ブーゲンビリアをあなたに

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終.慕情の色彩
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仁科忍
(写真館を訪れて早3週間が経つところ、もうそろそろあの日撮った写真は出来上がっている頃合いだ。ふたりで受け取りに行こうと約束したのも3週間前のこと。今回の騒動で忘れていなければよいけれど、と不安を抱えたまま最上階の部屋へと訪れた早朝。あまり周囲に響かないように控えめにノックして、中から声がしたならばドアを開けよう。彼女が移動してからどれくらい経ったろう。どれだけの日が経つにしろ、目が不自由ではドアまで歩くのが大変だと判断してこその行動。もし怒られることがあったなら、慌てて締めて準備完了の声が掛かるまで忠犬よろしく待てをするだろう。部屋へ足を踏み入れるまでがどうあったにせよ、無事に顔が見られれば笑みを浮かべて挨拶を。この笑顔が前のようにはっきり見えないと知っていても尚、自然と浮かんできてしまうというものだ。写真館へ着いてきてくれるならば前と同じように手を取って未だ人の目覚めぬ町へと繰り出そう。こっそり抜け出す算段はついている。とは言っても大掛かりなものではなく、裏庭を掃除した後にこっそり外へ続く扉の鍵を開けたままにしておくだけの単純なもの。バレて閉められているかも知れないと内心ヒヤヒヤしていたけれど、それは杞憂に終わったようでほっと胸を撫で下ろした。朝のきんと冷えた空気、誰も歩いていない道、まだ夜の色が残る空。全部、初めて見るものだらけだ。)ね、こんな時間に抜け出したって知られたら、怒られるかな?(繋いでいる手が寒くないようにとぎゅうっと強く握りしめながら、茶化した様子で尋ねよう。本当はもっと大切な話をしたいのに、口から出てくる言葉はこんなのばかりだった。)
Published:2018/12/17 (Mon) 00:23 [ 33 ]
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松島千歳
(駆け足で時ばかりが過ぎていく。これからどうしよう、だとか、今後どうなるんだろう、だとか。そんな不安を抱く余裕すら無く、目まぐるしく日々は移り変わる。そんな中でもあの日彼女と共に写真館へと赴いて、写真を共に受け取りに行こうと約束したことはきちんと覚えていた。忘れるわけもない。けれど早朝に其の瞬間が訪れるとは思っていなかったもので、扉を叩く音に思わず目を丸くした。少しだけ驚いた顔をするけれど『少し準備するから』と声をかけてから一分程で入室を促そう。すっかり役目を果たさなくなった目を、けれどもゆるりと細めては彼女の来訪を喜んだ。――悪いことというのは、どうにも心を躍らせる。手はずに驚きこそしたけれど、ニンマリ笑っては悪くない、なんて溢しては歩みを進めよう。朝の冷たさはけれど、人々の声や視線のように頬を刺しやしなかった。)ん? 嗚呼、まあ怒られるだろうね。淑女としてどうなんだーって、うるさいあの教師がいつも以上にうるさくがなり立てそうだ。(軽口のようにそう言葉を吐けるのは他でもない、彼女が軽やかな口ぶりにて話しかけてくれるから。そんな中でもぐるぐると思考は巡る。写真を取りに行って、けれども其の出来栄えを見ることはもう出来ない。彼女との思い出づくりも今日が最後になってしまうかもしれない。何時までも仲良しでいられるとして、けれども会うのは、これが――。どのくらい進んだだろう。周囲の光景も正しく視認出来ないけれど写真館まではきっと、後少しだろうか。きゅ、と彼女の手を強く、けれども痛くない様に優しく握り返しては、海の色をした瞳を彼女がいるはずの方向へと向ける。)……ね、しの。馬鹿な事聞くね。(ぽつり、そんな言葉を溢しながらも歩みは、止めない。やや悩むような間を置いてから。)……どうせもう、婚約だって破棄されて、なんか、どうにもならないわけだし……私達がお互い会いたいって思っても会えないかもだし……言いたいこと全部、言っていい?
