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(菫色の星が瞬く前に。) |
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![]() 宮侑 |
(令和元年六月九日。加古川市立総合体育館において第63回兵庫県高等学校総合体育大会バレーボール競技の決勝戦が繰り広げられていた。本命は昨年度の春高及びIHにおいて全国3位の座に輝いた県内屈指の強豪高、稲荷崎高校。黒衣のユニフォームはシンプルながらも強者の威圧を持し、色を同じくする横断幕へと記されたスローガンは、チーム全体が輝かしい過去の栄光に縋ることを善しとはせず、ただ未来ばかりを見据える勝利への貪欲さをまざまざと四囲へと示す。満員御礼の観客席。見目も整った双子は一部の観客からまるでアイドルのような熱烈な声援を受けながら――タイミングによっては、特に侑が観客席をすら睥睨する場面も見られただろうが――終始稲荷崎優勢で試合は進み、現況、電光掲示板に表示されし数字は24-22。1セットは手堅く押さえているために、稲荷崎マッチポイント。サーバーは、宮侑であった。)……、(観客席――吹奏楽団は是までの疲れなど感じさせぬ荘厳な音色を会場に轟かせ、勝利への導を奏でる。スパイクサーブとジャンプフローターの二つの技を使い分け、制球力もピカイチな男が白線へと向かう姿に勝利を信じて疑わぬことは当然とも思えようが、他方で、宮侑を含めた稲荷崎の誰もが未だ勝利を確信などしていなかった。昨年お雪辱を晴らす為でもなく、未来に待つ栄光を掴むためでもなく、ただこのとき。この試合、この局面、この一球で勝利をおさめる為に。”今”という点にのみ重きを於いて、その他すべてを捨象する。白線より6歩。スパイクサーブを打つためのポイントに辿り着けば、左手を掲げると同時、会場内に静寂が訪れる。コート外の音ですらひとつの所作で操る様は指揮者のようですらあった。指先に馴染むボールを高く放ると同時、コート目掛けて助走を開始。両の脚で確りと床を蹴って宙へと舞えば、体を撓らせ、最高打点とほぼ同じ位置に落ちてきたボールを思い切り打ち込んだ。狙うは相手チームのリベロ。堅実な勝利など面白くない。絶対的な勝利を手に入れんとするために――)~~ッ、しゃあ!!(刹那の後、床へとボールが叩き付けられる音が決勝戦に終止符を打つ。決まると同時、高らかにガッツポーズを決めた宮の相貌はひどく楽しげに崩れ、チームメイトと共に勝利の喜びを分かち合った。コート外では決して見せぬ稚さすら感じさせる笑み。とはいえ、表彰式においてベストサーバーの座にも輝く頃には、片割れ相手に”どや”と胸を張り、競い合ういつもの姿に戻った。そうして漸く個を把握するため視線を向けた観客席の傍らにその小柄な姿を捉えた瞬間。ちくり、と瞳に感じる痛みと熱。幸い試合中には痛みを感じることはなかったものの、ここ最近頻繁に生ずる目の異変に感じた違和を、今このときばかりは小さく首を振ることで追い遣っては先ずは緩く手を振ることでその存在を把握したことを暗に伝えよう。周囲からあがった黄色い歓声などお構いなしに一旦ロッカールームへと引っ込めば「1時間後に集合。」と少女へと端的な言葉と会場より10分程歩いた場所にある公園の地図を送った。その際、「何、携帯見ながらにやにやしてんねん。気持ち悪ッ。」等と片割れより指摘を受け、部長の一喝を受けるまでの兄弟喧嘩を繰り広げもしたが、それは蛇足として。時は巡り、時刻は18時前。次第に赤らみ始めた西の空の下、宮は部員や片割れとも別れ指定した公園へと到着する。さて、少女の影は既に公園にあるか、それとも、逸る心が男の影を先に落とすか。) |
Published:2019/06/10 (Mon) 12:55 [ 4 ] |
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金平糖とか食べたくならん?青とか紫のやつ、好きなんだよね。 |
