蛸レベルで幾重にも耳朶に触れる聞き慣れた旋律は最早煽惑の意味を成さず、いっそ胡散臭いまでの笑顔すら惜しげなく手向けられるのは偏に、「あぁ言うの程吠え面が惨めだよね」って傍らの幼馴染に嘯く性根の歪んだ経験則が由来。さて漆黒纏い肌さえひりつく闘志燃す己らが果たして無様な負け烏か、その身を以て思い知ればいい。ホイッスルは呆気ないほど軽快に空を揺らし、反して放射線描き落ちるそれに伴う音は重く鈍い。省エネ思考の脳裏は今に限って狡猾に拍車を掛け、黒々と光る瞳孔が相手チームの綻び一瞬足りとも逃すまいと慎重に俊敏に機を狙う。攻撃特化型のチームバランスを解していたとて、己が役割たる守備を緩める理由に足りぬ。ブロックこそ最強の攻撃。)せーー…… っの!(ドドッ。誘い込むコースに予定調和が舞い込めば、重いスパイクさえいとも容易くネットの向こう側へ弾け飛ぶ。思わず綻ぶ口角が威圧的な形を成すのは悪癖で、敵の焦慮煽らんと敢えて選っているのだから褒められたものじゃない。差し出されたハイタッチをスルッと避ける愛想無い所作はご愛嬌、敵も味方もブーイングなんて慣れた様子で右耳から左耳だ。息を吸って、吐いて、エンドラインにつま先を揃える。笛の音を合図に見定めるよう見据えた視界の隅に、ふと、見覚えのある団子頭を見つけた。サーブトスを上げるまでの、たった一息、ほんの一瞬の話。)――っ、(チカ、と、視界が眩んで反射的に瞼が強張った。インパクトの瞬間が外れた球は、けれど幸い白線スレスレを横切る軟打と代わり得点を重ねるに至る。ほんの少し、取るに足らない違和感は、やがて勝利の喧騒に飲まれて消えてしまった。)つーづーき。(して試合後暫し。余韻を噛み締める性質でも無ければ誰より早く身支度済ませ、ぎゃーすか騒がしい集団から一抜けする足取りは素早かった。本日の対戦が終わり、わらわらと移動する人波に見慣れた背丈を捕捉するのは、男にとって易いこと。)何してんの。盗み見?悪趣味だね。(そんな戯れが挨拶と同義であると、彼女とて知っている筈と高括る傲慢は疲労のもとでも健在だ。) |
Published:2019/06/11 (Tue) 23:53 [ 12 ] |
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黒いのは羽根なのか腹なのか……。 |
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![]() 都築円佳 |
(ただ一つ勝利を目指しもがく選手と、彼らを取り巻く人々の想い。体育館の中に立ち込める熱意と熱狂。その中心にいる彼を複雑な気持ちで眺めていた。この熱狂に取り巻かれる感覚を都築は知っている。かつて其処で声援を浴びていた自分を思い起こして、都築はわずかに瞳をすがめた。二度と戻れぬその場所に対して思うことがないと言えば嘘になる。けれど、自分の失ったその場所に彼が立っているということが、不思議で、そして何よりも尊いことに思えた。続くラリー。彼の誘導によってセッターがボールをあげさせられる。飛び上がったスパイカーの腕がしなる。彼が跳ぶ。)っ、がんばれ、月島あ!!(彼の試合があると聞いてこっそり陣取った場所は、彼の姿がよく見える特等席。思わず上がった大声は周囲の声援と歓声に紛れて消える。大きな音とともに体育館にたたきつけられるボール。ドシャットというのだと教わったのは、確か彼の幼馴染にだった。ドキドキと心臓がうるさいのは、懐かしい勝利への一歩を積み重ねる感覚と、バレーに向き合う彼の姿が格好いいからにほかならず。――して、危なげなく烏野高校の勝利で終わった試合。本当ならば差し入れを持っていこうと思っていたのだが、思いがけずたくさんの女子が彼宛の差し入れを持ってきているようだったから気後れしてやめてしまった。同学年からよりも上級生から、彼は人気があるらしい。)……遠いなあ。(気持ちを伝えるつもりはまだない。とはいえ、片思いとはこんなにもきついものだったか。いっそのこと伝えてしまった方が楽なのでは――なんて思考の渦に身をゆだねながら人ごみを移動していたため、その長身に気づくのに少し遅れた。今まさに思い描いていた声が鼓膜を揺らして、びくりと肩をはねさせる。「ぅあ……っ!?」と零れた声は間抜けに響いた。)びっ くりしたあ、もう。声かけるなら声かけるよって一言言ってよ……。えへ、そう。しっかり盗撮しなきゃなあって思って、その任務を終えたところ――だったんだけど、月島に見つかるなんて思ってなかった。目ざとすぎるでしょ、(彼の戯れに同じく戯れで返しながらドキドキ煩い心臓を落ち着ける。「試合後のミーティングとかいいの?」とねぎらう声をかけつつ、このタイミングで会えたことを嬉しく思う。チキンハートな恋心を持て余して今日はもうかえってしまおうと思っていたのに、こうして彼と言葉を交わし始めたらもっとを求める欲が出るのだから、恋心とは難儀である。)試合お疲れ様。すごかったねえ、ブロック。……まずは一勝、おめでとう。(改まってお祝いの言葉を継げるのが照れくさくて、小さくはにかみながら。) |
Published:2019/06/12 (Wed) 10:28 [ 13 ] |
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褒め言葉として受け取っとくよ。 |
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![]() 月島蛍 |
