ブーゲンビリアをあなたに

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肆.スピカが流れた日
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種崎未稀
(やはり、此れは私への罰なのだろう。友人だと言いながらレエスのような薄い隔たりを感じていたこと。明るい、と言い切れる訳ではないけれど安定しそして確かに此方を見てくれていた未来を喜ばずに夢を捨てられなかったこと。そして───卒業までの短い間でも、傍に居たいと、願ってしまったこと。其れ等が今までの小さな罪と重なり合って、降り積もりこうして私への罰として眸に現れたのだろう。そう、この楽園は私には綺麗すぎた。綺麗すぎて一点の曇も許さないような楽園には私のような罪人は居てはいけなかったのだろう。屹度、そうなのだ)───だとすれば、…此れも当然ね。致し方のない、当然の処置だわ。…ごめんなさい、お父様。ごめんなさい、伯母様。(思い出す、数刻前。聴こえた足音は、あの夜から数度尋ねてきてくれた優しい彼女の、羽のように軽やかで慈しみのある足音ではなかった。最後に聞いたのは何時だったかはわからない。最後に確りと顔を見たのも何時だったも忘れてしまったけれど、そう、確かにあの言葉を聴くまでは、婚約者であった人。この扉を再度くぐったときには婚約者『だった』人。彼は、最後まで優しかった。人情に溢れた、男だった。けれど彼は家の上に立つものだった。古い家だ。屹度沢山の声に揉まれたのであろう。もう殆ど見えない眸でも、それを告げる声が苦しげに聞こえたのは、気の所為ではないだろう。もう程々に古い付き合いだ。屹度、私への情も持っていてくれたのだろう。愛とまではいかなくとも、親愛程度にはあったのかもしれない。けれど、其れだけではどうにもならないのだ。そう、其れが人の世というものだから。静かに告げられた婚約破棄と、静養と云う名の幽閉が決まったという報せ。自らの言葉で伝え来てくれたことに辛うじて感謝を伝えられたことは、自らを褒めてあげたい。けれど、其れすらもなにかの御伽噺を見ているような何処か他人事めいて感じたのは、眸だけでなく心までも鉱石の様になってしまったのかもしれない。ごめんなさい父様、貴女の娘はもう人ではないのかもしれません。ごめんなさい伯母様、貴女の姪はもうレエスを見て手を取り合いながら笑えるような娘ではなくなってしまいました。其れでも、其れでも───何処か、身が軽くなったような気がしてしまうから、屹度、やっぱり私はこのような罰があたって仕方がないのでしょう。楽園という名の籠の鳥から別の籠へと移されるけれど、私にはこの楽園で過ごした時間と、私へと手を伸ばしてくれた彼女の記憶と想い出だけで、その最後の縁<よすが>だけで光を失った眸でも生きてゆけるでしょう。そう、彼女は私の光だから。彼女こそ、私の最後の希望。)嗚呼、────ごめんなさいね、こんなお姉様で。でも、この想いだけは、最期まで───。(あの日、ふたりの重なった手を照らしていた月の光は今日も静かに塔の上の独白をその影へと落としてくれていた。そう、此れは小さな罪の告白。誰も知らない、ただ一つの告白)
Published:2018/12/15 (Sat) 23:38 [ 28 ]