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![]() 小戸森和奏 |
(何度か観戦経験のある友人に連れられ訪れたそこに広がるのは未知の世界。授業で齧るか、あるいはテレビ中継でくらいしか知らなかったバレーボールという競技。その熱量に只々圧倒される。英字ロゴの入った白地のTシャツに足首まで届くベージュブラウンのハイウエストスカート、黒いテーラードシャツを上に羽織ったのはまだ少し肌寒さを覚えるかとも考えたせい。ワイドスリーブからは小手が覗くものの、熱気に満ちた館内ではそれで丁度といったところ。観客席を埋める人々に混ざる私服の少女の足元はぺたりとしたサンダルであるから、コートから見ればきっと埋もれているに違いない。落ち着かない心地のまま開幕のホイッスルが鳴り響き、決勝戦の火蓋が切って落とされた。素人でも分かるレベルの高いプレーを各選手が繰り広げる中でも、小戸森の視線は終始ただ一人に注がれる。熱を増す声援の中、時に飛び出したその声の方向を睥睨する彼を見ては先日の言葉を思い返し成る程と納得したりもして、周囲の様子を伺いながら小さく声援を送り続けた。初めは胸の内だけで、けれども徐々に声をあげ、稲荷崎が得点すれば友人と両手を合わせて喜んだりする姿もそこにあろう。やがて訪れたマッチポイント。「ほら和奏、」と囁く友人に促され、両の瞳を向けた先。彼が手を掲げた瞬間、時が止まったかのように沈黙が落ちる。誰一人声を上げることは無かった。無論、小戸森も。今この瞬間においてはどんな音もノイズでしか無い。だから代わりに、祈るように胸の前で両手を組めば瞬きすら忘れその姿を目に焼き付けよう。鍛え上げられた肢体がしなやかに宙に舞い、ボールを打つ音が鮮烈に空を切る。ぞくりと背筋が震えた時には、既に決着がついていた。)や、ったあ…!!(緊張に縮んだ心が元の形に戻る最中、歓喜に沸くコートの中心に自然目を向けた。教室では見たことのない笑顔を浮かべた彼にきゅっと心臓が締め付けられる。心底バレーが好きなのだとその顔は雄弁に語っていて、つい此方まで綻んでしまいそうだ。実際、健闘を称え拍手を贈る最中は平素の仏頂面では無く、はしゃいだ様子の見える無邪気な笑顔であったろう。)…………う、(黄色い声が上がる中、その瞳に映ったのが自分と察すれば気恥ずかしさについ呻き声が漏れる。ばれた、と肩を落としながらも見つけてもらえた歓喜は隠しきれぬまま。暫くして震えたスマホ、届いたメッセージを確認すればいよいよ胸中を染める感情を隠しておく事など出来なかった。にやける口元を隠しつつ了承を表すラッコのスタンプを送り返せば、隣にいてくれた友人へ此処からは別行動としたい旨を伝えよう。良かったねと脇を突くその人へ素直に頷けるくらい、高揚しているのは確か。)………お疲れさま。優勝もベストサーバーも、おめでと。(浮き足立った心が急かすあまり、その公園へは待ち合わせの15分前には到着していた。ベンチに腰掛け手持ち無沙汰に弄っていたスマホから顔を上げたのは、人の気配を感じ取った為。待ち人と分かればすかさず駆け寄って、まず一番に用意していた祝辞を述べよう。それから、と一瞬口ごもっては視線を落とし)……すごいね。かっこよかったよ。(ちらりと見上げ、そう言い切ってみせた。小さな笑みを素直に浮かべて。) |
Published:2019/06/11 (Tue) 15:33 [ 8 ] |
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子供んとき以来やなぁ。あれって色によって味違うもんなん? |
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![]() 宮侑 |