(取り巻く視線に興味は希薄。主の催しが試合である以上多数の目を引くのは道理であるし、着々と増えつつある地元の人々の声援とてBGMぐらいの気軽さで、嘗て王様と揶揄った男が軽々と高度な技を熟す度上がる歓声に舌打ちは零せども、当の有象無象自体に関心は無かった。いつなりと緊張とは縁遠いドライさで、何時も通り。練習通り。練習と異なったのは、彼女の声が聴こえたこと。喜々も慕情も微塵と悟らせる気は無いけれど、大股で追い縋る小さな背丈が予想通りの反応を弾き出せば思わず呼気が抜けるように笑った。)無防備すぎ。見付かってないとでも思った?盗撮したいならもっと上手にやりな。(冗句と解して曰く無防備な額を長い指先が小突くのは、架空の盗撮への報復だ。エナメルバッグ提げ外履きに履き替えた足が、彼女に合わせ外へ向かう徒行は帰宅を示し、気遣わしげな問に「もう終わった」と短く告げれば帰路を共にする心算であると言わずとも伝わるか。)あー…うん。どうも。別にあんなの、何時も通りだよ。(相も変わらず感情の希薄な双眸を窓の外へ投げる。歩幅が自然と合って行くのは、蓄積された疲労で緩慢な所為ってだけじゃない。)都築はいつから見てたの。暇なの?(呼吸同等の自然さで刻まれる憎まれ口は脊髄に染み付いた悪癖。ざわざわと喧騒を織り成す人々をあまり関心深く見ていないから、見覚えのある顔なんて彼女ぐらいのもので、同校生徒がどれほど客席を埋めてたかも禄に知らないままだ。誰かと来ていたのか、それとも一人でわざわざ出向いていたのか。後者だとしたら、奇特な少女だと誂うつもりで。踏み出す体育館外は夕暮れにはまだ少し早いぐらいの時分。外気は生温くて、風だけがまだ少し冷たい。)帰る?(唐突に問えば、砂利の音が足元で鳴った。一応と手向けた疑問符は元より彼女の予定を慮る気など欠片も有しない傲慢な響きだ。随分と下方の双眸を見遣り、)僕お腹減ったんだけど。(稀有なる希求は流石に本音だ。試合であれだけ動いたら少食と言えど腹も減る。行くでしょ、を言外に据える高慢とて今更だから、足取りは一先ず繁華街を目指しつつリクエストが飛ぶなら考慮するつもり。) |
Published:2019/06/15 (Sat) 10:26 [ 25 ] |
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だいじょうぶだいじょうぶ、褒めてる褒めてる。 |
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![]() 都築円佳 |
(一言でいうと、月島蛍という男はずるい男だ。無防備、という言葉とともに彼は吐息を揺らすけれど、都築から言わせればたまに見せるその甘い微笑こそ無防備極まりないと思う。向けられるたびに心臓を跳ね上げさせるこちらの身にもなってほしいものだ、と自分の都合ばかりのわがままを脳みその片隅に据え置きながら、軽く小突かれた衝撃でわずかに反った喉元をもとの位置に正した。小突かれた額を抑えながら「だってこんなに人が多いのに、」と往生際悪く管を巻く。)いつも通りなら、それはそれですごいよね。……なんてまあ、あたしも時々月島の練習風景見かけるけど。頭いいよねえ、なんていうか、位置取りが。(気遣いという体をとった臆病者の問いかけには、事もなげかつ端的ないらえが返ってきた。外履きへと履き替えた彼の後ろに続いて都築も屋外へと踏み出す。空はまだ青い、けれど端っこのほうが淡いオレンジに染まりかけている。思うまま告げた感想は、例えば体育の時間、例えば体育館を借りての舞台練習の時、例えば意図をもって通りかかったバレーコートの片隅で、まっすぐ跳ぶ彼を見ていつも思っていたことだった。誘い込むような位置取りは相手からすればたいそうプレッシャーだろう。そんな思考回路があるのは、かつて己もまた、コートの中を俯瞰し相手の動きを予測するスポーツに身を投じていたからだ。彼のプレーの深層を知る一助となる己の経験を誇らしく思う。少しだけ口元をほころばせた。)いつから……最初から、かなあ。だーかーらあ、暇じゃないってば。でも応援に来たかったの。(別に友達の距離感だって、このくらいの問答は普通だろうか。こうして彼の隣を許される程度には仲がいいと自負があればこそ。「友達はみんな都合が合わなかったの、」とひとりであることに対して言い訳がましい言葉が続く。よもやこうしてふたりきりになれる瞬間を期待していたなんて口が裂けても言えはしない。)帰らないの?(唐突な問いかけにはきょとんとした表情と疑問符で返答となした。彼の意図を読みかねて首をかしげていると、続く言葉に目を丸くする。これはもしかして――考えるにつれ、行き着いた答えに変に声が上ずりそうになった。ぐっと飲みこむ。)じゃ、じゃあ!……あのですねえ。実はほら、……応援にくるのになにも持ってこないのってどうなの?っておもっちゃったからさあ。差し入れ的なものを持ってきていたりいなかったり……。(応援のくせに無駄に多い荷物の理由がこれである。渡すかどうか迷って、結局渡さず帰る予定だった自らのヘタレさはさておくとして、カバンの中にはさまざまなおかずの入ったお弁当箱と、ちょっとつまめるスイーツが入ったお弁当箱のふたつが収められている。むろん、どちらも手作りである。保冷はばっちりしてきたから、中身はたぶん大丈夫なはず。胃袋を満足させるには至らずとも、小腹を満たすには役立つだろう。)……ほら、ここに来るまでの間に、河原、あるじゃん。……そこで、ちょっとのんびりしない?(歩き出した彼の服の裾を引き、首を傾げて。) |
Published:2019/06/18 (Tue) 05:26 [ 33 ] |
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