ブーゲンビリアをあなたに

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参.ペイル・ムーン・シャドウ
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松島千歳
仁科は関係ない、私の事は好きに言えばいいよ。ただ、他人巻き込むのはどうかと思うんだけど?(――そんな言葉はつい先日、珍しく腹立たしげに級友へと告げたものだった。妙な色合いを発する様になった己の瞳に驚愕したと同時、日々の生活にすら支障が出るのはいただけない。そうした頃に湧いて出た写真館の新たな噂を馬鹿らしいとは思えど、己と共に写真を撮りに行ってくれた幼馴染にまで妙な被害が及ぶことだけはどうしても看過できなかった。故に、噂話に花を咲かせてこちらのみではなく幼馴染にまでその揶揄を向けていた級友にそう言い捨てたわけだ。平素人前で彼女を呼ぶ“忍”ではなく、親しさなど皆無と言わんばかりの名字呼びもまた、そういう理由から。和やかな時が続くのだと信じていた。或いは、それが突如として崩れてこそあの日々が平穏であり、何よりも感謝すべき日々であったと気付くのだろうか。――思索など、今は詮無きこと。月明かりばかりが照らす室内にて、少女は今日も絵筆を握る。画材道具ぐらいは持ち込ませてほしい、と教師に頼み込み、どうにかこうにか認めさせたそれらと向き合う、けれど。)…………くそっ。(思わず悪態がこぼれ落ちる。見えないわけではないけれど、見づらい、うまく描けない。数日前、彼女と共に写真を撮りに向かった其の帰り、ミルクホールにて描いた絵を仕上げたい、と幼馴染へ告げたのはミルクホールを出るその時だ。要望があればその段階でも絵を見せこそしたものの、やはり彼女を描くならば完璧に仕上げたい、等と笑いあったあの日がもう、懐かしい気さえしてしまう。泣きたい、わけではない。ただなんだか虚しかった。ふと見上げた空の月の色も、星の色ももう、よくわからない。ため息ばかりがこぼれ落ちては虚しく室内に融けていく。)
Published:2018/12/05 (Wed) 04:12 [ 22 ]
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仁科忍
だーかーら。そんなのただの噂に過ぎないでしょう?異人だの呪いだの、本当に貴女達女の子ってそういう類のものが好きなんだねぇ。(彼女と共に写真館へ赴いて、暫し。彼女の瞳の色が日に日にあの写真館の女性と同じようなものになっていく最中に生まれた噂は、あっという間にこの学園の中に広がった。何処からか聞きつけたのか、彼女と仁科が共にあの写真館へ赴いたことも知られているが故に、級友のみならずよく知らない生徒達のよい噂話の人物と成り果てている。初めはすぐに収束すると呑気に構えていた仁科も、彼女の住まう場所が移動されてからは抵抗するようになった。あれはただの噂にしか過ぎない。だったら何故自分が同じような瞳になっていないのか。何故貴女達はそれを説明も出来ない癖に、面白おかしく変な噂を囃し立てるのか。級友に、あるいはこちらや彼女を見てヒソヒソと話す生徒ら教師らにそう食ってかかったこともある。今までのおとなしい生徒という印象から一転して、教師にまで口答えするような危険な人物としてやや腫れ物のように扱われている中、何よりの気掛かりは彼女のことだけだった。噂がたってから、妙に距離を置かれている。それは呼び名ひとつではっきりとわかってしまうことだった。けれどどうしてなんて野暮なことは聞けない。彼女なりの優しさということは、長年付き合っていれば手に取るようにわかる。――でも。その瞳の事とか、たまに痛がる素振りを見せる事とか、色々聞きたいことがあるというのにともやもやする。教室で話しかけるのはきっと彼女が嫌がるだろうからと配慮して、こっそり抜け出した夜の寮。彼女の部屋にお茶くらいはあるだろうと予想して持ってきたのは饅頭がふたつ。それも飛び切り美味しいとの評判の物である。包みがカサカサと小さく鳴るのを気にしながらやってきた、一番上の部屋。どうか直ぐに追い返されませんように。祈ってから、コンコンと控えめに戸を叩いた。)――千歳ちゃん?僕。忍。……話がしたいのだけど、開けてもらってもいいかしら。(シンと静まり返る辺りに、少し低い声が響いた。)
Published:2018/12/06 (Thu) 00:12 [ 23 ]
