霖雨
--極彩色のまぼろし--

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(花殻穿つ雨のなかで。)
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亀井澪桜
(張り詰めていた糸が緩めば、多少の綻びが生じるのは必然だ。故にこそ、当初は然して気にも留めていなかった。体調不良で欠席――学校生活を送っていれば日常的に耳に触れる言葉であるし、責任を負う青年であれば日ごろの疲れがある日表に出てきても不思議じゃない。これから先、大切な試合をひとつずつ着実に納めてゆくにおいて、ゆるりと休める日があるならば十分な休養をとることも必要だろう、と。「お大事にね。」の簡素なメッセージを送って、通常科目であれば青年の助けも出来ようと二人分のノートをいつもより丁寧にとった。さりとて。斯様な日が3日も続けば、心の奥がざわつき始める。顔見知りとなったバレー部の面々に話を聞いても誰も青年の仔細な状況を知らぬとなれば、そのざわつきは加速して。愈愈、胸中に留めることが難くなった心配の念が娘の相好に影を落した。「練習終わりだと遅くなって申し訳ないんで、先輩ちょっと見てきてもらえません?部長のこと。」相対していた小生意気な後輩の口唇より言葉が落ちる。傍らに立っていた寡黙な後輩も、続くようにひとつ頷きを見せた。「こういうときのための茶道部でしょ。」本当によく気の利く可愛げのない後輩である。)まあ、……そうね。(は、と薄い呼気を吐き出して、観念したかのように笑う。3日分のノートを鞄に収める頃には迷いはなくなっていた。教えてもらった住所をもとに青年の家へと続く道をゆく。1週間前に入梅を迎えた街は3日前から降り止まぬ雨によってしとどに濡れていた。行儀よく花壇にて花綻ばせるペチュニアの花弁は皆濡れて、互いにくっついてしまっている。その様を横目に見ながら、さりとて、花の知識に詳しくない女は静かに前を通り過ぎた。時刻は17時を少しまわった頃。青年の家の前にたどり着いた娘が、雨音響く中でそっとチャイムに触れる。雨はまだ止みそうになかった。)
Published:2019/06/20 (Thu) 12:19 [ 4 ]
雨が降ってる中来てくれて有難う。遠くなかった?
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茂庭要
(彼女と共に帰路につき、自宅へと帰れば試合中にも感じた眼の霞みに目薬を差す。視力の低下なのか疲れているのかは分からないが、引退とほぼ同時に就活をする身でもあるからと考えて翌日の夕方に行った眼科では疲れ眼という診断で目薬と痛み止を処方してもらい、あまり眼を使いすぎないことと注意されたがやはりと納得した。病院に行ったのだから大丈夫、と思っても昨日の試合を思い出せば次第に痛みが強くなって行き思わず蹲る。そうなれば怪我をしても滅多に痛みの主張をしない自分が耐えきれないといった仕種を見せた事で親の心配も一入となり、その時は痛む中でも心配のし過ぎだと笑って見せたけれど、そうではないと知ったのは日を跨いでから)………え?(起きた視界に入ってきたのは見慣れたはずの部屋が全て霞んでいた。今までの比ではない程に見えぬ視界に戸惑い、ひとまず近くの物で確認をする。枕元に置いていた時計を見れば文字は見えない。携帯端末も設定していた背景すら色の塊にしか見えず、呆然としていれば何時までも起きてこないと親が心配して見に来て、眼の色が変化していると分かった。何とか支えられながらも向かった洗面台で、鏡のギリギリまで顔を近づけてようやく見えた自分の顏は瞳の色を除いて見慣れたものだった。いきなり視力が低下し虹彩の色が変わるなんて病気か何かかと親と共に大学病院へと赴き検査を受ければ、結果は5日後に分かるという。その結果が出るまでほぼ目の見えないような状態では授業を受ける事も難しいだろうとその場で親を通じて学校へ暫く欠席の連絡をしてもらい、監督には直接電話で瞳の色の変化の事は伏せて説明をし、自分の休みについては結果が出るまで伏せて貰うように伝えた。