白雨
--焦がれあった連星の紡ぎ--

[ 他の物語を読み返す ]



(しずくで烟る視界を晴らすのは。)
kotaro.png
木兎光太郎
(バレーボールを見つめる瞳に曇りはない。コートを一瞥して酸素を吸い込むなり膨らんだ胸は高揚感で満たされて、いざ己が一番輝ける舞台へ。自校応援席にたなびく横断幕に書かれた文字を強く見つめて拳を握った。魂を込めるように。一歩踏み出せばシューズが待ちきれないみたいに鳴いた。心地の良い緊張感に張り詰める仲間たちの呼吸音さえも聞こえる静寂、それを割くホイッスルが鳴ったことは覚えている。――楽しい、楽しいたのしいたのしいたのしい!!ボールがとんで、こみやんがとってこのはがあげる。わしおがうつ、ブロックにたつ。さるがとぶ。サーブをいれる。たのしい。ストレート。はいらないのはたのしくない。イッパツでもおおく、むこうのコートにうちこみたい!あかーし、はやくおれに打たせろ!!)……ンン!?(途中、コートを変えるタイミングで見慣れたふわふわの茶色い癖毛を見つけた気がする。熱気を呈して温まりきったコートが俺を呼んでいると言わんばかりに落ち着きのない情操の片隅ですら、なぜだか見つけてしまうひとりの姿を眼裏に描いたなら観客に向かってエールをせびるべく両手を振り上げ、そして。右眼の奥に鈍痛を覚えた。咄嗟の痛みは僅かに瞬きの数を多くした。ねだったお蔭で欲しい応援は貰ったから平然として控えに戻るけれど、鳴りを潜めた痛みの代わりに掴みきれない違和感が尾を引いた。ほんの数分の余暇はそれきりで終わってしまって、再開する後半戦。はじめの揚々たる勢いはどこへやら――木兎光太郎、抵抗虚しく今季のスランプn回目に突入した。)なーんか、なーんかおかしいんだよな。バレーしてないときはそうでもないのに。(煙に巻かれたように違和感は馴染んでしまって最早何が己を苛んだかも分からない。首を捻る疑問は隣の少女に向けられる。試合終了後、帰り際にとっ捕まえた少女に向け勝利を持ち帰れたことは僥倖だったが、本人の戦績としては大していい格好は出来なかったと言える。嘆息はこってりと絞られた後の所為か、自身のコンディションを憂いてか。ウジウジと地面にのの字を書く暗雲を背中に背負い込みながら帰路は一先ずファミレスを目指していた。「肉が食いたい」なる単純な欲求を懐事情と照らし合わせた折衷案。来るだろ?の横暴、ないしは良いじゃんいこうぜとなし崩しに連れて行こうとする強引さで連行する心算。)
Published:2019/06/11 (Tue) 10:29 [ 7 ]
男子って汗かいてもかっこいいからズルイ!得してる!!
maika.gif
鹿目舞花
(ほとんど引力みたいなもん。応援席に一歩踏み入った時点で、遠くからでも簡単に見つけられてしまうのは、恋心が所以だと言い切れてしまえばロマンチックな運命論だろうけれど。如何せん見目・声・挙動と他者より目立つ要素が揃い過ぎてるのが何よりの理由なのだから笑い話だ。同じ学校の見慣れた顔触れからご近所のお父さんまで、公式試合ともなると種々様々な色彩が席を埋め、観客席の視線を多く集めるその姿を、然し誰より輝いた景色で見つめているのはこの双眸に違いない。惚れた欲目も上等だ。一揃いのプラ製メガホンなるチープな応援グッズ身に纏い、声援に精を出すのはこの声が力になると、事実として体験として知っているから。キラキラの中心を夢中で追い掛けて、飛んで跳ねて弾けるボールが所狭しと駆け巡る。その先には彼がいる。)木兎ナイスキー!!(ワッと熱気を揺るがす声援は、横溢する慕情を忍び込ませるのに都合が良かった。貪欲な熱を燻らせる無邪気な双眸が眩しくて、)~~~っかっっ こいいぃ………。(はぁぁ、ってため息と一緒に口許覆った指の隙間からこぼれ落ちてった心の声が例えば友人の耳に止まったとして、「っや!みんながね?!」などと両手振り紡ぐ言い訳は最早脊髄に染み付いた反射運動にも等しい。もうとっくに抱え切れないこの想いがちょっとした拍子に駄々漏れちゃったら困るから、かっこいいのも大概にしてほしい、って、熱っぽい脳裏で考えていたものだから。「――…あっ??」盛大な空振りを皮切りに、期限切れの風船みたいにしゅるしゅる萎んでくエースの姿に、人知れず吹き出したところまでは目に止まらぬだろうと人目憚らぬド失礼。そんな忙しない数刻を経て、隣に並び立つまで、なんだか短いような長いような、やっぱりちょっと短かったかも。試合なんて大概が、終わってみればあっという間だ。)なにが?木兎がカッコつくかつかないかって話??(ぷぷぷと無礼引き摺った微笑を口端に飼い慣らしては、指先を唇に宛てがいニヨニヨと生暖かい目を向ける。声を掛けるか否かでぐじぐじ踏んでた二の足ごと捕捉されたら、心臓跳ねさせはしたものの本日の勝者の希求を断る理由だってひとつもない。して所望通り近場のファミレスへ爪先向けては程無く辿り着く道行きで、)でもすごいじゃんまず一勝!オメデト!!(って、手向ける満天笑顔は意図せずとも喜々ばっかりを描き出す。)
Published:2019/06/14 (Fri) 01:59 [ 21 ]
女子も同じじゃね?? ま、長い髪だと大変そーとは思う!