Published:2018/12/17 (Mon) 23:42 [ 34 ]
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仁科忍
(事前に約束するでもなく、身勝手にこんな朝早く来てしまったのだから追い返されることだってもちろん想定していたのだけど。目が見える前と変わらず自身を受け入れてくれる笑みに、ほっと頬を緩めようか。――小さい頃から悪戯なんてものには縁遠く、大人や友達に悪戯を仕掛ける子を羨ましそうに眺めていた頃もあった。それが今こうして誰も起きていない時間にこっそり出掛けるまでになったのは成長の証だろうか。父親に知られたら卒倒するかも知れないけれど。)ああー、あんまり先生に怒られるのは慣れていないから怖いなあ……。なるたけバレないようにやんないと。同じ部屋の子には話はしてあるから、上手く誤魔化してくれると思うんだけど。(もし朝早く抜け出した事がバレたらと思うと、寒さも相まって勝手に身体が縮こまっていく。白い息を吐いて、まだ下の方で微かにチラチラと輝く星を見つめる。彼女が今の景色を見られるようになるためには、写真の出来上がりを共に確かめるには。先日、写真館の女主人から聞いた事を告げなければならない。だけど初恋なんて大切なもの。たとい自身が諦めろと諭したところで、はいそうですかと捨てられる程どうでもいいものではあるまい。というか、彼女の想い人は誰何だろう。教室にいる誰かだろうか。自身の見知らぬ誰かではないといいなと身勝手な願望を抱きつつ。あとすぐの角を右に曲がって暫く道なりに進めば辿り着くというところ。手に込められた力と、こちらを向く気配に気が付いてそちらを向こうか。)うん?なあに、改まって。(少しだけ歩調を緩めて、続きを話すのを静かに待とうか。)…………うん、いいよ。それと、僕も言わなきゃいけない事があるの。先に、聞いてくれる?(この瞳を治す方法を先に告げておかねばならないと直感して、仁科も手に力を込めて切り出す。歩調はもう殆ど止まりそうなくらい遅くなっている。)あのね、この前あの写真館のお姉さんに、千歳ちゃんの眼の事を聞いてきたの。治し方も、よぅく知っていたわ、どうしてそうなってしまったのかも。あのね、……初恋をすると、時折そういう眼になってしまう人があるみたい。初恋が叶って仕舞えば視力は元に戻らないんだけど、初恋が実らなければ以前と同じように見えるようになるんだって、教えてくれたわ。(ぴたりと足を止めて、身体ごと彼女に向き合おう。さらりと彼女の髪を撫でる。)辛いだろうけど、その恋は諦めた方が千歳ちゃんの為だよ。
Published:2018/12/19 (Wed) 00:24 [ 35 ]
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松島千歳
まあ、もしもの時は一緒に叱られとく? ほら、私、帰るまでの時間伸びて一緒に居られるかもよ、なんて。…………そう? 同じ部屋の子になんか、言われなかった?(冗談めかして置かなくてはとても今に耐えられそうにもない。胸に灯る激しい感情を抑え込むように笑いながらも、彼女の言葉にふと浮かぶ不安をポツリと口にした。己の名を出せば尚更、出さずとも噂好きな“女の子”達の事だ、何か言ってや居ないかと妙に心配になってしまう。何も見えない中でも、冷えた朝の中でも、結ばれた手の暖かさだけが確かな証。ぐるぐると感情が渦巻いていく。家のこと、明日のこと、そうして幼馴染で誰よりも大切な彼女のこと。別れまで時間がない中で、それでも伝えたいと芽生えた心を伝えるべきか、言い出した今でも悩んでいる。この感情が、好きという思いが、果たしてなんと名をつけるべきものなのかまだ、理解しきれていなかったから。――だから、だからこそ。彼女が口にする言葉は松島千歳という一人の娘にとって衝撃であり同時に、酷く納得の行くものだった。先に、という彼女の言葉にただ頷き返して、見えない中でも視線は真っ直ぐ彼女へと向けて。其の唇が紡ぐ言葉に瞠目する。諦めた方が、確かにそうなのかもしれない。無意識に、唇を噛んでいた。視線はゆっくりと下方へ落ちて、空いた手はぐ、と握られていた。……燃え尽きてしまったほうが幸せなのではないかとすら思う、けれど。)…………そっか、やっと……納得できた。初恋、そうだね、そうだったんなら……うん、ちゃんと伝えられる。――しのが好きだよ。(この心に情熱が灯った瞬間を、明確には思い出せない。けれどそれでも。松島千歳という娘の心にあるのはたった一人。級友でもなく、ましては先日訪れてくれた優しい婚約者でもない。何時もそばに居てくれた、誰よりも優しい一人。結ぶ手の力をもう少し、ほんの少しだけ強くして息を吐く。そうしてから瞳を、彼女へと向けよう。)諦めた方が、いいのかもね。わかってる。しのにも迷惑かける言葉だってわかってる、でも……ごめん。好き、何よりも、誰よりもだ。……諦めなきゃってわかってる、伝えるのだって悪いことだってわかってる、けど。(遠くで輝く星など見えない。彼女の顔だって今はもう見えない。何も見えない世界でそれでも唯一つ。胸に宿る灯りと、握る手の暖かさを感じながら震える声で続けよう。)……諦めたくない。ごめん……ごめんね、しの。
