ブーゲンビリアをあなたに

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壱.いとけなくとも戀の花
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種崎未稀
(日々というものは、特にこれといった出来事がなくても当たり前に過ぎていく。自由な籠の鳥という矛盾を孕んだこの楽園のような場所での生活も、もう同じ季節を繰り返すことはない。教室の窓から見える空に見えていた景色の移ろいを来年の自分は見ることはない。そんな楽園の終焉を向かえるまでの時間を惰性のまま過ごす───そう、思っていた。事実、そうなのだ。そうだったのだ。…彼女の居ない時間は。)──嗚呼、いつも済まないな。…大丈夫、聞こえているよ。(同じ学び舎で同じ時間を過ごした級友に「呼ばれているわ」と声を掛けられれば外を見ていた視線を教室内に戻す。級友に声をかけられた後から、最上級生の教室だというのに臆することなく…否、臆して居たのかもしれないけれど、最早それすら慣れたというのか。桜まう季節の頃、"当たり前"のこととして些細な手助けをした少女は何時の間にか自分のことを姉と慕い姿を見つければ嬉しそうな顔を此方に向けてくるようになっていた。当たり前のことをしたまで、唯其れだけの筈だったのに。教室の扉の前で控えめに、其れで居て確りと存在感を感じられるのは胸の内に秘めた感情のせいだろうか。ゆっくりと立ち上がり、袴を直し無意識に髪を直すように撫でてから振り返る。そう、私はあの娘の「良き先輩」。その仮面を涼しげな笑みに張り付けて)どうしたの、幸子ちゃん。何か用事かしら?(そう、少しばかり低めの声で声をかけようか。)
Published:2018/11/15 (Thu) 19:31 [ 3 ]
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伊塚幸子
(不変的な、彩りの無い轍を歩んで行くだけの日々を過ごすと思っていた伊塚にとって、此の自由な籠の箱庭は別世界のように感じられていた。淑やかであれ、真面目であれ、御家に恥じぬ娘であれ。其の心構えこそ崩しはしないが、御家にいる時よりも幾分か伸びやかで在れる此の場所は、ふとして得た楽園のようなところであった。そんな楽園の門が開かれたのは、此の場所に辿り着いたその時ではなく、彼女に出会ったあの日、飛んで行った藍色の手拭を取って貰ったあの瞬間であったのだけれど。──矢絣柄の長着に深緑の袴、そうして緩やかなおさげを揺らし、上機嫌で廊下を進み行く。最上級生の教室まで向かうのも、最初こそ物珍しげな上級生の視線に少しばかり居心地を悪くしていたが、慣れてしまえば然程苦ではなくなった。)未稀お姉様、いらっしゃいますか?(出会って間もない頃は彼女に届くかも分からぬ程の声音で名前を呼んでいたが、今ではすっかりと臆することもなく、教室の扉から顔を覗かせて彼女を呼ぶ事が出来るようになっていた。両手を前で組み、にっこりと微笑みを浮かべ、彼女の後輩として恥じぬようにしゃんと背筋を伸ばして。扉から一歩引いた位置で、待つ。控えめに、迷惑にならないように──もしかしたら会いに来る行為自体が迷惑であるのかもしれないが──努めていた。斯くして名前を呼んだ人物が振り返ってくれたのであれば、嬉しげに笑みをいっそう深めることとなる。)はい。用事というか……実は、未稀お姉様にお願いがあって来たんです。(組んでいた手を一旦崩せば、顔の横で両手を合わせ、まるで良い事でも提案するように懐っこい笑みを向けた。そのまま、含めるように一拍間を置く。そうして彼女の瞳を凝と見つめ、)──ねえ、未稀お姉様。お姉様は、写真館の噂を知っていますか?(花洛学園でひっそりと流行している戯れ言。根拠の無い、ある噂話。狭い箱庭の世界では、花に移りける蝶が舞うように噂話はふうわりと広まって行く。彼女も知っている可能性が高いけれど、本題を持ち出す前に確認するよう尋ねて見せた。)