そうして何日か休んだのはいいが結果が出るまでは落ち着かず、手慰みにバレーボールで常のように壁に軽くオーバーハンドで当てる。そのまま跳ね返り手に戻って来るだろうと予想したボールは予想から外れて指先を掠って床へと落ちた。見えない、という事は仲間にトスをあげれないという事。何故この時期に、という思いが無いわけじゃない。まだ、引退まではあの仲間と共にバレーをやっていたい。そして彼女に―)…っ、ぐ(また、目の奥が激しく痛む。痛くて辛くて、涙が出て来る。仲間に、彼女に会いたい。あの何気ない日常に戻りたい。その願いが届いたのか、聞きなれたチャイムの音に夕飯の買い出しに出かけている母親が戻ってきたのだろうかと、自室から出てインターホンで相手を確認すれば会いたかった彼女の姿がそこにあった。一人の時に人と相対すことがあればと出かける前に母親に入れて貰った黒のカラーコンタクトで瞳の色は隠せているだろう、と期待して雨の中来てくれた彼女へと応対しようと玄関の扉を開けて)亀井さん、こんな雨の中どうしたの?良かったら入って?(そう言って玄関の扉を開けた体制のまま、彼女を自宅へと招き入れようか。)
Published:2019/06/22 (Sat) 11:26 [ 14 ]
どういたしまして。全然。考え事してたら、あっという間。
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亀井澪桜
(逢いたい見たさは恋の咎。或いは、一日逢わねば千秋。もうひとつ類似した諺があったように記憶するも、いずれにせよ恋情が孕む切なさというのは昔も今も変わらないものだ。雨粒をのせたローファーは迷いない足取りで示された青年の家へと向かう。そうしてたどり着いた先、しとどに塗れたペチュニアを背後に置きながらインターフォン越しに青年か、もしくは、その家族からの応答を静かに待つ。降り止まぬ雨に、心巣食う寂寞を映せば、さめざめと零れ落ちるん涙のようにも思えた。さりとて、一向に応答は得られず、ゆるく首をかしげるとともに失礼にならぬ程度にもう一度と爪先を持ち上げた矢先。機械越しではない音が、娘の耳朶に触れる。まずは、開錠の音。次いで、扉が開く音。扉の開閉にセンサーが反応してか、薄暗がりの世界を玄関脇に据えられたライトの光芒が瞬けば、つられるように紫苑の視線が空を舞う。さすれば、世界の中心に結ばれるひとりの青年の姿。顔色や声の雰囲気から察するに、大病を患ったわけでもなさそうだ、と安堵の呼気をひとつ落として。)久しぶり。テストも近いのに何日も休んでるから心配になって――授業のノートとか持ってきたんだけど、思った以上に元気そうで安心した。(促されるまま門扉を開け、玄関先へと歩を進める。元気そうでよかった、と安心を抱きながら、しばらく見つめることが適わなかった青年の顔を瞳に刻もうと、見遣る視線はひどく穏やかな様相だ。)バレー部の皆も心配してたけど、その様子なら明日には学校に来れ……――(けれど、)――、?(徐々に距離が近しくなるのと同時、拭いきれぬ違和が胸に生ずる。青年の瞳から平素の穏やかな光芒を感じられないような。より正確に言えば、何かが青年の瞳に宿る感情を隠してしまっているような。平坦な色彩の双眸。違和の裏に感ずる既視感の所以を辿って、ひとつの可能性に行き着いた。)茂庭……、もしかして目、コンタクトしてる? カラーコンタクトっていうか、サークルレンズ、みたいな。(つま先に力をこめ、青年の相貌との距離を縮め、ひとつの問いを。よもや青年の体躯を蝕む所以がそこにあるとは思ってもいないから、声色は訝しむというよりも、純粋な疑問を孕んでいた。)
Published:2019/06/24 (Mon) 18:53 [ 19 ]
そうなんだ?なら、亀井さんが休んだ時は俺がノート持ってくね
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茂庭要
