宮 侑-Miya Atsumu-

別にいずれは両方俺のもんになるんやし、
今、犬みたいに焦ってがっつく必要あらへんやろ。
まあ、そのいつかがくるまで自分は、
精々そうやって俺のこと、目で追ってればええんちゃう?

Character

一途で誠実な男だ。それでいて、この男の世界は兎角狭い。心血を注ぐのは、排球へ──貪欲に強欲に、自らの排球への想いを現実へ昇華せしめるためならば、自分自身のは勿論のこと、他者との縁すら貪り尽くすことを厭わない。生来の口の悪さも相俟って、辛辣を飛び越えた悪辣な言辞を紡ぐ姿も屡々見られるとなれば、宮侑に比較的に近しい存在からは性悪の判を押さえることが多い。他方で、宮が抱く排球の世界の境界線の外側──男にとっての有象無象と言える対象への対応と言えば、実に軽妙。人懐っこい笑みを携え、耳触りの言葉を紡ぐこともお手物だ。けれど、そこに実はなく、対する対象への関心の程度など好奇心以上興味以下というもの。流れゆく音楽を聞き流すかのように、当座的に会話を楽しむことはあろうが、会話の先、対峙する人物へ何かしらの執着を覚えることは稀有で、軽妙よりも軽薄と称した方が適切やもしれない。では、境界線の内側の、それこそ核心に近しい存在に対してはどうか。そのときにこそ、暴力的とも言える男の一途さと誠実さが表出しよう。しれりと他者へ牽制を向けながら、自分自身の腕に閉じ込める日を思っては独占欲を育み続ける日々。けれど、本気で思っているからこそ、なし崩し的な関係を好まず、思わせぶりな唯一性を振り撒く一方で、事ある毎に現況は「友人」の域であることを言葉の端々に滲ませる。天邪鬼で、面倒な恋心の伝え方は、皮肉にも一途さと誠実性の裏返し。円滑な人間関係の交流を求めたことすらない男は、自らが歩む恋路の果てが光に溢れていると信じて疑わない。故にこの恋に一抹の不安を抱いたことはなかった。恋の神の悪戯に巻き込まれ、試練を与えられるようになるまでは。

Daily

(進級から大凡2ヶ月。クラス替えを経て、大型連休を終えた高校2年の教室に蔓延る話題ほど統一性がないものも珍しかろう。ある者は未だ連休の名残を慈しみ、ある者は目前に控えた中間考査への憂慮から頭を抱え、またある者は部活への意欲を示してみせる。そんななか、5限目に控えた数学への愚痴が飛び交うグループの傍らでは、そのうちの一人が連休前に恋人を得たからだろうか、男子高校生4人によって所謂恋バナが繰り広げられていた。けれど、楽しげに語るは主に3人。残る1人はといえば、先刻購買で手に入れた人気の惣菜パン──入手難易度はSSに位置づけられている──を前に満足げな笑みを携え、自慢がてら自らの片割れに送り付けてやろうとスマートフォンのカメラを起動している真っ最中。さすれば、ファンクラブめいたものを持しながら、花の恋愛話に興じないばかりか、インスタ映えゼロの茶色の物体を被写体にせんとする男を見兼ねた友人の一人が、嘆息交じりに水を向ける。「宮は、彼女とか作らへんの?」耳朶に触れた固有名詞。続く疑問符の矛先を察すれば、淡い色の光彩がスマートフォンの画面より持ち上げられる。)作らへんよ。今んとこは。(裏返せば、その気になればいつでも恋人の一人や二人簡単にできるという意味で捉えられかねないシンプルでいて、ひどく厭味に満ちた響きだった。けれど、対する友人たちの相貌に怒りの色彩は一向に浮かばない。寧ろ、表出するは呆れや憂慮に近しい感情だった。なぜなら、彼らは知っているからだ。高校NO.1セッターと呼ばれ、全国誌で特集を組まれ、試合のたびにアイドル扱いを受けるほどのハイスペック高校生が、片恋の只中にいることを。そして、その恋に自ら制止をかけていることをすら。ゆえに、次いで紡がれるは嗜めではなく、一般論から個別論への転換の初手。「けど、焦ったりせーへんの。」)焦り? 何を焦る必要があるん?(とりあえず宮の気を引き続けることに奏功した友人Aの策は成功。曇りなき眼で3人を見遣る宮の様子に、此度は平素よりもより深く詮索をすることが叶うのではと、「たとえば。」斯様な期待を帯びた友人Bが気を逸らせる。「誰か、別のやつにとられたりしないか、とか。」あろうことか最下策であった。)は?(睥睨する瞳は冷ややかに、平素より幾分か低い音は吐き捨てられるかのように。)そんなことあるわけないやろ。クソみたいな質問やめぇや。しょうもな。(”アイツが俺以外に靡く訳がないやろ、クソボケ” 恋仲に至っていないばかりか、日頃少女に対しては線引きを明確に求めるくせ、こういうときばかりは独占欲を隠す素振りもなく言葉に視線に態度に滲ませる。散り散りの謝罪の言が耳朶を打とうと、小さく舌打ちひとつを添えて不機嫌さをまざまざと示すあたりに幼稚さが垣間見えるというもの。結局、一度降下した男の機嫌はこの後5分は上がることなく、予鈴5分前。「宮、おるか?」と男が所属する排球部の部長の到来に件の3人は尽きぬ感謝を覚えることと相成った。同時に、斯様に独占欲の強い男の標的となってしまった少女への言葉なきエールと、二度と揶揄はしまいという誓いと共に。)