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(慕情に花を手向ける。) |
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![]() 木兎光太郎 |
なー、カノぉ。俺さ、お前のこと好き。この世で一番、誰よりもいっとうすき。(病室のベットの上、布団にくるまっても居ないで、点滴の管もなく包帯もなく至って健康体なのにシングルベットの四辺形に閉じ込められたままの男が言った。検査結果が出た日、会えなかった姿の意味を図る余裕すらなく、数日後の現在。改めて彼女を呼んだ。メッセージアプリには、飾らない言葉で見舞いに来てほしいの旨を乗せた。生徒の中で目の病気で休んでいることを知っているのは今はまだ彼女だけだから、呼びつける理由はいくらでも用意できる。ただ一つ、“玉眼症”の文言だけは決して言わずに、彼女の都合のいいところで男の元を訪れてくれるのを待った。母親と入れ違い、彼女がやってきた報があったとき、何ともなく窓の外を眺めて居た顔が振り返る。もうすっかりぼんやりとした視界、薄暗く思えるのはそれほどに視力が弱まっているせいかもしれない。マットレスの上で胡座をかく男は背丈と色合いだけで彼女をまず認めた。「カノ?」確かめるように声をかけて、返事が返ればようやっと平素通りの気安さで、遅かったじゃんなんて拗ねた物申しが続いただろう。そして冒頭通り、世間話の延長みたいに紡がれた言葉は、覚束ない起動を描きつつも彼女を見据えた視線に沿いたい。)こんなとこで、言いてぇわけじゃなかったんだけどさ。さいごに、後悔しないように言っときたくって。(くしゃりと歪んだ眉は歪な口許もろともに苦笑の形。病室、なかなか退院しない現状、“さいご”なんて言葉。状況は不穏の一途をたどり、悪い予感を覚えるやもしれない言葉選びは正直半分目論見半分。この返答が冥土の土産にならんとばかりのプレッシャーを少女に強いて、男は人生を賭けた。鮮やかな感情に真っ直ぐな彼女のこと、笑顔も涙も顰んだ眉も落ち込んだ肩も何もかもがたった十数年生きただけの男を彩って、護りたい愛を教えてくれた。男の狭い世界はたったふたつ。その片割れに姑息な誘導尋問で答えを強請った。)カノの返事が聞きてぇの。……教えて?(甘ったれた声をさせるあどけなさは嘘っぱちだ。平素は雄弁な瞳が黙り込んでいる今、彼女に差し向けられるものがせめて甘いものであればいいと思ったそれだけ。内包された感情は強かで獰猛な鉤爪に似て、動機は神に背こうとするあくまでも攻撃姿勢の大勝負といったところ。) |
Published:2019/07/07 (Sun) 23:12 [ 4 ] |
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木兎まじ冠婚葬祭黙ってらんなそーだよね。あたしもだけど。 |
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![]() 鹿目舞花 |
~~~っ はあぁっ……!!?(そりゃもう可愛くない素っ頓狂が転げ出た。清廉な檻みたいな空間で彼は切り取ったように浮いていて、複雑な情操を持て余し曇った双眸は然し現今、丸く見開かれ間抜け面。――あれからずっと、気付いたら涙腺が壊れちゃったみたく彼の顔が脳裏に過るたび涙は駄々漏れだし、冷やしても誤魔化せない腫れぼったい瞼は紛れもなくブサイクで、よもや失恋かと周囲を狼狽えさせた急転直下の動向は「ペットが死んじゃって」って下手くそな嘘で誤魔化し続けた数日間。危惧は真実に違いない癖、長らく同じ時を共にした幼馴染には痛切が根付いたままの次の日に、「あたし木兎が好きなんだ」って、切なく笑って断った。「知ってた!」なんてあっさりとした返事に拍子抜けやら恥ずかしいやらでやっぱり泣けちゃって、多分人生で流した分を精算するぐらいの涙を落とし続けてた。理不尽とか不条理とか、それでもやっぱり簡単には捨てられない恋心とか、ループに陥って何百回も何千回もぐるぐる考え続けたって選び取れる未来なんて決まってて、彼の色んな顔を思い返せば返すほど笑い方を忘れてく心地だった。部活でだってしょうもないミスが目立ってはコーチに大目玉を食らってもう散々で、大して生きてない人生だけどドン底ってきっとこんな感じだ。だから彼の綴る文字ひとつで簡単に浮上しちゃう胸の内とか、離さなきゃいけない手をどうしたって伸ばしてしまう甘さとか、自己嫌悪の種なんてそこらじゅうに散らばっていて、意を決してようやっと彼へ向けた足取りはひどく重いまま。