(薄暗い中に一つ、異なる色合い。傘だとは理解しているその色の下に会いたいと願った彼女が居るとなればそこだけは一層色づいたように見え、自然と口角が上がる。本来ならば門扉まで迎えるべきなのだけれど、現在の状態ではそれも難しい。近づきたくとも、見えないのであれば雨で足元が不安定な状況であれば彼女に近づくまでに異常に気付かれてしまうかもしれない。だからこそ、彼女に申し訳ないが此方へと来て貰うという手段をとったのだ。)うん、久しぶり、だね。俺もこんなに休む予定じゃなかったんだけどね…心配してくれてありがとう。授業のノートは正直すっごく助かるよ。流石に就職目指すって言っても、まずは卒業できないとだしね。(恐らく彼女の顔があるだろうと思われる場所を注視して、そう返す。雨のせいで薄暗い中、彼女に違和感を抱かせないようにと常と変わらぬように気をつけはするが、直接声を聴けるという事があの何気ない日々に戻れたように思えて小さく笑みをうかべて。)あー、いきなり主将が休んだりしたら…やっぱり心配させちゃってるよね。ごめんね、心配させちゃって。(彼女との会話がまるで日常に戻れたようで嬉しくなったのは確か。この調子なら気付かれていないと安心していたのが間違いだったのだろうか、途切れた言葉に首を傾げて続きを待てば、告げられた鋭い観察眼による言葉に息をのむ。)っ!あ、えーと…うん、ちょっとね。………やっぱり俺みたいな奴にはこういうの似合わないかな?(彼女を構成する色彩が近づいてきた、と思えば問われた疑問に思わず驚き一歩離れる。まさかバレるとは思ってもみなかった。何故分かったのか、とぐるぐると思考は巡り誤魔化すように少し頬を掻いてみるが正解等分からない。コンタクトにも早々気づいた聡い彼女の事だからもしかすると全てバレてしまうかもしれないという恐ろしさはあるが、それでも直接会って話しをしたいと思ったのは自分なのだからそれはそれで受け入れようと心に決めて彼女と向き合おうか)
Published:2019/06/26 (Wed) 02:27 [ 26 ]
助け合いってやつだ。ふふ、いいね。仲良しって感じ。
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亀井澪桜
茂庭なら、普段の素行もちゃんとしてるし、少しくらい休む程度なら平気と思うけど、念のためね。読みにくかったり、わかりにくい場所あったらLINEでも電話でもいいから連絡して。(品行方正とまでは言わずとも、青年の平素の素行は真面目と称して違いない。面倒見のよさも相まって、いらぬ苦労を背負いながら、それでも友人たちと笑いあう「いつも」の青年の姿を脳裏に描きながら紡ぐ声音は、自ずと穏やかな響きとなった。「私、字が小さいってよく言われるし。」斯様な付言を奏でながら傘を閉じ、鞄より差し出すは授業ノート。青年が受け取ってくれたらならそっとノートから手を離し、青年とともに高みを目指す面々の顔を思い浮かべた。)そりゃ、ね。けど、ちゃんとみんないつもどおり頑張ってたよ。二口と鎌先は相変わらず言い合いばっかりしてるし。青根が心なしか少しそわそわしていて、一年生の……黄金川は、トス教えてもらえないって少し寂しそうだったけど。まったく。謝ることじゃないでしょう……それに、謝るくらいなら早く学校に復帰、してくれたほうが嬉しい。(玄関先。じめりと肌に纏わりつく梅雨特有の空気の向こう。青年の邸内より知らぬ香りがふわりと漂う。所謂“他人の家の香り”というものは往々にして不可思議な心地を引き連れてくるものではあるけれど、此度に至っては特別な心地までもをつれてきた。他方にて、中庭でのいつものひと時を恋しく思う我侭な寂寞も微かに。いつもどおりを希求する心が、甘えるような、願うような言の葉を娘に紡がせる。けれど、それも違和を感じ取ると同時、刹那の間に泡沫へと消えてしまう。)似合わない訳じゃないけど、なんていうか……不思議な感じ。 男の子だし、あんまりそういうの興味ないって思ってたから。(カラーコンタクトレンズやサークルレンズの類に興味関心を抱くのは、ファッションや流行に敏感な少女たちであることが一般的。これまで部活に打ち込んできた実直な青年との間に結びつきを見出すことは難く、ゆえに素直な感想を唇からこぼしてみせた。物語の核心にはいまだ遠く、手を触れることはかなわない。)
Published:2019/06/28 (Fri) 18:06 [ 32 ]
え、俺亀井さんと仲良って思ってたけど違ってた?
