恋ってのは、脳が関違いしてるらしいわよ。
ねえ、アンタにとって大切なものは何?本当に必要なものは、なに?
一時の感情に騙されないで、自分を見失わないようにした方がいいんじゃないの。

Character

作家を父に持つ由比ヶ浜の家には書庫があり、一人娘の夏希は昔から其処に籠るのが好きであった。文学から得られる知識をひとつずつ取り込み、得た知識をいかに自らの経験として蓄えられているのか、それを知る為に演劇へと足を踏み出すのは時間の問題であったろう。台本を読み込み丁寧に演ずるさまをプロのようだと褒められ、得た役はどんな脇役であろうと入り込んだ。どんなに称賛されても「こんなんじゃダメ」と不機嫌そうに眉を顰めるさまは、プロ意識の高い真面目な人間と他者からは言われる。或いは褒め言葉を受け取らない、偏屈な性格であると言われることもあった。然したる原因として、幾ら演技を褒められたところでどうしたって男役は出来ない小さな身丈が、コンプレックスなのが挙げられる。其れを只管隠すように妙に高圧的な態度で、自身を守る為にと棘のある言葉を向けてしまう事が多い。由比ヶ浜を知る人間は「素直になればいいのに」と呆れたように告げるが、とうの本人は本が在れば十二分であると本を持ち歩き、読み歩いている事が常。人嫌いというわけでもないが、誰も彼もを避けるような素振りを見た他者からの評価は「人嫌いの本好き」と言ったややずれたもの。其れを正そうともせずに「勝手に言ってれば」と短い棘を向けるからこそ、矢張り人との距離は縮まる事がない。凝り固まった強い自尊心を溶かす誰かは、果たしていつ何処で出会えるのか。今日も棘を向けることしか出来ない女は、本の世界に逃げ込んでいる。

First Love

アイツがアタシの頭を撫でてくれる手も、色んな知識をくれる声も、何もかもが特別だったのかもしれない。だからきっと、知らない間に勘違いしちゃったのよ。しかも仕事で忙しい癖に時間を見つけては会いに来てくれるから、どんどんと勘違いが深まったってわけ。瞳の色が知らない間に黄色っぽくなっていくし、痛いし、大好きな本だって読めなくなるし。鏡で見たときに、どうしてって思った。頭で理解してても、止められない気持ちが恐ろしかった。でも、アイツがずっと隠してた恋人を紹介して来て、おわり。あっけなかったけど、良かったって思う。初恋なんて、叶わない方がいいに決まってるのよ。