霖雨
--極彩色のまぼろし--

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(季節外れの蝉しぐれ。それはきっと夏の幕開け。)
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都築円佳
(一歩を踏み出すたび、ただでさえうるさい心臓が一層存在を主張する。緊張と恐怖と、それからほんのひとかけらの甘さ。これは、例えばたいせつな試合へと赴く直前であったり、初めて舞台に立ったあの日の高揚感にもよく似ていた。――「あれ、今日も月島やすんでるの?」一緒に帰ろうと誘いに来た中学からの友人の一言に、ぴくりと肩を跳ねさせたのが本日の放課後のこと。都築の気持ちをよく知る彼女はそんな反応に苦笑を浮かべ、「風邪かな?」と首を傾げていた。)……わかんない。(そして、そう、まさしく都築には彼が休む原因がよくわからないのである。彼が休み始めてからすでに数日が経過した。オレンジ頭の同級生のように元気溌剌というタイプでないのは確かだが、体力のコントロールは上手な彼だからこそ、こんなにも連続で休むのはとても珍しく思われる。初日、二日目と様子をうかがうメールはしたが、気持ちを知られるのが怖くて当たり障りないやりとりしかできなかった。結局解ったのは、どうやら体調が悪いらしい、なんて考えずともわかる情報だけである。分かりやすくしょげた都築に、友人はちいさな苦笑で返す。そして彼女は言うのである。そんなに気になるなら、お見舞いに行けばいいじゃない――と。)ぅえっ!?お 見まいなんてそんな 無理だよだってホラ月島には山口がいるし――!(最早焦りすぎて何をいっているのか解らなくなりつつ、けれども話を聞いた担任教師にそれならばとプリントを持っていくよう頼まれたのもあって、都築は今、彼の家へと向かっているのだ。都築がお見舞いにいくことになるや、友人はさっさと別の友人と帰ってしまった。頼みの山口もなにやら用事があるようで、都築はひとり敵陣へと向かう武者の気持ちになっている。)………っ、よし!(たどりついた彼の家の前で、吸って、はいて、深呼吸。何度も人差し指を彷徨わせ、迷いに迷いに迷いながら、――漸く、震えるその指は彼の家のインターホンを推した。)つきし、じゃなくて、えと、 けっ 蛍くんのお見舞いにきました、都築と言います……っ!(誰が出たかも思い至らず、月島くんだと可笑しいだろうかと彼の下の名を呼んだ。声が少しだけひっくり返ったのはご愛敬だ。)
Published:2019/06/20 (Thu) 20:56 [ 6 ]
暑くて怠くて面倒臭い季節が来るね。都築は夏好き?
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月島蛍
(はじめは危惧にも満たない予感。幼少期から眼鏡が手放せない程度に視力が悪かったから、視界が暈ける事なんてさして珍しい事象ではなかった。眼精疲労なんかで一時的に元々良くない視力が殊更低下する事だって侭有って、だから、特段変わった事なんて何も。頓着する程の話じゃない。眸の奥の痛みは過日の白星を境に徐々に輪を掛けるように、終ぞ眼鏡の有無も曖昧な程視界の境界が溶け合っている事に気付いた朝。急激な変化に何より驚いたのは自分より寧ろ家族の方で、その驚嘆でさえ大凡声色でしか情報を得られないのだから相反する自嘲が溢れたとて不思議じゃない。最寄りの眼科から大学病院への紹介状を手渡されたら愈々地に足の付かない深刻が少しずつ現実味を帯びたものの、結果原因も解らず終いとなれば諦観するにも落胆するにも不完全燃焼な当惑を中途半端に持て余したまま、安静を命じられた折は大人しく首肯示しはしたけれど。思えば大会に向け休日なんか殆ど無いような生活を送っていたから、さんざ面倒だの暑苦しいだの口先で厭ってばかりの日常に切り離されてしまえば、快適な筈の静かな自室には殊の外退屈ばかりが横たわっていた。暇潰しに本を開いてみたところで視界のギャップが却ってストレスになるだけで、早々に仕舞う代わり、瞼を落とし音へと沈む。ベッドサイドに転がるボールを手持ち無沙汰に触っていても、沈鬱の募る胸裡が空く訳でも無く、無意識の内に唇を跨ぐ溜息は最早幾度目かも解らない。湿度の高い外気ですら重苦しく、終わりの無い水底に沈んでゆくような静謐ばかりが漂う室内を、突如揺らしたのは聴き慣れた機械音ひとつ。何度目の呼び出し音で気付いたか、両親も、心配して軽率に帰省していた兄も不在のようで、仕方無し気怠げな足先を液晶へと向ける。)――……は、(ぱち。反射の如く瞬いても、不透明な輪郭は変わらない。けれど間違える筈も無い見慣れた色彩、耳馴染んだ声色。玄関へ続く扉のノブを下げ掛けた指先が、一度躊躇って引っ込められる。忘れる訳ない。忘れられる筈がない。奇怪に色を変えた己が双眸を。)はい、月島ですケド。(ピ、と一押し、ボタンひとつで外界と音声が接続される。ちいさな液晶に彼女の色が映し出されている。与えられる情報は音声だけの方が都合が良い。)………なんで居る訳。雑用?(素っ気ない口吻は、なればこそ通常通りで、存外元気である旨だけが正しく伝えばそれで良かった。)
