ごめんね、君のことは可愛いと思うけれど…私のヒロインにはしてあげられない。
でも一夜限りで構わないと言うなら…いいよ。
月明かりのスポットライトの下で、とびきり甘い夢を見せてあげる。…ねえ、二人だけの秘密に出来る?

Character

とある商社の令嬢として生を受けた少女には、兄がいた。その兄は世継ぎとして何の問題も無く、三崎自身が会社の為にと婿を取る必要も今は無し。となれば、束の間の自由な時を楽しみたいとばかりにふらふら彷徨っては迷子になるのが常であった。それは高校生となった今でも変わらない。通い慣れた学び舎であるにも関わらず移動教室の際には未だに道を間違える事もある。けれど、少女と呼ぶには少々大きなその体躯が何よりもの目印となり、友人に見つけてもらうまでがワンセット。付き合いの長い友人は慣れたものだと言ってくれるが、同時にこうも問う。「ここまで酷くなったのは、髪を切ってからね」と。中学から腰まで伸ばしていた髪をばっさりと切ってからではないだろうか、と。当の本人はゆったりと微笑み「そうかな?」なんてとぼけて見せるが――その瞳にくすんだ輝きを宿してから迷子になる頻度が増えたことは確かである。断髪はあくまで役作りの為で私生活の変化だとかに何ら関係はないと言えばしぶしぶ納得はされるものの、しかし。すらりと伸びた手足にハスキーな声音は所属する部にうってつけのもの。髪を切って以来男役としてスポットを当てられ、学年も最上級へと上がった今では実力も伴って舞台に立つ頻度は高く、真面目な生活態度から人気も上々。真っ直ぐ上へと伸びていけるよう祈りを込めてつけられた名の通りに、見た目も中身も成長していったが、唯一、色恋沙汰に関してはその限りでは無い。来る者拒まず、去る者追わず。けれど二度目を与える事も、望む事もせず、ただ求められるがままに。まるで役を演じるかのように、求められる振る舞いをしていくうちに見た目も口調も何処か芝居めいた男寄りの口調となってやがては「王子」だのと呼ばれる羽目に。それが求められるのならばと益々その役にのめり込み――さて、行きつく先はどこであろう。自身の道標さえ見失って、それでも歩みは止められず、今日も微笑みを湛えながら校舎を迷い彷徨うのだ。

First Love

彼は兄の友人でね、幼馴染ってやつさ。明確な時期や切っ掛けはもう覚えていないけれど……彼は確かに、私の特別だった。「可愛い」って言ってくれたのも彼くらいだったかな。…その頃にはもう、私は周りの男の子たちよりも大きくなっていたし、女の子らしい振る舞いだとかも身につけようともしない、とにかくやんちゃな子だったから。でもそんな私の頭を撫でて、可愛いって言ってくれた――あの手が、うん、大好きだったなあ。まぁそんな彼は華奢でふわふわの髪を伸ばした、花の香りのする可憐な人と恋に落ちて、絶賛婚約中なんだがね。…その人が、あまりに自分と正反対なもんだから…笑っちゃった。やっぱり自分じゃ無理なんだなーってね。