Published:2018/11/15 (Thu) 23:35 [ 4 ]
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種崎未稀
(振り向いたときに見えた顔はが、特別嬉しそうに見えてしまうのは己の願望だろうか。無意識に緩む眦はその姿を捉えれば)御機嫌よう。……私に、お願い?(はたりと不思議そうに瞬く。とは云え、知り合ってから今までもこうして何度か可愛らしく強請られる一幕もあったのだろう。傍まで寄れば己とは違う小柄な体躯でこちらを見て微笑む顔が先程よりも近くなる。全く、彼女の云う"お願い事"についての見当がなく──というよりも、彼女の小さな唇から奏でられる愛らしい言葉は、何時の時も自分に驚きを齎すことばかりだから予想の遥か上をいくのだが──まるで良い事でも提案するかの様な仕草の先を待つ眸は返すように微かに首を傾げながらも凝と見つめ返し)写真館の噂?……あ、そう云えば…。(此処数日、いやもしかしたらもっと前からかもしれない。実しやかに囁かれ水面を打つ波紋のように静かにそれでいてしっかりと広がっていくまるで甘い媚薬のような噂。それらを愉しげな戯れとして語っていた級友たちはどの様な表情で其れを語っていたか。思い出すように目を細めてから意識を戻せば、確認めいた相手にひとつ頷く)嗚呼、聴いたことがあるな。とは云え、噂話をしている様子を小耳に挟んだ程度で確りとした内容まではあまり知らないが……その、写真館の噂が、どうにかしたのかしら?(積極的に聴くほど興味のあるものではなかった…訳ではない。其れは一種の警告に似た、そんな胸騒ぎがしたから。そう、噂を語る級友たちの表情は愛しいものとの話を内緒話で語るときのような甘い表情をしていたから。噂は噂としてそっと遠巻きにしていた───なんて、今は相手の知ることではない。ただ、余り知らないと柔く首を傾げてその先を促した)
Published:2018/11/17 (Sat) 18:39 [ 5 ]
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伊塚幸子
(お願い、と口に出したとき不思議そうに瞬いた彼女の瞳に眦を細め、伊塚は言葉を肯定するように小さく頷いた。彼女におねがいと称して強請った事は此れまでにも幾度かあったが、此度のおねがいは一等──少なくとも伊塚にとって──特別なものであった。)そうです。写真館の噂です。(微笑は崩さず、彼女の反応を確かめるように言葉を繰り返す。写真館の噂、少女達の戯れ。彼女の反応を見て、聞いた事があるのであればと僅か開きかけた口は、けれど詳細を知らぬらしい言葉に一旦開くのを止める事となった。考えるように少し視線を逸らしたかと思えば、逸らした視線を彼女へとすぐさま戻す。そうして耳を貸して欲しいと言いたげに、片手をちょいと招くように動かした。彼女が少しばかり屈んでくれたのであれば其の耳元に、否、屈まないにしても周りには聞こえないようにと声音を落とした囁き声を出す。)あのね、お姉様。噂の詳細はこうです。九重葛の館で運命の相手と写真を撮ったのであれば、その写真は飛び切り美しく映る。って。(囁いた声を楽しげに響かせ、ほんのり紅潮した頬を隠すこともせず。辺りに視線をやり、二人の話を聞き取れる距離に誰もいないことを確認した。)私、その噂の真偽を確かめるために、お姉様とふたりで写真を撮りたいんです。なにより、お姉様と一緒に映った写真をお守りとして持っていたいですし……。ね、未稀お姉様。私のお願い、聞いてくださいませんか?(噂を確かめたいだなんてふたりで写真を撮る為の程の良い口実ではあったが、運命の相手と聞いたとき浮かんだのはひとりだけであるのだから、確かめる為には彼女の存在が必要不可欠であるのもまた事実。願うように両手を組んで、そっと彼女の顔を覗き込み願いを囁いた。)
Published:2018/11/17 (Sat) 23:16 [ 6 ]