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松島千歳
(伸ばした手が空を切る様な感覚だった。自身のみならばまだいい、けれども誰よりも大切な人に対してまで何かしらの被害が及ぶのは避けたかった。距離をおいたところで何の解決にもならないとしても、遠ざけることで守れるならばと思っていた。――一人の部屋はやけに広々したものに感じられてどうにも、居心地が悪い。嘗ては好ましかった月明かりの夜も、よく見えない今では疎ましい気がしてしまって、ささくれだった心に嫌気が差していく。うまく立ち回れたら違ったのだろうか、もっと社交的だったら良かったろうか、なんて考えても詮無きこと。手にしていた鉛筆を放り投げて苛立ちを沈めたくなる自分自身に兎角、嫌気が差していく中で聞こえた戸を叩く音に、続いて聞こえる声には、とした。)…………なんで――嗚呼、えと、今開ける。(居留守でも使って帰ってもらったほうが良いのではないかと考えたのは教師が己の様な生徒との接触を控えるようにと伝達している事を知っていた故に。彼女がここに居ることが誰かに知れたら、と思うと恐ろしい。けれど自ら突き放しているくせに彼女と話せない時間が苦しかった。ついで、部屋の前で待たせるくらいならば、部屋に上げてしまった方が良いだろうとの判断から急ぎ扉を開く。視線を少し逸したのは今の目を、あまり見てほしくない気がしてしまったから。)……とりあえず、あがって。お茶くらいしかないけど用意する、から。(彼女を急ぎ部屋へと上げて、さっさと扉を閉めてはそんな言葉を紡ぎながらお茶の用意をするべく動き出す。好きなとこ座って、なんて伝えた後、お茶をいれながらも怖ず怖ずと口を開こう。)あの、さ……しの、あの……ごめん。なんか……突き放すみたいなこと、してて。(カタン、と小さな音を立てて盆の上に茶の入った湯呑を2つのせる。彼女の前に静かに片方を置いて、もう片方は自らの前へ。うつむきがちになっていればゆらゆらと揺れる緑色をぼんやり見つめて。)……来てくれてすごく、嬉しい。(震える声でそう伝える。笑顔は浮かべられないけれど声は少し、和らいでいた。)
Published:2018/12/06 (Thu) 01:57 [ 24 ]
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仁科忍
(戸を叩いてから返事を聞くまで、永遠という時間が流れているように感じた。此処まで来る前に喉を潤してから来たというのに、あっという間にカラカラだった。もしかして、先の発言の声はかすれていたかもしれない。そんなことを考えていれば、中から返答が聞こえてくる。よかった、顔を見せてくれる。知らずのうちに強張っていた身体が、彼女の一声でゆるゆると解けていくようだった。そんな夢心地も束の間、開かれたドアの先の彼女は、想像どおり此方に笑みを浮かべてくれていなかった。それどころか、あからさまに視線を逸らされている。胸がつきんと痛んだけれど、表情は明るく笑顔を作るように努めた。)ありがとう、じゃあ遠慮なくお邪魔します。(表情さえ作って仕舞えば、声も案外明るくなるもので。
いつもよりもやや声を潜めてするりと部屋へ忍び込もう。好きなところへと言われても、他者の、それも初めて来た家の居場所には困ってしまうもので。暫しきょろきょろと辺りを見回したあと、もしテーブルなんかがあればその側へ居心地悪そうにちょこんと座ろうか。)んーん、気にしてないから大丈夫。多分だけど、千歳ちゃんは僕のこと守ろうとしてくれたんだろうなって思ったら嬉しくなっちゃったくらいよ。…………少し、寂しくはあったけどね。(目の前に置かれた湯のみを握りしめて、湯気を振り払うようにふーっと息をかける。ひと口お茶の苦味を味わったなら、そうだと声を上げて横に置いていた饅頭の包みを開けよう。)これ一緒に食べようと思って持ってきたの。夜だけど、今日だけ特別って事で。(ね、と笑いかけながら、ひとつを彼女の方へと渡そうか。あまりマジマジと見るのは嫌がられるかもしれないと思えど、視線はどうしても瞳の方へと注がれてしまう。写真館の女性と同じような輝きは、何か惹きつけるものがあるようだ。饅頭をひと口齧れば、粒あんが優しく口内に甘みを与えてくれる。ごくりと飲み込んで、恐る恐る尋ねてみよう。)その、……目の調子はどう?痛い?
