都築 円佳-Tuduki Madoka-

あのねえ、いっつもそーなのよ。
なあんで神様は、あたしの大事なものばっか奪いたがるんだろ。
……これが、台本があって、終わりもある――
そんなツクリモノの物語だったらよかったのに。ね。

Character

ゆるい言動からはあまり想像できぬに違いないが、都築円佳はこれまでの人生を、神様に嫌われて生きてきた女である。幼いころから続けてきたバドミントンは、小学生時代には敵なし。中学時代には全国大会出場を果たし将来を有望視されていたが、肩を壊して二度とシャトルを打てぬ身体になった。初恋を覚えた近所の男の子と、想いを実らせ付き合い始めたは良いものの、手酷い形で裏切られ、長きにわたるトラウマを植え付けられた。少しの成功ののちにとんでもない失敗が待っているのはもはや少女の常であった。落ち込むことも多かったが、それでも腐ることなく前を向くのは都築の持って生まれた性質に拠るだろう。都築円佳は前向きな女だ。転んでも転んでも、少し時間をおいたらもう一度立ち上がることが出来る打たれ強さがある。バドミントンを喪って何に打ち込んでいいか解らなくなった時期はあったが、その経験すら糧にすればいいと気づけば、多くの人生を描き出す演劇にのめり込むようになった。失恋の痛手は受験へのエネルギーに変えて無事志望校への入学を果たし、そしてそこで、ふたたび「好きだ」と思うことが出来る人に出会った。都築はそれを幸運だと思う。けれど一方で、都築はあまりにも潔く、簡単に物事を諦めてしまうきらいがあった。神様のいたずらとばかりに不幸が続いても、「仕方ない」と切なそうに笑って見せる危うさを持っている。今の幸せがいつ終わるだろうかと心のどこかで恐怖しながらそれでも前に進むために、都築は今日も毎日を精一杯生きている。

Daily

はーあー、テスト疲れたねえ。やあっと解放だあ。(キーンコーンカーンコーン。授業の終了をつげるチャイムの音と同時に目の前にあった試験用紙が回収され、それに伴って教室内に喧騒がもどる。問3の解法はどうだった、問2の選択肢はあれだったなど、今更考えたってどうしようもないことで盛り上がるクラスメイト達をしり目に、都築はゆるく間延びする声を上げたら柔らかく双眸を緩ませた。)ん?テスト終わったし――そうだなあ、あたしは部活かな。新しい台本も来てるしね、そろそろ覚えないとやっばいの。陽ちゃんは――あは、デート?いーねえ、青春だ。(お昼ごはんを食べるべく、互いの机を合わせながら花を咲かすは恋バナである。昼食をともにとっている数名の中で、彼氏がいないのは都築だけ。順繰りに彼氏との現在を皆が語ったあと、「円佳は?彼氏作んないの?」と話題がこちらへ向くのは当然であった。)あたし?あたしはねー、……ん~~、彼氏、逆に、できると思う?(ちらりと過去の失恋が脳裏をよぎって、知らず、女の笑みを苦くさせた。)なんか、彼氏は欲しいんだけど。あたしって、そういうのすっごいへたくそみたいなんだよね。(言葉ににじむ自信のなさに、「そんなことないよ」と友人たちから慰めが飛ぶ。「××くんは?仲いいよね」――そう聞かれたとき、はた、と箸を運ぶ手が止まった。)………あは、(あはは。乾いた笑い声で誤魔化そうとするが、急増した心拍数にともなって上がった体温はごまかせない。じわじわと頬に赤が差すのは生理現象である。曲がりなりにも演劇部員、まして入賞を狙う身としては、こんなに感情があっさり表情に出るのはよくないと分かっている。分かってはいるが。一瞬の沈黙ののち、「え、ええ!?」と周囲の友人たちから驚きの声が上がる。心なしか嬉しそうだ。勘弁してほしい。)いや、ほんと、でもね。ほら、あたしが勝手に好きなだけだからさあ。それにあたしは部活もあるし!もうすぐコンクールもあるし!向こうだって部活忙しそうだし、告白は、まだ、その……まだ先っていうか。な、なんにせよ、××には言わないでね……っ(人差し指を立てて、唇に当てて内緒を頼んだ。他人の色恋は蜜の味。嬉しそうに首を縦に振る彼女らは、それじゃあ改めて、と声を潜めて身を乗り出した。「ねえ、いつから好きなの?」「どんなところが好きなの?」興味津々と言わんばかりに矢継ぎ早に繰り出される質問は、想定通りで天を仰ぐ。照れくささに参った、と苦笑を溢しながら、まなうらに彼の姿を思い描いて女は瞳をやわらげた。こんな毎日も悪くはない――そんな風に、ささやかな幸せを享受している。今は、まだ。)