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種崎未稀
(歌うようにお願い事を告げてくる彼女の表情はもう何度となく見ているけれど。其れこそ、毎回「今度のお願い事が一等です」などと言われていたかもしれない。毎回其れを更新するようなお願い事も、最早慣れたことか。寧ろ、今度のお願い事はどんなことを願われるのだろうかと期待のような感情にすらなるもので。此方の反応を伺うように身長の高い己を上目遣いに見上げる少女に、ここで渋い顔をしたらどんな表情をするのだろうかなんて悪戯心も芽生えたが、此処は淑女未満の籠の鳥達が囀る最後の楽園。自らの疑問符のついた言葉に肯定する様子に「その写真館の噂が今回のお願いかしら」と思うも、先を促すまま。耳を貸して欲しいとの乞いには小さく身を屈めて彼女が囁きやすいようにし)──運命の、相手…。(楽しげな秘め事を囁く声音を弾ませる相手を思わず見る。其の話の意味を、この少女は解っているのだろうか。その噂が本当だった時の、その意味、そして其れが意味することを。驚いたような眸で、願うようにこちらの顔を覗き込む少女を見ればその眸にはお互いが映るのかもしれない)……………婚約者じゃなくて、いいの?(思わず尋ねてしまうのは、相手の将来の相手。言いながら、微かに痛む胸に手を置くように己の胸元でぎゅっと手を置き)
Published:2018/11/18 (Sun) 22:56 [ 7 ]
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伊塚幸子
(彼女にお願い事をするのは、何も初めてではない。時には「一等大事なお願いなんです」と口にして、彼女に請うたことすらある。其の時折で彼女が願いを聞いてくれることが、伊塚には何よりも嬉しいことであった。──そうして此度耳元で囁いた願い事、その噂は、少女達の楽園には相応しい彩りをしていたに違いない。現に伊塚自身、この噂を聞いたときには心弾ませ、とっくに諦めた夢の色を思い出しかけたものだ。運命の相手、特別な人との写真。最初にそのことを聞いたとき思い浮かんだのは、婚約者ではなく彼女の姿であった。だからこそ運命の相手が大切な彼女であったのならと、伊塚はこうして彼女に会いに来たのだから。彼女の顔を覗き込んだ先で、その表情に驚愕の色が現れたのなら、ふと頬を緩ませる。)いやだわ、お姉様ったら。私、他の誰でもなく未稀お姉様がいいから、こうしてお願いしに来たんですのよ?(尋ねる言葉に、緩やかに首を横に振って答える。胸元で握り締められた彼女の手に気づくと、そっとその手に重ねるよう両手を彼女の方へと向けた。そうして彼女の手に己の手を重ねられたのであれば──たとい重ねられなくとも、伊塚は言葉を続ける。)……それともお姉様は、私とじゃ、いや?私は、お姉様と撮ったのならとびきり美しく撮れると思うのだけれど、お姉様は違うおひとじゃないと、だめ?(彼女に向けていた視線を下げ、落ち込むように肩を落とした。下げた視線をちらと向け、そうして拗ねたように横へと投げたのであれば「お姉様が他のおひとが良いなら諦めますけれど……」と、眉根を下げ、寂しさの色を隠すこともせず言葉を向けてみせた。)
Published:2018/11/19 (Mon) 23:12 [ 8 ]
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種崎未稀