(片割れとの小競り合いの後、部長からの静かなる一喝。そのまま流れでミーティングへと雪崩れ込んだものだから少女からの返信を確認するまでに聊かの時間を要してしまった。既読がついたのは恐らく30分ほど後のこと。排球を模した公式キャラクターのスタンプより喜びを示すものをタップする姿はひどく楽しげであったが、男の胸中に喜びは湧出する一方で安堵は一向に芽生えぬあたり傲慢さと不遜さが窺える。纏っていたユニフォームをエナメルバッグへと仕舞いながら想起するは先刻琥珀の瞳に刻んだ花開く少女のかんばせ。口角を上げたのは一瞬。瞳に走る疼痛に男の相貌がわずかに歪み、薬指の腹にて目頭を押さえた。汗か、埃か、それとも逆さ睫毛にでもなったのか。ロッカーに備え付けられた鏡と向き合い確認するも、充血すらしていない様子に不可思議そうに首を傾げた。ここ最近、斯うして目に違和を覚えることが多くなった気がする。IH出場が決まった今、練習に支障を来すことはどうあっても避けたい。斯様なる思考は真剣なれど、他方で、市販の目薬をさせば改善が見受けられる程度の症状であるために深刻さはそれほど帯びることはなく。症状がひどくなるようであれば通院を検討するか、との結びを迎えた。そうして、夜色のジャージを翻せば場面は男臭いロッカールームから夕風に細い雲が静かに棚引く公園へ。柔らかな土の上に長く伸びる少女の影を見つければ、「奏ちゃん、」と唯、少女の称呼を口から紡ぎながらベンチへと近づいた。少女の耳朶を揺らしたのと、少女が此方に気づいたのとどちらが先であっただろう。互いに距離を近しくして、いつの間にか手を伸ばせば届く距離。)試合、めっちゃ楽しかったやろ?(ねぎらいの言葉に眦を緩め、祝辞には得意げに笑みを深める。一度も試合を観戦したことがない少女にとっては、恐らく本日の試合が初生試合。勝利を目指すはどうしたって自分たちのためではあるも、どうせなら少女にも排球を好きになって欲しかった。視線を落とし、口ごもる様子の少女へと緩く首を傾げ簡素な問いかけを放った後、再び交錯した視線に僅かに瞠目。)……――、(無意識のうちに少女の頬を撫でんとした指先を諌めて、)インハイも見に来たらええやん。たぶん、学校から応援用のバス出るやろうし。次はもっとカッコいいとこ見せたるよ。(それこそ己以外の世界が霞む程に。素直に紡がれた賛辞を揶揄るようなことは憚られたからこそ、此方も素直な願望を彼女へと紡いだ。) |
Published:2019/06/12 (Wed) 11:08 [ 14 ] |
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結構違うよ。今度あげようか、宮っぽい色したやつもあるし。 |
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![]() 小戸森和奏 |
(小まめにスマホを確認しつつ、帰路につく観客に紛れて体育館を後にする。個人的な感情を持つ己と違い純粋にバレー部、ひいては彼のファンだと言う友人とあれこれ感想を語らいつつ、まだどきどきと高鳴る胸を撫でた。贔屓目抜きに一番輝いていたと思うその姿を思い描いては自然引き結ばれた唇も綻び、普段の警戒した猫のような雰囲気も和らいでいよう。とはいえ「見にきてよかったでしょ?」なんてにやにや笑われでもすれば思わず脇を突くように手を出してしまうのだけれど。ひとしきり戯れ合った後、切り替えるようにふんと鼻を鳴らした。)……まぁ、 ……今日来れて良かったよ、ほんとに。(コートに立つその人の、普段とは異なる面持ち。真剣に、今というその瞬間だけを見据えていた相貌に心動かされたのは事実。この先もそんな彼の姿を見ていたいとの思いは深まって、またこっそり応援に行ってみようとの決意を固めた。駅に向かうという少女と別れ公園へ向かう途中、スマホを確認すれば新たに送られていたスタンプについ笑声が漏れる。)ほんっと、バレー好きなんだなー。(そんな少女の独り言は酷く楽しげに響いたろう。