秘密基地。昔、憧れなかった?それとも男子なら作ってたり?
小さい頃は遊具の中とか、見えない所にあるイメージだったんだけど、
意外と日常の中に紛れてるものなのかも、って。ふ、と思って。
ふふ。こっちの話。あ。わかってると思うけど、
私が秘密基地なんて夢見がちなこと言ったなんて、絶対秘密だからね。
Character
清く、正しく、美しく。その娘の双眸はいつだって穏やかな光彩を携え、静かな凪を纏いながら大衆へと向けられる。性差・性情の別なしに、惜しむことなく手を差し伸べる姿は世間において求められる”優等生”の姿と評して相違ない。当然だ。この娘は、斯様なる評を得る為に、努力と意識の上に先述した姿を大衆の前へと投影しているのだから。亀井澪桜。その実態は、ステータス厨、或いは、称号コレクターである。始まりは、「いい子でいた方が大人から褒められて、面倒ごとも避けられる」程度の打算的な思考から。それが次第に、他者から頼られ、他者から褒められることに快感を見出しては、「完璧である自分」を追求するようになった。外部との比較においてマウントを取ることではなく、あくまでも自他共に求められる像を追うことが目的であるからか人間関係は円滑かつ良好。負けず嫌いという生来の性格も相俟って、日々、勉学に、運動に、美容にと研鑽を積んでは今日も今日とて理想を追求し続ける日々だ。目標に向かって邁進する姿は獅子のようであり、擬態の巧みさはカメレオンを彷彿とさせるか。けれど。どれほど好きなことであっても、根を詰め過ぎれば息が詰まってしまうのが摂理──そんなときには娘は決まってコーヒーを片手にあたりを見渡す。いかなる仮面をつけることもなく、どんな色を纏うでもなく、自然体で接することのできる唯一の隣り。娘にとっての何よりのデトックスは、その場所で他愛無い会話に花を咲かせることなのだ。
Daily
(猫舌で、どちらかといえば甘党だった。否、過去形ではなく、現在進行形の話。付言すると、和食より洋食を好んだ。好きな茶葉はアールグレイよりもダージリン。秋摘みのものにたっぷりとミルクを注いで、やさしい味を堪能することが毎晩の日課にもなっている。抹茶はと問われれば、加糖処理が施された製菓であれば時折楽しむけれど、別段、抹茶自体は好きでも嫌いでもなかった。)……、結構なお手前で。(先刻舌へと乗せた練りきりの甘さが未だ残る口腔に、たゆんと揺れる深緑の液体が広がる。さすれば、豊かな芳香が鼻へと抜けて、けれど、独特の苦味が際立たされるように口いっぱいに広がった。未だに慣れず、決して美味とは称すことのできない渋み。さりとて、斯様なる思索を表情に表出することなく、少女は静かに吸い切を為し、先ほど唇を添えていた箇所を指先で清めていく。畳へと、ことりと茶碗が置かれれば柔く笑みを携えて、穏やかな声色でお決まりの賛辞を紡ぎだした。淑女然とした立ち居振る舞いは大和撫子の如く。和菓子と抹茶を愛する娘の園にひどく馴染む様は、カメレオンと称して違わなかった。本来の茶席であれば、退席まで未だいくつかの作法を必要とするものであるが、此度の茶会は高校の茶室にて──それも、茶の世界に憧れを抱く少女たちによる”ごっこ遊び”の範囲内。指導する立場のものも本日は不在と相成れば、茶碗の回収とともに静謐は終わりを向かえ、少女たちの膝上にて行儀良くしていたスカートのプリーツが軽やかに舞い始めた。最低限の片付けのみを終えた後は、再び皆が一同に介し、スクールバッグの中より各々の気に入りの菓子が取り出された。甘いものを愛するのは少女たちの摂理。そうしてもうひとつ、彼女たちがこぞって関心を向けるものといえば。「亀井さんは、恋人欲しいとか思わないの?」──恋バナである。)ええ、私?(突如として向けられた矛先に吃驚するでもなく、ミルクチョコレートを含んだ唇より声を奏でる。瞬きの刹那、まなうらに浮かぶひとつの姿。「みんなに優しいから、誰か特別気になる子とかいないのかな、って思って。」けれど、此処に介する誰一人として少女の胸の裡を焦がす熱の、片鱗さえ知ることはない。”そういうふうに”振舞ってきた。そして、これからもそのつもり。)やっぱり女の子だし、憧れたりはするけど──皆とこうして話してることが楽しいし、恋よりも、やってみたいこともあるから。今は、未だ憧れのままでいいかなって、思ってるよ。(中学の頃は、生徒会にこそ所属していたけれど副会長止まりだった。会長を務めたのは帰宅部の成績優秀な少年で。後から「澪桜はテニス部の部長もやっていて、大変そうだったから。」と要らぬ気遣いを受けていたことを知った。運動部の部長という花形称号は既に得た。だからこそ、高校では、今度こそ生徒会長に選ばれたいと活動の緩い茶道部へと入部したのだ。数年越しの切願──成就させる為ならば、胸焦がす恋に待てを命ずることなど造作もない。ペットボトルの中で揺れるぬるくなったミルクティーで唇を湿らせて相好を崩す。さすれば、追求すれど出てくる情報はないと判じたのだろう周囲は次なる矛先を吟味し始めよう。そんな、いつもどおりの、なんてことはない、ただただ平凡な日常の一幕。)