Published:2018/12/07 (Fri) 19:59 [ 25 ]
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松島千歳
(彼女の声を聴く度に、やわい安堵と同時に不器用にしか振る舞えない自分自身への苛立ちが募る。深呼吸を数度繰り返してから扉を締める。できるだけ音は立てないように、けれども手早く。――殺風景な部屋だ、背の低い机と、布団と画材道具、窓は1つだけのくせに、一人で暮らすには広いとすら思える部屋。頼りない明かりだけが二人を照らしていた。空いた盆を横へと置いて、対面するように腰を下ろす。優しい緑の水面を見つめて、彼女に倣うように息を吹きかけた。ほの暖かさが頬を撫でる。)……優しいね、しのは。自分であんな対応しておいて私も寂しい、なんていうのは多分、なんかこう、違うのかも知れないけど……素直に言えば、寂しい。でも、もし、もしも……しのに何かあったら、そっちのほうが私、つらい、から。嗚呼、いや、言い訳なんだけどさ。(上手に言葉が出てこない、伝えたいことは多くあるはずなのにと思わず唇を尖らせるけれど広げられた包み、差し出される饅頭に思わず目をパチクリ。そうして怖ず怖ずと視線は彼女の方を向いて。)……有難う。ふ、ふふ……嗚呼、大丈夫。今日は私としのと、月しかみてない。内緒も内緒……とっておきだね。嬉しい。(思わず相好を崩す。やはり彼女と語らっていると自然と笑みがこぼれてしまうのだから不思議なものだ。彼女との幸いを感じる度に柔く、けれども確かに刺すような痛みを憶えるけれど、今はそんな物瑣末事。見づらくともまだ見える。だから大丈夫と自らに言い聞かせて喜びに双眸を細めた。饅頭を一口齧って、咀嚼して、飲み込んで。茶へと手を伸ばす最中に聞こえた質問に手を止める。思案は、一瞬。)ん、痛くない……っていったら嘘になるかな。でもそこまで酷くはないよ。どっちかっていうと視界がぼやけるっていうか……見づらい方がつらい。(それだけ告げて茶を一口。ほ、と息を吐いてからゆるりと首を傾げよう。)自分の目の事よか、周りが好き勝手やいやいわいわいしてる方が不愉快かも。私だけならいいけど、しのまで巻き込んだり……あとあのお店の女の人の事とか。よくよく知らない癖にただの噂に踊らされてる奴ら見るとなんか、腹立つ。……しのは、なんかさ、されたり言われたり、してない? 平気?(やや子供じみて拗ねたような声音にてそう告げればカタン、と音を立てて湯呑を置いた。矢継ぎ早に紡ぐ質問と共に、少しばかり心配そうな視線を、彼女へ。)
Published:2018/12/09 (Sun) 12:17 [ 26 ]
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仁科忍
(あまり物がない部屋は広々として見えた。彼女ひとりしか住んでないからだろうか、二人部屋の己の部屋よりも魅力的に見えたけれど、その言葉はぐっと喉奥へと飲み込んだ。画材は一番彼女らしいと言える物のひとつだろう。そういえば、あの時、写真館のあとで描いて貰った絵は完成したのだろうか。あの日から今日までがあっという間に過ぎてしまって、つい絵の事を忘れてしまっていた。)そんな事ない。千歳ちゃんも寂しいって思ってくれてると思うとなんか安心するよ。ああ、僕だけじゃなかったんだって、……やっぱり思った通り千歳ちゃんは優しいんだなって思えたから。(こちらに被害が出ないようにしてくれているのは何となく感じ取れていたけれど、改めて言葉にして伝えられると信じていてよかったのだと安堵した。