Published:2019/06/22 (Sat) 01:47 [ 13 ]
暑いのはニガテ。でもねえ、夏のきらきらした感じは好きだよ。
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都築円佳
(「蛍くん」だなんて一度もつかったことのない呼称に面映ゆさを感じていればこそ、機械を通してとどいた音が彼で合ったことには動揺を禁じえなかった。てっきり彼の母親か、噂に聞いていた兄あたりが出てくるのではないかと思っていたからである。都築の方から読んだくせして、「つっ きしまあ!?」と驚きの声が空気を揺らす。)あ、はは、え、だ、 なんで、寝てるんじゃあ、(混乱は解りやすく泳ぐ瞳に現れた。テレビモニター付きインターホンとは何てずるい機械なのだろうか。こちらからは彼の様子がひとつもみえないのに、彼からはきっと自分の様子が丸見えだ。ふてくされたように唇を尖らせて、せきばらいを一度。)なんでって……お見舞い?月島、別に身体が丈夫ってわけでもないだろうけど、そんな連日やすむほど病弱でもないじゃん。それなのにこんなに休むって、よっぽど大変なんじゃ……って思ったんだもん。まあ、たしかにプリントのデリバリーも頼まれたんだけどお……(言葉がついつい言い訳がましくなってしまうのは、「友人」としての距離感をなんとか保とうと模索しているため。「山口だって心配してたよ」と、心臓が壊れそうになった時の緩和剤にすらなっている彼の幼馴染の名を出しつつ、)お見舞いもさあ、持ってきたよ。入れてよ、月島。……心配なの。友達、だもん。(俯く瞳はその態度こそ謙虚だが、声の調子は頑固な幼子のもののよう。ちらりと再びかめらにむいた瞳の色と、へのじに曲げた唇はうまくいけば強い意志とともに暗の言葉を伝えてくれるだろうか。すなわち――入れてくれるまで絶対に帰らないんだからね。)
Published:2019/06/25 (Tue) 01:00 [ 22 ]
……前半は同意だけど、その感性は謎。抽象的過ぎ。
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月島蛍
(たった数日、されど数日。騒がしく跳ね回るその声色に、随分と久しい感覚を憶えたのはそれだけ日常の中を彼女が占めていたからだと、こんな状況下で自覚する慕情は甚だ手に余る。最早癖でしかない黒縁を必要無いのに引っ掛けて、硝子越しに映じる輪郭が液晶を通したって曖昧な侭だ。的外れな当惑に「……そう書いてあるだろ。」と可愛げの欠片も無い声だけで示すのは表札の話。)目泳ぎすぎ。別に、3日も休めば元気だよ。普通に。(脊髄反射で並べ立てる語は、例え明晰と映らなくとも経験則で想像に易い彼女の言動を的確に指摘する。見えなくとも対峙してなくとも、編んだ日々は胸裏に息衝いている。心と共に、鮮明に。)……それはドーモ。でも大した事じゃないから。大事取って休めって言われてるだけで、ほとんどサボりみたいなもんだし。(スピーカーを介せば、ざらついた音声が機械越しに彼女の耳朶へと届くだろう。何かと話題に上りがちな見慣れた黒髪がしぶとく顔を出せば、「知ってる」と一声で軽く往なして、)そんな事言って、火曜5限に助けてくれる物好きが居なくて困ってるだけなんじゃない?(さも電話口みたいな気軽さで、慣れた舌先が悪癖めいて嘲弄を転がす。ピントが不安定な双眸は、けれど画面の上から揺らぎはしない。痛々しいまでの憂慮を看過する程の愚鈍で無くとも、見えない振りをしたって引けない防衛線。泣いてる?って、言い掛けて止めた。)っ………あのさぁ、(針の先が眼窩で身動ぐような、鋭利な痛みが眸の奥に走れば息が詰まって言葉が半端に途切れる一瞬。)……、都築は例え友達でも、男の家に一人で入っちゃうワケ。(或いは小馬鹿にした軽々しい口吻を装えていたら良い。即ち此方とて引く気は無かった。)
Published:2019/06/26 (Wed) 15:55 [ 29 ]
えー、わかんないかなあ。ほら、夏しかできない青春ってない?