柔く細めた眼差しは愛しげに画面を見つめていた。この先も高みへと登り続ける彼に負けぬよう自分も励もう。彼の到着を心待ちにしながら、祖母へ土産話として話聞かせられるよう見たもの感じたものを胸の内で何度も思い返していた頃。彼だけが呼ぶ自身の名に顔を上げれば立ち上がる。試合中とは違う、声も届くし視線も交わる。いつもの二人の距離だ。ついでに言えばつんと澄ました表情もまた。)まぁ、楽しくなくは無かった。こうやって見にくることって無かったから新鮮だったし……けどサーブとかレシーブとか、いちいち腕もげそう。心臓に悪い。(どうだと言いたげな彼へは素直さの欠けた返答を。試合が展開するにつれ前のめりになり夢中で見守っていたとは思えぬ白々しさである。逸らした視線を彼へ戻し、勇気を振り絞って伝えた瞬間。いつもいつも先手を打たれるばかり故今日はと気合を入れたつもりだった。けれど垣間見得た動揺に変なことを言ったかと気が気でなく元より細やかだった微笑みは引っ込んでしまうだろう。でも褒めるくらいのこと、友人間でもよくあることだと狼狽える自身を叱咤し先の言葉を待つ。そうして告げられるは次を楽しみにしてもいいとの許し。)………バス出るなら見に行こっかな。そこまで言うんだし、今日をうんと上書きするくらい活躍して見せなさいよ。(きっと、バスなんて出ても出なくても変わらない。仄かに上気した頰を緩めつつ、激励を込めて軽く握った拳を彼の腹部にとん、とぶつけ。)差し入れ代わりになんか奢る。何がいい?(園内に設置された自販機をその手で指差した。) |
Published:2019/06/12 (Wed) 18:40 [ 16 ] |
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へえ。ちなみに、俺っぽい色って何色なん? |
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![]() 宮侑 |
ふっふ。さっきまでは素直やったんに、いきなりいつもの奏ちゃんがひょっこりはんやな。(対峙した際に湛えられていた柔らかな笑みや穏やかな声色は薫風に浚われてしまった様子。すまし顔の少女を見遣れば、憚る様子もなく笑声を奏で、更には不躾にも明示に指摘してみせる。楽しげに稼動する唇は黙ることを忘れたように、どこまでも軽やかに。)うん?心臓にて――俺のこと心配してくれてるん?(なんて、笑みを深めて問うに至った。朱金に輝く陽光の眩さに絆されて、或いは、試合後の高揚する心地に誘引されてか、平素胸中に仕舞い込んだ感情の欠片が湧出しそうになる。先刻の動揺もそのひとつ。それでも何時までもいつもどおりに戻れぬほどのポンコツでもないからこそ、取っ掛りさえ得て仕舞えば男の姿はいつもどおりの傲慢不遜な其れへと戻ろう。)上等。(腹部に感じたささやかな衝撃。戯れのふれあい。一度、視線を落とし少女の小さな拳を琥珀に映す。そうして、耳朶に触れる少女の旋律。彼女が言わんとすることを察した男は口角を持ち上げ、挑戦的に笑んだ。)っちゅーか、当たり前や。(絶対的自信は表情に、瞳に、声に、言葉に、男を形作るすべてに映される。)今日のことなんざ忘れてまって、また次、もっとって思うくらいに活躍するし、ほかのメンバーのこと活躍させたるわ。サーブも、レシーブも、それにトスも全部、ちゃんと見とき。来んかったり、見逃したりしたら一生後悔すんで。(仕返しとばかりに、先刻は触れることをためらった指先を少女の額へと添えて、ぴん、と一度指を弾く。痛みが生じぬよう加減したデコピンが、激励を受け取った何よりの合図。睦み合うよりも、寄り添うよりもずっと男と少女らしいやり取りに、唇からは軽やかな笑気が落ちた。して、少女からの申し出を断る理由もあるまいと思惟をめぐらすこと数秒。)せやなー…普段やったら、炭酸一択なんやけど……、(視線を凝らし、ラインナップを把握せんとすること数秒。ちくり。再び瞳の奥に違和を感ずれば、ペットボトルや缶のパッケージの輪郭が僅かにぼやける。具体的な商品名が判読出来ねばリクエストもままならぬ。けれど、少女に懸念を抱かせることも本意ではないからこそ、誤魔化すかのように再び視線を少女へと向けて。)あんなかで奏ちゃんが一番美味いと思うお茶の商品、こうてきてや。(なんとも面倒な注文を奏でては、悪びれる素振りもなく笑ってみせた。副次的に少女の嗜好に触れられるなら僥倖だ。転んでもただでは起きない性分は、関西人の気質ゆえか。) |