漸く瞳がこちらを観てくれたなら、嬉しそうににっと笑みを浮かべよう。)あはは、そりゃそうか! もしも美意識の高い人に知られたら、もう非難轟々だからね、何としてでも秘密にしなきゃ。あ、指切りでもしとく?お月様とは、出来ないけど千歳ちゃんと僕だけでも。(そんな冗句を言いながらからからと笑える今は、他者にひそひそ噂しれる事なんかすっかり忘れてしまえる彼女との空間は心地よいものだと改めて。楽しいお茶の時間に不躾な質問をしてしまったと、言ってから後悔するも、思いの外するりと返答が返ってこれば、仁科の黒い瞳がぱちくりと瞬いた。それから安心したように表情を緩め、湯呑みを親指の腹で撫でた。)そっか、ならよかった……のかな?それがいい状態なのかはわからないけど、兎に角痛みが強くて我慢できないよりはずっといい、よね。(それはまるで自分に言い聞かせるように。心の底から喜べはしないけれど、一先ずは安心という事にしておいて。)本当、わざわざ教室まで見にくる人もあるんだから、皆さんよっぽどお時間があるのね。僕にはそう被害はないから大丈夫。まあ、ここ最近知らない人から話しかけられたり、名前を呼ばれたりすることはあるけど。(さらっと思い返してみても、ここ数週間のうちでそのような事が増えた。けれどその他にはひそひそされたり、変な視線を感じたりするだけだから、何も心配はあるまい。それよりも、だ。)でも僕は千歳ちゃんの方こそ心配だよ。ひとりの時とか、何かされてない?(自分の被害なんかよりも、噂のど真ん中にいる彼女の身の方を案じるべきだ。そっと手を伸ばして、避けられなかったなら湯呑みを持っている手に手を重ねよう。ぎゅっと強く握りしめる強さは、心配する気持ちの表れだ。)
Published:2018/12/11 (Tue) 00:51 [ 27 ]
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松島千歳
…………ほんと、優しいね、しのは。あったかい。……出会えてよかった、なんて……はは、大げさだけどね。(嘘じゃないよ、なんて小声で付け足してお茶を一口。暖かさが冷えた心まで暖めてくれる様な気がした。彼女の笑みを見ればもう、氷は溶け切ってしまった様で、松島もまたゆっくりと口角を持ち上げた。穏やかさが瞳に宿る。幸いを感じながら浮かべる笑みは柔らかに、穏やかに。)ぷ……ふふ、確かに。絶対に秘密だ。二人だけの。……、……うん、しとこう。何時かにしたみたいに。(思わず笑声を溢して小指をそっと差し出してみた。幼き日を思い出すようでなんだかくすぐったい。それでも、彼女を前にすれば不思議と躊躇いなくこんな風に振る舞えるのだから有り難い限りだった。幸せを胸に抱く。二人ならばどこまでも、秘密の中を歩んでいける気さえしてしまう。――投げかけられた疑問はもっともなものなのだろう。きっと彼女以外から飛んできていたら突っ慳貪な態度をとっていたけれど、他ならぬ彼女の言葉だから、そしてそれに暖かさを憶えてしまったから、なんでもない風に言葉は紡がれる。穏やかさは変わらず、瞳に宿って。)うん、大丈夫。本当に辛かったらまあ、不本意だけど先生には言うからさ。……心配してくれて、有難う。(大丈夫、の言葉は自分自身へも言い聞かせるように。そして何より彼女に不安があるならば取り除けるように、少しばかり穏やかな響きを持って。――続く言葉に少し、眉を顰めた。)……実害はなくても、あんまり気持ちよくはないでしょ。……というか私がちょっと腹たってる、うん。