kotaro.png
木兎光太郎
そう!!ん?え、………俺っていつでも格好良くない??や、待て……たまに格好良くないそういうヌケ感ってヤツがいいんだろ?(数秒の間に忙しない眉と目許が縦横無尽に表情を描いて、最終的に彼女の方を見据えた困り顔で留まった。いつの間にかすり替わった話題を引き戻すのは「たまにだけど、うずくってーか」「変になってない?」だのと指で瞼を押し上げて眼球見せつける奇行だけれど、ただし得体の知れない問題に常に興味が向けられるほどまだ深刻性も薄くて、珍しく深い嘆息がガックリ落ちた肩と一緒に地面を目指した。)へーい、アリガトッ。コーチから宿題出ちまったけどな~~!(此方を向く青空みたいな笑顔にやおら顔を上げた瞬間こそ、ニッと笑って片手は人差し指と中指でVを形作る。勝利は嬉しく、己の調子は下降気味。相反する感情を器用に同居させながら、えいやと頭の後ろで腕を組んで歩き出す。前を向くのは得意だから、意識しなくたって先には進める。ご褒美と反省会を兼ねた行き先の広告旗を見つければ、それだけでちょっとは浮かぶ容易い心の一端があからさまに明るい声を張り上げて、)とりあえず今は肉!ステーキ!ハンバーグ!(自分よりもずっと薄くて華奢な両肩を背後から押し出すように促し、辿り着くファミレスに一歩侵入すれば、いらっしゃいませの声に「二人です!」を食い気味で答える勢いは既にいつもの調子を取り戻しつつある。夕飯には早めの時間、空いている店内は学生二人にもソファの四人席を与える余裕があるらしい。おやつタイムに肉を食らう考えなしは流石に木兎くらいだろうが、店側が企む期間限定メニューの誘いは牛の鉄板焼きステーキだったものだから即決即断。店員が運んでくるメニューを確認し、うむ、と神妙そうに頷いてから注文ボタンを押したくてそわそわし始めるまでの数分だけはきっと大人しい。)カノ何食うの?マンゴー?(目についたものを手当たり次第に口に出すストッパーなど存在しない唇は、注文を急かすせっかちより開いたメニューをなぞって嬉しそうに期待する単純な響きでどんなメニューであろうと悪気はなく背中を押す。ダイエット?そんなの、カノには必要なくね?)
Published:2019/06/15 (Sat) 23:39 [ 27 ]
えー!かわいくはないじゃん!…木兎はショート派?ロング派??
maika.gif
鹿目舞花
(忙しない一人百面相を見届けては、思わず笑気が弾けて結局此方は彼の前で笑顔一辺倒な気がしてる。)っあはは!そーゆーの普通自分で言わなくない!?あたしはスキだけど!(同性同士のノリでごく自然に音に乗せてから、一瞬だけハッとした。何をフォローしても意味深になっちゃう気がして笑みが固まる一瞬のうち、刹那の逡巡は唐突な話題の種明かしとして近付く顔貌への動揺へと摩り替わろう。「はぇっ、」と間抜けな喫驚が羞恥混じりに踊り出て、軽率なときめきは然れど内容を鑑みれば割合深刻な相談に結局つられてまじまじと眼球覗き込んだ。「ええ~?それ大丈夫なの?」「ゴミとかはなさそう~…」「いや目ぇデカッ」云々と自己勝手な所感を紡ぎ、「やばそうなら早めに眼科行きなね~」ってまるで後輩を諭すときと同じトーンの気軽な忠告へと落ち着いた。)木兎の調子はいつもジェットコースターだからな~。それだけ期待されてるってコトじゃん?よっエース~!(ド軽率な称賛は彼のチームメイトがよく口にするそれと同等の。当然みたくふたりきりの特権を甘受出来る距離感に擽ったい胸裏はけれども色気皆無の内実、行き先が喧騒ざわめくファミレスとくれば互いの身の丈にぴったり合った空気感は何より心地よくちょうどいい。急かすように触れる大きなてのひらに「わ!も~!」だとか口先だけでたじろぐものの、席に着くころには漂うおいしい香りに空腹を煽られる方が忙しい。)えっもう決まったの?早!木兎が肉肉言うから食べたくなっちゃったじゃんん~~……走って帰るか……(応援に消耗したとばかりの面持ちで胃を擦る。夕飯まで我慢の効かぬ食べ盛りは性差関係なく女とて同じことで、あまりに期待めいっぱい肉一直線の彼を映じていれば他人のものがよく見えてくるのも道理にて。さんざ逡巡ののち、結局は和風ハンバーグ単品に決する指先は地の堪え性のなさを透かし、)マンゴーも捨てがたいぃ……(切実な声は誘惑にとんと弱い時分。彼がピンポン鳴らし店員の"お待たせしました"が響くまでの間に、)ね、ね、これはんぶんこしないっ?(って、いたずらな口吻で此度此方から持ち掛ける誘惑はカロリーの罪悪感からの逃避半分、浮かれた乙女心が半分の内訳。指差す先にはさも甘ったるそうなマンゴーパフェの写真が鎮座する。)
Published:2019/06/18 (Tue) 01:14 [ 32 ]