Published:2019/06/13 (Thu) 21:59 [ 20 ] |
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向日葵みたいな黄色のやつ。あんたの頭とお揃いでぽいな~って。 |
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![]() 小戸森和奏 |
まぁ頑張ってた宮への特別仕様だから……っていうかさっきも何も、いつでも素直ですけど?(コートに立っていた時のような、触れたら切れてしまいそうなくらいに張り詰めていた緊張感は見られない。見知った様子に何となくほっとする癖、楽し気な様子を見ればむすくれた様子で顔を顰めるのだけれど、それは何かにつけてとりあえず反発する子どものような、あながち満更でも無い様子であったろう。)なっ……そんなんじゃないし!!(何でもお見通しと言わんばかりのその笑顔が苦手で好きだ。思わず動揺に肩が跳ねたなら、真っ直ぐな髪がふわりと空気を纏い曲線を強める。口答えは減らぬままでありながら「けど……痛くないの?すごい音するじゃん、レシーブん時とか」そう尋ねた声は怖々とか細く。ジャージに覆われた腕から彼の相貌へ視線を映しては小首を傾げた。)………言ったからね。(焼けた空の色が、前だけを見据えた琥珀色と交わり溶け込むその様は、純粋に綺麗で息を呑む。不安等微塵も感じさせないその物言いは何処までも傲慢で不遜。だからこそ眩しく、惹きつけられるのだろう。同時に自らもまた気持ちがしゃんと伸びるようだった。自分自身だけでは無く、周囲までも鼓舞する姿勢は正にエースだ。――悔しいな、かっこよすぎて。かんばせに浮かんだ笑みを見上げたなら、込み上げる慕情のままに双眸が柔く細められる。)ほんっと、その自信はどっから出てくるんだか……。まぁでも……確かに、あんたの大活躍を見逃すのも勿体無い気するし、そこまで言うんだから期待しとく。頑張れ、よ……って何するん!(やれやれといった口ぶりは些かわざとらしい響きを持つ。その自信が努力に裏付けされたものであることはよく知っていたし、実際にその活躍を目にした今となっては笑い飛ばす事も悪いような気がするけれど、こうして軽口を叩き合えるのが今の自分たちだと思うから。分かり辛い激励は確かに届いたようで満足気に頬を緩めたのは一瞬、最大限の手加減にて弾かれた額を押さえては思わず跳ねた言葉尻を覆い隠すよう、噛みつくように声を荒げてみせる。こんな他愛ない時間が、やっぱり嫌いじゃない。)……? まぁいいけど……だったら今度、ちゃんと美味しいお茶淹れてあげるのに。(言い淀んだ際の短い沈黙に微かな違和を覚えるけれど、次いで述べられたリクエストを思案したが故のものと思えばそれも消える。口元はへの字のまま自販機に向かったならば、コインを投下しつつ思い巡らせる事数秒。ボトルが落ちる音が連続して響いたなら、彼の元へ戻って来た女の手には深緑と素色の二色が握られていよう。)どっちも好きなんだけど……あんたはこっち、綾鷹。(甘い物が特別好きでもないだろうし、何より注文内容は「一番美味いと思うお茶」。次点に選んだのは自分用であったけれど無論逆を望むならそのようにするつもり。) |
Published:2019/06/14 (Fri) 06:50 [ 22 ] |