しのは関係ないのにさ。……ん、私は平気。まあ大体しのとおんなじような感じ? ま、大体の場合はそっちちょっと見てやれば皆黙るし。……ふふ、此ればっかりはこの怖い顔に感謝かな、なーんて。(ゆるゆると微笑んでいた表情を引っ込めて、浮かぶ表情は無、とでも言うべきか。けれども平素人前で見せる様な顔をしてから、ちょっぴり笑ってみせた。再び、饅頭と茶を一口ずつ。飲み込んで、少しばかりうつむいてからゆっくり、彼女を見た。)……いっこだけ、我儘言わせて。(真剣、と言うよりは淡い、淡い不安に瞳は揺らぐ。息を小さく吸って、吐いて。)――どんなお互いになったとしても、ずっと……仲良しでいてね。(子供のような言葉が溢れた。無意味な心配だとわかっている。お互いに呪いだなんだといった女の子みたいな噂は気にしないとも思っている、けれど――彼女を前にすると喜びと同時に不可思議なまでの不安が浮かんでしまう。嫌われたくない、なんて子供みたいだ。苦笑を溢しては『なんてね』なんて誤魔化すような言葉を添えた。)
Published:2018/12/11 (Tue) 20:39 [ 28 ]
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仁科忍
そう?僕は普通だと思うんだけどなぁ。え、…………う、ううううん!ぼ、僕も!千歳ちゃんと出会えて本当に良かったよ!たぶん、一生分の運気を使い果たしたって言われても納得出来るくらい、に。(――あれ、言葉が支離滅裂になってる。言い終えて一呼吸おけば、先程言った言葉がちぐはぐに思えて、頬を人差し指でかきながら呟いた。つまりは彼女と出会えてとても幸運だったということ。その事が伝わればよいなと思いつつ、もし笑われるようならば共に笑って流してしまおうか。)こうすると、小さい頃に戻ったみたい。あの頃は親の目はあったけどいつでも遊びに行けなかったし、おやつだってこんな風に内緒で食べられなかったね。……許嫁なんてのはいなくて、そこだけは気が楽だったな。(過日を想ってはふと短く息を漏らした。時間は流れるもので、その度に環境が変わるものだと理解はしえども、無邪気に笑っていたあの頃がふいにひどく懐かしくなる時もある。けれど、彼女という大切な人が、出会ったあの日からずっとそばにいるのは変わらない。それだけで仁科の小さな胸の中は幸せでいっぱいになれた。)まあでもその先生ですら、おかしな目を向けてくる人はいるのよねぇ。そりゃあもちろん、僕の1番の親友が大変な状況なんだもの、心配するわ。(奇異な目を向けるのは生徒だけじゃない。教師だってそんな目を向けるからこそ、こんな場所まで部屋を移動させられたのだ。告げ口する相手は慎重に選ばなければ、とその時に備えての作戦を、頭の中でのちのち考えるとして。穏やかな口調に、思惑通りに不安がやや取り除かれて行くようだった。それは外見からも、ほっと緩んだ表情で簡単に見て取れるかもしれない。)んんー……そうだね、もし僕が千歳ちゃんと同じ立場だったら怒れちゃうわ。…………うん、その顔はちょっと怖い。っていうか、いっつもにこにこしてる千歳ちゃんしか見てないから本当に心臓に良くない、勿論悪い意味で。(見慣れぬ無表情は、嫌な意味で仁科の心臓をどきりとさせ、左胸を上から押さえさせることになった。再び笑顔が見られればやや引きつった笑みをうかべよう。願わくばもう一生その表情は見たくないものである。――どこか不安げに見える眼差しと声は、引きつっていた頬を元に戻すのには充分なものだった。うん、と頷いて彼女が物を言うまで静かに様子を見守ろう。)