(可愛い、それは可愛い後輩の請うことなんて本当に些細なことだから。一等などと強請られても、困るものではないのに。己にとってはそんなことで?と思ってしまうようなことでも、叶えてあげれば花のように綻んだ笑みを向け喜んでくれるから。仕方ないなという態を装っていることは…彼女には内緒だ。『運命の相手』と紡ぐ其の口と声音は、其の噂を口にしていた級友たちと同じ様に淡い輝きを纏い煌めいている。己だって、彼女の口から語られたという事実はあるにせよ胸を高鳴らせ脳裏を過ったのはその写真館で相手と撮る想像だ。)…幸子ちゃんは嬉しい事を云ってくれるのね。そう思ってもらえるだなんて光栄だわ。光栄だけど、…(いいのかしら、と考えるような独り言ちる声は重ねられた手に呼気となる。続けられた言葉に、先程よりも驚いたように目を丸く瞠る)嫌だなんて、そんなことないわ?でも、……………いいえ(言葉を途切らせれば小さく首を振り)…私だって、そんな素敵な噂のある写真館で写真を撮るのならば幸子ちゃんとが良いわ。だから、そんな顔をしないで頂戴な。(肩を落とし拗ねるような仕草をする少女の頬に手を添えようか。勿論、避けようと思えば避けられるようなそんな柔さで)噂、確かめに行くのでしょう?そんな拗ねたような顔で写真に写ってしまっては噂どころではないでしょう?…ごめんなさい、ちょっと意地悪が過ぎたわね。(許して頂戴と紡ぐ声音はかろいけれど。寂しさの色が見える眸を覗き込むように)
Published:2018/11/20 (Tue) 18:55 [ 9 ]
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伊塚幸子
(請うた言葉を聞いてくれる彼女に甘えているのは確かだが、伊塚がこうしておねがい事をする相手は彼女以外、他にはいない。たった一度助けてくれた先輩というだけではあるが、それでも出会ったあの日の出来事は、伊塚の中で色褪せる事のない特別な思い出になっていた。それこそ運命の相手と聞いたとき、迷う事なく彼女を選ぶ程度には。拗ねたような表情を浮かべ、彼女に自分以外の誰かがいる事を悲しむよう落とした視線は、けれど彼女の手が頬へ触れたことによって、自然と彼女の方へと戻る。覗き込むような双眸が視界に映り込み、かろい声音が耳に響けば一転して微笑みを浮かべた。)……お姉様なら、そういってくださると信じてました。(頬に触れる彼女の手の甲を包み込むように、そっと手を添えた。浮かべた寂しさの色は、彼女が同じ思いである事によって嬉しげな色へと変わっていく。)ええ、噂、確かめに行きますわ。お姉様の仰る通り、拗ねた顔だと噂どころではなくなっちゃいますものね。……ふふ。気になさらないでください。お姉様の意地悪なら、私、どんな意地悪でも許しちゃいますから。(大袈裟な物言いではあるものの、言葉通り彼女の意地悪であったのなら何であっても許してしまう事だろう。否、彼女と写真館へと向かう事が叶うのだから、拗ねる必要もなくなったというのが正しいか。)じゃあ、未稀お姉様。んっと……撮りに行く日なんですけれど、来週辺りどうでしょうか?それで、写真館まではそう遠くはないですし、もしお姉様がよければ写真を撮った後、少しお出かけしませんか?その、ふたりで過ごせたら嬉しいと思って……なんて、欲張り過ぎかしら。(少しばかり睫毛を伏せて、考えるように言葉を落とす。彼女とふたり、叶うならば一緒にいる時間が出来る限り欲しい。未だ此の楽園に足を踏み入れて然程経っていないとはいえ、彼女と過ごせる時間が有限であることを知っている。だからこそ、あれもこれもと欲張ってしまうのだけれど。)
Published:2018/11/21 (Wed) 00:45 [ 10 ]
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種崎未稀
(自分よりも学年が下の、ましてや春の頃に一度だけ助けたという奇妙で奇跡のような偶然の出来事が縁でこんなに慕ってくれるとはその時には思ってもいなかった。そう、最高学年の自分としてはなんてことのないただ当たり前の行動だった筈、なのに。慕われて、悪い気などなるはずもない。こんなにも真っすぐに此方を見てくれている眸は今まで出会ったことなどなかったから。)……そんなに簡単に、私を信じるものではないわ幸子ちゃん。私が悪い女かもしれないと、何度も言っていたでしょう。(頬を包んだまま少し眉を下げて困ったように微笑む。