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誰の頭が向日葵畑やねん!?したらサムは溝色やで? |
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![]() 宮侑 |
特別言うたり、いつでも言うたり、相変わらず忙しないなぁ。それで?特別仕様はさっきので終わりなん?(くつり、喉奥が軽やかに鳴っては男の中の愉悦をまざまざと示す。湧出する喜悦を隠す素振りなく示すのは、対面する少女の顔貌や所作から鑑みるに、逆鱗に触れる恐れは無さそうであるから。くつくつと笑声は断続的に惚れて、薄い唇へと指を這わせたなら、もっと、と望むかのよに緩く首を傾げてみせた。もっと。もっと。いろんな感情を、表情を独り占めしたいと、些末な欠片を拾っては独占欲が静かに顔を出す。きゃん、と吠える様子に肩を揺らし、「まあ、まあ」と諌めるような所作を挟んだ後に。)――まあ、試合見に来た女の子が腕もげそう言うんはよくあることやけど……そりゃ痛いわ。けど、ボール拾わんかったらバレーは負けるんやで?負けの屈辱に比べたらあんなもん屁でもないわ。(か細い声音に、ぱちり、と瞬きを落として、ふ、と相好を歪めてみせた。その後に、袖を捲っては黒衣に隠された腕を少女へと示そう。同時に紡ぐは男の心に巣食う勝利への渇望、熱情。負けを想起させるときの声音はひどく苛立たしげであったけれど、「ほら、赤みも引いてるやろ?」と紡ぐ頃には少女の心に坐す懸念を優しく拭うかのような穏やかさを滲ませた。心配も、憂慮も、全部杞憂だと、だからこそ、おまえは唯ひたすらに己を見つめてはいればいいのだと言いたげに。さりとて、続く疑問符には心から不可思議そうに瞳を丸めてみせた。)どっからって……試合見てたら分かるやろ?(そうして紡ぐはなんの裏も孕まぬ純然たる言の葉。俺のセットアップで打てない奴はポンコツだ、とそう語る近しい未来の男の片鱗が滲んでいた。それは、また、この後に続く得意げな所作にも。)ふっふ。(肩肘に指先を添わせ、逆の指先は顎先を撫でる。褒められて満更でもないという面持ちは男子高校生と言うより、男子小学生(高学年)のそれだった。)今世紀最大の見せ場やで。来年も、まあ同じようなん見せたるけど、けど、同じもんはどうしたって見せられんからな。……奏ちゃんの視線全部釘付けにさせたるわ。……えー、何って。知らんのん?デ、コ、ピ、ン。(軽口を紡ぎあって、そるでも互いの底に悪意がないことを知っているからこそ言辞の選択は甘えまくって。噛み付かれたなら、楽しげに躱し、時には敢えて好餌とばかりに腕を示す。わざとらしく口唇へと掌を添えては、笑声が少女の耳朶を揺らすように。揶揄う言動をするときが、いつだって宮らしさの最たるを指し示す。けれど。日常の、いつものなかに紛れ込んだ異物が男の思考を冷静に引き戻す。痛み、熱さ、未来への小さな憂慮――考えても仕方ないと瞬時に思索の方向を転じてみせたが、心にかかる靄が晴れ渡ることはなかった。無論、少女の言葉や表情に幾分か心は和らぎを見せたけれど。)美味い茶を飲むんはええんやけど、ほら……あれ、正座がなあ……苦手やねん。(だからこそ、すべてをいつも通りに戻すため、日常のすべてを努めて会話の端々に滲ませる。その全て、無意識の賜物であったが、疑念たずさえること無く応えてくれる少女の姿が何よりの救いにもなっていたことだろう。差し出された緑茶のペットボトルを掴んで、初夏の熱気を浴び、滴る水滴に指先が濡れる。)へえ……よく見るけど買ったことは無かったわ。緑茶が好きなん?(世間話の傍らにキャップを捻って、飲み口へと唇をくっつけた。喉を流れる冷たい感触が瞳の奥に居座る熱すら拭ってくれたらいい。) |
Published:2019/06/16 (Sun) 17:14 [ 29 ] |
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言ってないでしょ(笑)宮サムはお菓子だと胡麻団子辺りかな |