――……当たり前でしょ?僕はそんな宣言をしなくったって、ずーっと、おばあちゃんになるまで、……いや、この世を去る瞬間まで、千歳ちゃんと仲良しでいるつもりだよ。(まるで子供のような事を言う姿は、出会った数年前とは全く変わらない。くすくす笑いながら、自分もそう思っていたとけろりとした調子で返答しよう。今回の事は実は彼女にとってかなりの負担になっているのかもしれない。だとすれば、一緒に支えてあげられるのは己だけだ。なんとしてでも、そのような不安を取り除いてあげたいと強く願った。)
Published:2018/12/15 (Sat) 01:22 [ 29 ]
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松島千歳
……そういうしのだから、だよ。…………有難う、そう言ってもらえるだけで、なんだろ……凄く、うん。……救われるって、言うのかな。(浮かぶ笑みはきっと情けないくらいにくしゃくしゃなものになっているだろう。それでも、彼女の前でならこんな表情だってできてしまう。幸いも、幸運も、導きであるのかさてはて。わからないけれど少なくとも言える唯一は――この時間がひどく大切で、かけがえのないものであるという事。)ふふ、本当に。……自由じゃなかったようで、自由だったのかね。自由なようで不自由だったのかね……嗚呼、結局今も昔も、あんまりかわんないのかもしんないな。しのが傍に居てくれて、笑ってくれて……一緒にいられてさ、此れはすごい、幸せなんだろうね。……許嫁もま、結局は出来るって結末があったわけですしね。(なんでもない顔をして、けれども少しばかり心に引っかかる何かを抱えて。何も知らずに生きていたあの頃にふと思いを馳せる。郷愁につい、双眸を伏せた。詮無きこととわかっているが、無邪気なあの頃を永遠に繰り返したい、なんて馬鹿らしい思考が脳内にふつりと湧き上がっては漏らす息と共にその思考も押し出してしまおう。今はただ、二人でいられる幸せに思いを馳せて。)はは、そいつは違いないや。でもまあ……表立って面倒事にはならないようにしてはくれるでしょ。あっちだってこの学院の名前に傷はつけたくないだろうから。……ありがと、本当に嬉しい。(教員からの態度とて、理解できないわけでもない。彼ら彼女らの思考を思えば尤もな反応だろう。気にしていないと言えば嘘にはなるが彼女がいてくれればそれで良い。――彼女の表情が柔らかになる度、心も温かになるばかり。ついクツリ、と笑みをこぼした。)でしょ? ……ん、ふふ、まあ威嚇用だし? なんてね。(悪戯っ子の様にちょっぴり口角を持ち上げては小首を傾げる。この瞬間が幸せで、暖かで――得難いものだと思うごとに、ふつふつと湧き上がる不安が大きくなっていくようだった。覆い隠すにも限界がある、ついつい溢した弱音へ返ってきた言葉に思わず、目を丸くしてから柔らかに、微笑んだ。)……嬉しい。有難う、しの。……本当に嬉しい。約束……私もちゃんと、約束する。絶対仲良しだって。……なにがあっても、周りに何言われても。絶対だ。(言葉は強い宣誓。真剣な眼差しで彼女を捉えては、きゅ、と引き結ぶ唇に強い意志を込めて。珍しく力強く紡ぐ言葉はただただ真っ直ぐ、何時か来るその日を思って。――彼女が一緒なら、何も怖くない。きっと、きっと大丈夫。子供に言い聞かせるように自分自身に言い聞かせては月へ願おう。どうか、このさいわいが長く続きますように、と。)
Published:2018/12/15 (Sat) 19:34 [ 30 ]