彼から聞いた自覚症状と、過日耳にした病状と、到底手に余る情報に照らせば彼の覚束ない挙動は恐らく医師の予見通りなのだろう。ぎゅっと締め上げられる心臓を抑え、努めてゆっくり呼気を吐く。痛々しいまでの双眸のかがやきは、こんな時だってどうしようもないぐらい、うつくしかった。「木兎、」呼び慣れた音韻から慕情が勝手に零れ落ちてしまう。まるで何時も通りみたいな応酬に、ごめんとか、いつも急なんだからとか、口先だけの苦言を呈す傍ら、あ、だめだ、泣きそう、って思ったところでの暴投だった。微塵も覚悟してなかったから、ノーガードで被弾してはすんっと小さく鼻を啜る。こんな泣き顔、見えてない方がいっそ都合がいい。)なに、……やだ、さいごって、(慄えて涙に溺れる青が、彼のすぐそばで揺れる。思わず伸ばしかけた腕をなけなしの理性で引き止めたら、ベッド脇のパイプ椅子がぎしりと鳴った。大好きな声がいつよりもやさしく、残酷に、決断を強いる。)木兎、……木兎はずるいよ……。(寸での所で押し止める雫とて、涙声を前にあまり意味を成さないだろう。酸素が足りない、息が苦しい。軋む心臓が痛いぐらい恋を叫んでる。)……あたしは、それに、応えらんない、 こたえちゃいけない、……っのに、(嬉しいよあたしも大好きだよって今すぐ抱き締められたらいいのに。迂遠な物言いは要領を得ずに、けれど。)木兎っ、死んじゃやだあ~~~っ……(ひーーん、と、情けなく喉が鳴る。終ぞ決壊した表面張力は為す術無く、吐露するは幼子より余程拙い希求。) |
Published:2019/07/10 (Wed) 01:41 [ 14 ] |
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出来るし!でも黙ってるとお腹痛い?て聞かれる!イカンのイ!! |
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![]() 木兎光太郎 |
(泣いて笑ってバカ正直な感情がかんばせにも瞳にも潤沢に湛えられて、コイツ今何考えてるかなんてのもお見通し。そんなふたりのはずだった。隠していないも業腹で、自信過剰な性格込みで好かれてないとは露程も思わなかった。向けられる眼差しがもしも全てだとするなら、きっと一番だとも想像できるくらいに。さらにはそれが傲りだとしても、都合の悪い結末は打ち砕いて見せる気概がこれまではあったのに、今はもう手のひらに漲る無敵感は皆無だった。知ってしまった絶望が闇を連れてくる。似合わない苦笑がこぼれ落ちるのを自覚した。)……、カノ。もしかして、(彼女の言い淀む様子は病気のことを、この目が待望している結末のことを存知のようだった。とぼけた顔して眉を上げ、「そっか」って呆気ない降参が唇を滑り落ちてから、ベッドの上で身をよじる。)悪いことは出来ねーな。(四つん這いが慎重にマットレスから足を下ろす。腰は降ろしたまま、真正面に彼女に向き合う。達者な口があれば彼女をだまくらかして、人生ごとを彼女に渡してしまえたかもしれない。何もかも単純な木兎光太郎だけになって、バレーに寄り添う心が亡くなってもはたして彼女が好きな己かは未知だ。今の己は紛れもなく、バレーがなくては生きていけない。木兎の側で天秤にかけられたものもあまりにも大きくて、持て余した憤りは今もなお燻っていた。彼女が答えないまま、俺が自分で瞳を潰したらどうなるのかなんて考えてあまりの馬鹿らしさに笑ったのが昨晩のどこか。綺麗事を宣うならいくらもだって並べられるんだろうけれど、彼女の涙に溺れて死にたい心がいたから、それだけは叶えさせてもらおう。ずるいのも俺で、死んじゃうのも、本当で。「こたえたいならそうしてもいんだよ?」なんて、悪魔ぶってみせながら。無垢なまま殺してくれるに賭けた心は生かされて、)ぶは 死なない おれはまだ死なないから、(溢れる雫は思い通りで、思った以上にいとおしくて、拭ってみたくて拳を握った。血が滲んでも解けない握力は堪える為のストッパーだ。いやに冴え冴えとした脳は彼女のことが見えないことを良いことに、彼女の泣いてる声に喜んでいる声をそのまま笑ばんで震わせながら追随させる言葉に容赦なくナイフを乗せる。これで、己の心を穿ってもらうのだ。後悔はしないから一度も詫びは口にしない。)バレーしてる俺が、好きだろ?(ベッド脇のパイプ椅子との距離は腕を伸ばせば届く距離。俺の恋は死に場所を選べるだけ幸せな方だ。)バレーの出来ない俺は嫌いだって、言って。そんなの俺じゃない。木兎光太郎は、そうじゃねーだろって。………っ、(言葉ほど卑屈な心情ではない。男に向けて言われる言葉ならいくらだって跳ね返せるのに、これだけはきっと出来ない。喉が詰まる。情けなく眉が下がる。彼女に今求めているのは、男が強いているのは、紛れもなく彼女の恋心を殺す作業。鹿目舞花を好きなだけの自分でいいなら、思う通りに応えてくれていい。でも、彼女と男の未来のために零した涙がもうすでに決断しているなら。)……舞花、━━………俺のこと好き?(彼女の方に身を乗り出して、問いかけた。玉眼症が阻んだのは、残り10センチ未満の距離。) |