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都築円佳
(きょろきょろとせわしなく動く瞳をずばり指摘されたならばぎくりとわかりやすく肩がはねた。「びっくりしたんだもん」と不貞腐れた声で反乱を紡ぐが、べつに彼を言い負かせるとは思っていないがゆえに、はあ、と深いため息がこぼれる。言葉の綾ではなく、少なくとも声音も物言いもいつもの調子だから、都築は深く息を吐いた。それは安堵の吐息である。)さぼり、わーるいんだあ。それにしても、季節はずれのインフルだったらどうしようかとおもった。もう完全に、あたしとか、絶対に感染してるじゃん、月島がインフルにかかったら。一安心、なあんて。(わざとらしい物言いは戯れであればこそ。ただし、声に確かな安堵と喜色が滲めば、その真意がどこにあるかは読みとれるだろうか。)あは、ばれた?月島以外のひとだとねえ、助けてくれないし。……まあ、あたしも、こう……月島がいないと数学やる気でないからさあ。あたしの成績のためにも、はやく復帰してよね。(彼と紡ぎあう戯言の応酬は楽しくて、都築がなにより特別に思う時間のひとつ。早期回復を願う声は紛れもなく本音である。――けれど、そんな風にわざとらしく作った戯れで自らの言葉を何重にもくるんだところで、未熟者の俳優じゃすぐにメッキは剥がれ落ちる。思いがけずあふれたあまりにも切実な声がいたたまれず、唇を引き結んだ。早く入れて、と追撃しようとしたところで、)――~~~~!!!(一歩早く音になった彼の言葉を受けて、理解し、そしてその相貌が朱に染まる。)ばっ なっ なにかんがえてんの!あ、あたしはただ……!月島のえっち……!(あいにくと経験値不足は甚だしく、ましてや好きな人にそんなことを言われたならば、いろいろと想像してしまったって致し方ないだろう。震わせた唇は明らかな動揺を示し、いつだって一枚上手な彼にペースを持っていかれる。「それなら山口よぶもんっ」と続けた強がりはいささかずれている気がしないでもない。)
Published:2019/06/28 (Fri) 23:18 [ 37 ]
ふーん、例えば?都築は年中無休で青春してるイメージあるけど。
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月島蛍
(視覚情報のみに頼らずとも、ぶすくれる音韻のみで容易に表情が思い浮かべられる程度に解し易い情動は今に限って都合が良かった。互いに核心を避けた物言いに終始して居ればその内飽きるだろうと軽率な目算はさて置き、その軽やかな声ひとつで浮上する単純な胸裡に我ながら呆れ返る。)診断書もあるし、正当なドクターストップですケド。何、僕がいなくてそんなに寂しかった?(軽口の応酬。嘲笑遊ばせる吐息が、インターホン越しどれ程の質量で伝わっているかなど知る由もないけれど。)そりゃあの距離で同じ弁当突けば伝染ってただろうね。安心とか言って、都築は公欠喜ぶタイプじゃないの。(友達としての、適切な距離感。踏み入らせ過ぎず、踏み込み過ぎない。然し過日の所業が余計彼女の内心を明け透けにするようで、ほとほと手に余る気持ちを持て余してばかりいる。そんな折に訪れた原因不明の症状は宛らよく出来た試練のようで、いっそ笑えもする心地なれど、だからこそ、今は。)まぁ自分の事で精一杯だろうね、普通は。そんなに僕にケーキ奢りたいって、都築実はドMなんじゃない?(無難な言葉ばかりを選び取ったって、彼女ごと遠避ける事が難しい事だって解ってる。鈍く光を放つ液晶を見るともなく見下ろしたまま、時折痛みの走る眉間を反射的に抑えるさまはまるで病人のそれだ。やっぱり会うべきじゃない。扉を隔てた外と内。湛える心情が似通っていたって、本質はきっと全然違う。予見通りの初心な反応が耳朶に転がれば可笑しそうに口唇は弧を描くのに、比例するように米噛へと刺激が走れば、痛みを逃がすようにして深く息を吐く。生憎溜息は癖のようなものだから、違和感は無い筈だ。)……そっちこそ何考えてんの?僕は別に事実を確認しただけなんだけど。(って、性質の悪い冗句だって笑った声で紡げている内に。)だからほら、もう帰ったほうが良いんじゃない。もう暫くは学校行けない事になってるし、自分で勉強しないと本当に学年離れちゃうよ。(優しさ模して柔く、柔く、手を離したがる癖、)戻ったらまた見てあげるから。……、弁当に免じて。(瀬戸際で見せる甘さは、弱さだった。)
Published:2019/07/01 (Mon) 23:14 [ 43 ]