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茂庭要
そう、かな?なんだか亀井さんに素行がちゃんとしてるって言って貰えると安心するよ。ん、なんだか至れり尽くせりでちょっと申し訳なくなるなぁ。でも嬉しいよ、ありがとう。(生徒会長を目指している彼女に太鼓判を押して貰えたようで何やらくすぐったく、その上彼女と電話を出来るのなら、もっと近くで彼女の声を聴ける機会があると思えば思わず小さく笑みが零れる。そうして何か色が動くのをぼんやりと追っていれば、動きが止まった。彼女の言葉から恐らく授業ノートが差し出されたのだろうと、普段の彼女との距離を思い出しながら凡その場所で手前側にある色の物に手を伸ばし、ノートの端に指先が触れた。そこから伝うように手を滑らせて、ノートを片手で挿めば滑らないように少し力を込めて「ありがとう、助かったよ」と伝えながら受け取る。そうして続いた彼女から聞く部活動の様子に映像が浮かぶ。二口と鎌崎が言い合いをするのを青根が止めて、黄金川は素直だからきっとトスを失敗する度に外周を走って来るやなんだと言っていただろう。簡単に思い浮かぶ光景にまた笑みが浮かぶ。)そっか…なんだかその光景が思い浮かぶなぁ。黄金川はまだ色々教えないといけない事が多いけど、あいつはきっと新しい鉄壁になってくれるから……うん、早く戻らないとだね。バレー部の様子を見に行ってくれて、俺に教えてくれてありがとう、亀井さん。………そうだね、俺も早く復帰したいな。(彼女だからこそ、部員たちも気負わずに普段の練習が出来たのだろうと思うけれど、わざわざ彼女が見に行ってくれたという事が嬉しくて、自然とお礼を言えた。だからこそ復帰したら嬉しいと言われたら此方も嬉しいけれど、この視力ではどうやったって難しい上に異常が起こった瞳の色を見せるわけにも行かない。それでも、嘘をつく事は出来なかったから希望だけを告げて。)似合わないって訳じゃなくて良かった。でもまぁ、興味がないっていうのは当たりかな…因みにカラーコンタクトはまだわかるけど、サークルレンズ?っていうのは何?(彼女にとって単純な疑問なのだろう、とは思ったけれども鋭く言い当てられたから敏感にいなっていたのかもしれない。なんて思い過ごしであった事を安心しつつ、ふと雨音が強くなっていっている事に気づけば彼女へと視線を向けて)って、亀井さんと話せてすごく嬉しいけど、あんまり長く引き止めるのもあれだよね。雨、これから強くなるかもだし…今のうちに帰った方が良いよ。多分、明後日くらいには復帰できると思うから…亀井さん、ノート有難う(もし戻れたならと思ってこうして彼女に会う事が叶ったのだからと、ほんの少しの願を込めて彼女に笑いかけながら「またね」と告げて彼女を送り出そうと軽く手を振る。再び瞳の奥が痛み出し、せめて彼女を見送るまではと痛みに耐えようか)
Published:2019/06/29 (Sat) 22:11 [ 38 ]