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![]() 小戸森和奏 |
うっさい。細かい事気にしたら負け。(腕を組んで胸を張るその顔は彼とは真逆に彩られていよう。そうやって不機嫌を装ったなら徐々にいつもの調子を取り戻せるはずだった、引っ込む気配の無いその笑い声にいい加減にしろと一喝、場合によっては緩く握った拳でも添えてみれば揶揄われているが故の気恥ずかしさも紛れる筈だと。それなのに。)………ッ、お、わりに決まってんでしょ!もう売り切れました!(緩慢な仕草のくせ、視線は射抜くように注がれる。彩なんて無い素朴な目元、縁取る睫毛が上向きに弧を描くと同時に息を呑んで、そのまま吐き出す事が出来なかった。呼吸の仕方を忘れてしまいそう、なんて馬鹿な考えを払うように頭を振っては後退る。唯でさえこんな風に容易く掻き乱されるのも、感情的に頬が火照るのも、全部ぜんぶ、君だからなのに。これ以上を欲しがられても困る。咄嗟に鼻先に引き寄せた右手の平を晒しまるで盾の様にして構えながら、彼から逸らせぬ双眸が揺らいだ。)あ……やっぱみんな思うんだ。確かに、ボール落としたら負けってよく考えると凄いルールだよね。触れる回数も限られてるし、道具は使えないし。ルールはシンプルだけど、だからこそ難しそう。(妙に納得しては袖が捲られる様を興味深そうに見つめていよう。痛々しさなど微塵も見られない滑らかな肌に「ほんとだ」と零した声は小さく安堵を滲ませた。脳裏を過ぎる、ネットの向こうを見据えた背中。「………負けず嫌い。」勝者の座に胡坐をかく事無く高みを目指し続ける姿を思い浮かべながら零したその一言は嫌味でも何でも無く、むしろ何処か嬉々としたもの。自分もそれなりだとは思っているけれど彼程では無い気がすると自然唇は柔い弧を描く。それは次の瞬間、やれやれと反転し見慣れたものへと変わるのだけれど。)………いやまぁ確かに、分からんでもないけど。実際、実績積んだ瞬間も見ちゃったわけだし。(ベストサーバーに選ばれたということはつまりそういうこと、素直に認めるのは何となく癪だけれどあまりに潔く言うものだから反論するのもばからしく。いつものように笑ってみせる彼へ「ちょーし乗んな」なんて告げるは軽やかな声音、じゃれ合いの範囲内としてどつくのは何時ものやり取りである。)はいはい。うっかり宮サムに良いトコ持ってかれないようにね~。常に意識しときなさいよ、……ちゃんと見てるから。 知ってるに決まってんでしょばーーか!めっちゃ痛いんですけどどうしてくれんの!(踊らされているのは自覚している。けれど、彼が誰彼構わずこうしてちょっかいをかけているわけでは無いとも知っている。自惚れかもしれないがその言動の根底にもっと暖かなものがあってこそのものだと思えば憎らしく思うことも出来ない。かといって良いようにされるがままなのは気に食わない。反射的に言い返しては大袈裟に額を擦り、むっと口を尖らせるのだけれど。)ははっ、確かに。じっとしとくの苦手そうだもんねぇ。……でも別にきっちりしなくていいんだよ、お茶は美味しく飲めるのが一番だっておばあちゃんもよく言ってるし。(煽る様な物言いから一転、親愛なるその人について触れた声色は和らぎ穏やかなもの。敬愛の念に細められた眼差しでひやりと冷たいボトルを両手で包んだなら、頷いて見せた。)紅茶とかも好きだけど、何だかんだ落ち着くのはやっぱ緑茶。おばあちゃんの淹れてくれるのが一番だけど、売ってる奴の中ならそれが好きかなぁ。宮は?一番好きなのって何?(甘くまろやかな味わいを一口堪能しては、そう問いかけて首を傾げる。その身を蝕む異変に気付く事無く、普段通りの調子で。) |
Published:2019/06/18 (Tue) 15:56 [ 37 ] |
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