Published:2019/07/12 (Fri) 23:24 [ 23 ] |
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想像できすぎてウケた 式典とか体調悪そうなのそれ? |
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![]() 鹿目舞花 |
(いつも真っ直ぐな彼を愚直に好きで、好きで居続けるに足る見返りがあるものだから、期待に揺れる"もしかして"と"まさかね"が行ったり来たりする毎日だった。甘く心を震わせる慕情の吐露は何に引き換えられるでもない福音に違いないのに、彼の視力を、未来を、夢を奪ってまで我欲を通す身勝手には成り切れない。何も純度100%の博愛でも無し、この声ひとつで絶望を振り下ろす勇気と覚悟が無いだけだ。本当は今すぐその手を取ってしまいたいのに。)ん、……ごめん、知ってる。その目、まだ、見えるようになるかもしれないんでしょ。(何かを腑に落とす様子を見止め、あっさり明け渡す内実とて常の二人にそう変わりない。機を得ていないだけの恋心以外に隠し事なんて何も無くて、なんだって知りたいし知ってほしかった。)……悪いこと、って?(何もまるで検討が付かぬ愚鈍でもないくせに、企みだって知りたくてとぼけるみたいに語尾が上がる。身動ぐ彼へ思わず伸ばした腕は支えるに足るだろうか。べそべそに濡れた頬が空調に煽られて肌寒くて、よもや過日得た情報以降で彼が視力のみならず命の危機にまで晒されているなんて知らずに過ごした呑気を悔いて、顔も心ももうぐちゃぐちゃ。なのに平然と余裕めいて嘯く煽惑にひととき眸を揺らがす無防備は、けれどそれをも捉えてくれる変に鋭い双眸はもう無いのだと知って、また一粒しずくを落としながら「ばかっ……」って口先ばかりの抵抗を、情けない涙声がつむいだ。つめたい頬を両の指が乱雑に拭う傍らで、何度だってどんな状況でだって心臓を擽る笑い声が燻るから、呆気に取られてひとみを丸める一瞬。ぶわ、と、性懲りのない眦が慄える。)っっねえぇ ほんと?!ほんとに?!これでそれもウソとか言ったらまじでキレるからぁあ゛~~…(彼に振り回されて、拗ねて、笑われて、機嫌なんて簡単に直っちゃって、恋と共にあるのはそんな日常の筈だった。「木兎、死なないで……」と余韻混じり縋るように囁く切実は、現状、こんな無機質なベッドの上で冗談にも成りやしないから。彼が居ない日常の無機質さを知った。彼の声が彩らない喧騒の無意味さを知った。もう二度と歩みたくない日々のために、必要な儀式を知っている。だから涙は止まらない。核心に触れる所作で、投擲される問いはもうほとんど答えみたいなもので、こんな問答に果たして何か意味があるのか。)っ……、(息が詰まる。好きだよ。ぎゅうっと引き結んだくちびるの内側で、音になっちゃいそうな声が死ぬ。光を失って、光を蓄える宝石を見据えて、今尚咽ぶほどの慕情を見つめていた。)木兎は、(か細い声を手繰り寄せて、今度こそ震えないように声帯を諌めて。少しでも逃したくない彼を映じるに邪魔な雫を拭って立って、)バレーができなくなっても、例えば喋れなくなっちゃったとしても、はしゃいでてもしょぼくれてても、 木兎はずっと木兎だよ。(そうして、何度だって踏み込もうとして踏み込めなかった距離。たかがたったの一歩分。名前を呼ばれて苦しくて、腕を伸ばしてつかまえる。ぎゅうって抱きしめたら見た目より骨ばってて、布越しの肌だってかたくて、軽率に脈動する鼓動が言わずともこんなに好きって鳴いてて、こんなのどうしたら"両想いじゃない"って証明できるんだろう。)……~~~~好きっ……(小さな小さな声が滑り出て、)じゃ、 なぃ……。(吐息が落ちた。ベッドの縁に腰掛ける彼の頭を包み込む形で、今までのいつよりもすぐそばで。木兎光太郎のすべてが好きだった。盲目なのは、今になってどちらの事か知れたことじゃない。)なんにもない木兎だって木兎だけど、 ……でも、それじゃだめなんだ。木兎はキラキラしてて、チームに絶対欠かせないエースで、コートの上で神さまみたいなひとなの。……そう生きてて、ほしいの。(慈しむような指先が髪を撫ぜる。脆弱な視界がまた滲んだ。)………一生あたしだけのものになってくれない木兎なんて、好きじゃないもん……。(追い掛けても手に入らないひと。これはそういう恋だった。) |