簡単に自分のことを信じてくれる少女を窘めるように言ったことは一度や二度ではないかもしれない。余りにも純粋で真っすぐな感情と視線に、どうすればいいのかわからないというように眸が微かに揺れ)でも、そうやって直ぐに絆されてしまうのだから私も甘いものね。(頬を包む手に細い指が重なれば小さく微笑む呼気にそれも直ぐに変わった。意地悪すらも許容するという言葉には、悪い人に引っかかるわよ、と再度窘めるような言葉が続くけれど声音が少し喜色を滲ませているのは長くはないとは云え春から時間を共に過ごしていれば彼女にも気付かれているかもしれない。)撮りに行く日、…そうね、其れが本題だったわ。───お稽古があるけれど、約束の時間には身支度も整えておくようにするわ。(予定を思い出すように視線を宙に彷徨わせ、ひとつ頷く。大丈夫、と約束に頷けば続く提案に本日何度目かの瞬きが挟まる)余り遅くなるといけないけれど、……………そうね、折角のお出掛けだもの。写真を撮って、はいお終い、では淋しいわね。とはいえ、私余り詳しくないから…幸子ちゃん、教えてくれるかしら?(今回の噂の様に、限られた時間を煌めく少女たちの流行りを。そんな風に、視線が微かに下がっている少女に首を傾げて問うてみる。そして少女の頬を包んでいた手をそっと外し、どうかしら、というように己の頬にあて)
Published:2018/11/22 (Thu) 18:26 [ 11 ]
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伊塚幸子
確かに何度も言われてますけれど……でも、お姉様が悪い女であるなら、尚更信じたくなりますわ。悪い女であるお姉様を信じ続けられるなんて、なんだか素敵じゃありません?(彼女の困った表情を双眸に収めれば、迷うことなく言い放つ。幾度も言われた事ではあるけれど、それでも彼女を疑おうとはしなかった。其の都度言葉を返し、彼女への信頼を示しては笑いかけていた。というのも彼女を疑おうという気持ちが芽生える事は──たとい彼女の言葉通り彼女が『悪い女』だったとしても──無いと断言出来るからでもある。底無しの信用を向け屈託無い笑みを浮かべれば、彼女に曇りの無い気持ちを伝える事が出来るだろうか。)お姉様は甘いというか……、お優しいんです。優しくて、素敵で。私の自慢のお姉様なの。(嗜めるように続けられた言葉に「私が引っかかるならお姉様だけだから大丈夫ですわ」そう笑みを向ける。春からの時間を出来る限り彼女の隣で過ごそうとしていたからか、彼女の声音に嬉々たるものが滲んでいるような気がしたのは、恐らく気のせいではないだろう。)じゃあ決まりですね!お姉様のお稽古に被らない時間に待ち合わせいたしましょう。私も、遅れないようにしますから。そうすると……、お昼過ぎだったら大丈夫ですか?(時間の確認をする為に、少しばかりの逡巡の後、時間は昼過ぎで大丈夫だろうかと尋ねる声は一音程普段よりも高い音色で発せられる。隠せない喜びを──寧ろ隠さない喜びを、顕著に表面に出して。)ええ、もちろん!では、写真を撮った後に私のお気に入りの場所をご案内しますわ。お姉様に私のこと、もっと沢山知ってもらう良い機会ですし!(下がった筈の視線は、すぐさま彼女の方へと戻される。何だかんだと誘いに乗ってくれる事が嬉しくて、つい緩んだ頬は嬉しさを満面に引き出していた。)じゃあ、お姉様。来週、約束ですからね。私、楽しみにしてます。(言うが早いか、軽く頭を下げてから踵を返すと「それじゃあお姉様、私そろそろ戻りますわ」なんて、約束を取り付けた事に浮かれた足取りで最上級生の教室前から軽やかに立ち去っていく。教室が見えなくなる曲がり角まで来たのなら、振り返って小さく手を振り、そうしてそのまま廊下を進んでいった。──そうして彼女との約束までの数日間、常よりも幾分か機嫌良く過ごしている伊塚の姿は、誰が如何見ても浮かれているように見えたことだろう。)
Published:2018/11/23 (Fri) 23:59 [ 12 ]