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續.渺茫なる春嵐の向こうに |
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![]() 伊塚幸子 |
(風呂敷に包んだ少ない小遣いと、大切な思い出の手巾。たったそれだけの荷物を持って、彼女の手を引き微睡みから起きようとする街をゆっくりと抜け出した。人並みを避け、見えるものを細かに説明しながら歩みを進めてゆく。そんな他愛のない話をして、他愛のない時間を過ごして、限りのある世界を過ごす。現実は優しくはない。あっと言う間に行き止まりに辿りつく。小遣いも底をつけば「……ねえお姉様、この先に湖があるらしいんですの」「その湖にはとある伝説があるんですって」語りだしたのは、そんな途方もないおはなし。「愛し合うふたりで湖の底に向かえば、来世では絶対に結ばれるんですって」今世が無理だとしても、先の未来で愛おしいひとと結ばれることができるのであれば、多少の痛みは我慢できる気がした。愛おしいひとも同じ気持ちであれば良い。そうであるのなら、きっと──) (──月を映しこむ暗く静かな湖は、侵入者を拒むこともせず冷たい温度でふたりを包み込む。一歩進むごとに、まるで婚儀をしているときのような厳かさを感じさせた。息を吐き出し、僅かに震える手の先、繋いだ愛おしいひとを離さないようにと力を込める。)ねえ、お姉様。生まれ変わったら、私、絶対にお姉様を見つけますわ。(水面に浮かんだ月に向かって、また一歩と足を進めた。)だからね、目印に……手巾で、手と手を結んでおいても、いいですか?(問いかけながら取り出した手巾を愛おしいひとの手に巻きつけて、自分の手にも巻きつけた。長さが足りずに取れてしまいそうで、取れないようにとぎゅっと握りしめる。進む先は暗い水底。途方もない、何の信憑性もない伝説は叶うかも分からないけれど。ただ彼女と終えることができる。それだけで、たとい生まれ変わらないとしても──世界で一等、しあわせものだから。)お姉様、ずっとずっとずうっと、誰よりも……あいしていますわ。(どうか来世の初恋も、あなたでありますように。) |
Published:2018/12/31 (Mon) 23:41 [ 42 ] |
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