Published:2019/07/20 (Sat) 23:47 [ 36 ] |
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ちょっと意識失ってることはあるな。ある。話なげーんだもん! |
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![]() 木兎光太郎 |
(ゆるやかに死んでいく世界で生きる意味を見つけることは、多分出来る。今は縋るべきものがあるけれど、失くなったところで次を見つけるくらいの本能はある筈だった。生きることを止めるには、この世に未練が多すぎる。ただ、男は生き永らえたとは数えない。己の屍をつくり、二度三度の人生を歩んだとのたまうだろう。既に、ひとりの夜に死んだ骸がその辺に転がっている。彼女のぬくもりで目が覚ませるならそれ以上の幸せはきっとないのに。)目ぇ、見えねーの怖ぇんだなー……。そのまま、どこにいるのかも分かんなくなって、消えてくような感じ。……でも、目を見えるようにするのもおんなじ気持ちになんのよ。(やだよなー、ってあっけらかんと軽々しい響きが白い部屋に硬質な響きをもたらして落ちていった。「未遂だし」そのまま悪びれずにうやむやにしたい”悪いこと”は変に心の端に引っかかって尾を引いた。泣きべその音が何度もしゃくりあげるみたいに聞こえたから、流石に、これ以上の意地悪はやめてやろうと思った末。正直になる唇が紡ぐのは無惨で無情な現実でしかなくて、これも意地悪なのかもなって遠くの方で感慨が過った。)ウソじゃねーよ本当にホント、ちゃんと生きてる。(生き返れるよって笑った。今から手放さなくちゃいけないちいさな体は、まさに今自分のことだけでいっぱいいっぱいになっている。無我夢中で、必死なのが、何もかもこの俺のせいだっていうのに。その相好に何一つ返せず、どんないらえも言えず、伸ばしたい腕はぴくりともしないで。見つめたい恋をひたすらに見ないように目を背け続ける滑稽が、永遠に続くようだった。否、それは、恐らく。)ずっと。俺は俺。……だから、(やっぱり捨てられないんだと笑った。刹那、耳朶撫ぜる音がくぐもる。優しい匂いに包まれて、頓に息苦しくなることで事の次第を理解して喫驚に零れ落ちそうなほど目を丸くした。引き剥がすことも捕まえ返すこともままならない無力な腕が恨めしくって憎らしい。嗚呼、と漏れた嘆息は何を憂いた吐息であるのか、今はもう何もかもが重たく感じるから溢れ出しても仕方がないのだ。泣き出したい慟哭を飲み込んで夜が静かなように、出番のない爪を折って最後の大人しさを披露する。「ありがとう」と言ったらいけないような気がして、やっぱり「ごめん」は相応しくない。)……うん。(生き返るために捨てて、捨てられないから死んでしまった。埋葬したくもない恋が眼裏の奥でずっと燻っている。灰になってもぬくもりを保って、ただし、燃えてもいないのにひかりをつれて。)俺はバレーのために生きることにするわ。フラれたしな!(夢を選んだんだ、と。そう言い聞かせて終いとした。彼女の両肩に手を置いて、ゆっくりと体を離していく。然程差のない視線を交えられたなら、冷えゆく瞳の奥に生きたゆらぎが現れたのが見えたやもしれない。覚束ない足に力を込めて膝を伸ばして立ち上げる。この手のひらはバレーのために、今まさに生まれたばかり。右掌を見つめて、彼女の両目にあてがった。目隠し。泣きっぱなしの瞳を労るように、酷を強いたことを詫びるみたいにつめたいかんばせに暖かな温度を分け与えて、密かに顔を寄せた。己の手の甲ごしの、およそ彼女の眉間の間あたりに唇を触れさせて、祈るように目を瞑った。これが最後の悪いこと。キスも満足に出来ない子供のまま、木兎光太郎は大人になっていく。何度めかのこの人生、たった一人の少女の"一番"になれなくて、ただし男の"唯一"を捧げることには成功したのだ。これからどんな事があっても、たとえ死んだとしても、木兎光太郎が愛した女は一人だけ。瞳に映るひかりの名前は、鹿目舞花。二度と叶うことはない初恋の、相手だ。) |
Published:2019/07/23 (Tue) 01:12 [ 37 ] |
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