Published:2018/12/19 (Wed) 20:56 [ 36 ]
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仁科忍
あは、いいの?それじゃあ最後までお付き合いしていただこうかしら。ああ、その子はあんまり噂とか好きな子じゃないし、誰かに言いふらしたりはしないよ。ずっと寮で一緒に過ごしてきた子なんだもの、ちゃんと信用出来る人よ。(こんな状況だ、彼女が心配するのも無理はない。しかし同室の友人のことは間違いなく信用出来る人物であるから、その事を説明すれば彼女の不安も吹き飛ばす事が出来るだろうか。何か伝えたい様子の彼女よりも先に告げてしまったのは、実のところただの逃げのようなものだったかもしれない。これを言えば、初恋の相手とやらを知らずに済むかもしれないなんて都合の良い妄想をして、そして打ち砕かれていく。撫でた髪が指から滑り落ちていく。ああ、わたしはなんて残酷な事をしてしまったのだと深く、深く後悔する。幼い頃から繋いでいた手やふたりで寄り添って歩く事が、正体不明の病を進行させる元凶だったなんて。ああ、なんて事だ。彼女から視界を奪った原因であると判明したというのに、その事が、告げられた言葉が嬉しくてたまらない。今にも僕も千歳ちゃんが好きと叫び出したいくらいではあるが、そんなこと言えるはずもなく、強く繋いでいない手を握りしめてぐっと言葉を飲み込んだ。その瞬間胸の中がかっと熱くなって、謝る彼女にどう声を掛けたらよいのかわからなかった。でも確かな事がある。此処で僕もと告げてしまったら。一生その瞳で大好きな艦船を見る事が出来なくなるだろう。絵を描くことを得意とする人の眼を奪ってしまって良いのだろうか。良いはずがない。でも、出来る事ならば嫁に行く前に、自身の気持ちも告げてしまいたい。堂々巡りの思考はいつまで経っても纏まらずに、ぽかんと口を間抜けに開けたまま諦めないという旨と二度目の謝罪が鼓膜を揺らせば反射的に彼女の小さな身体を力強く抱きしめた。)でも僕は、千歳ちゃんが一生絵を描く事が出来なくなっちゃうのは辛いよ……。(まるで自分に言い聞かせるように、喉の奥から声を絞り出す。だから、その恋は実らないと、どれだけ想ってくれても此方はそんな事考えもみなかったと言わなくては。そう思うのに、上手く言葉にはならなかった。)
Published:2018/12/21 (Fri) 18:35 [ 37 ]
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松島千歳
うん、いいよ。……ちょっとでも長く、一緒にいたい。……それなら、よかった。(彼女の言葉に安堵の息を吐いた。嗚呼、これなら多分自分がいなくなったあとも彼女は無事に、穏やかに過ごしてくれるなんて思って――ああ、ちょっと違う。本当はそこに自分の姿もあって欲しいけれどそれは望めぬ事だから、と自分に言い聞かせるように、本当に伝えたい言葉は息共に外へと押し出した。でも、多分。ここで言わなくては後悔するのだろうとはたと思った。だから、伝えてしまった。誰が2人を変えたのだろう、否、変わって等いないのだろうか。……彼女に、自分だけ見ていて欲しいと思ったのはつい最近のことではない。ならば、その時からなのだろうか。分からぬままで、それでも思いの丈を口にする。初恋が、世界を閉ざす原因ならば全くお笑い種だった。見えなくては大切なものすら描けない。光り輝く海を二人で見て、それを背景に彼女を描きたいなんて夢すら破れてしまう。紡がれる言葉に、やはり彼女は優しいと思うと同時にさらに心は惹かれていく。これが運命だと言うならば全く、残酷だ。唇を引き結ぶのは、一瞬。優しい温もりが、何故か切なくて、苦しくて、溺れてしまいたくて、息が苦しかった。)私も、しのを描けなくなるのは嫌だ。本当に……嫌だ。でも……諦めるのも、いや。…………ごめん、ごめんねしの。……好きに、なっちゃって、ごめん。(震える声でそう伝えては目頭が熱くなるのを感じて唾液を飲み込んだ。泣きたく、なかった。息を吸って、吐いて。魘されそうになる現実から目を背けたくて、また息を吐いた。)……私が男ならさ、しのの全部をもらって幸せにするって言えるんだ。でも、私にそんな力はない。わかってんだ、その位は。…………ほんと、ごめんね。でも、しの、お願い。……この目の原因がお前だって……しのだって思って、自分のこと責めないでね。……小さい頃から2人で作った思い出は、何があっても、誰になんと言われようとも大切な思い出で……見えなくなった今でも頭ん中でキラキラ輝く大事な思い出だ。だから、あのさ。(言葉を切って、一呼吸。両の手をそっと、彼女の背へと回して、数秒後には少しだけ顔を動かして海の色を、彼女へむける。ただ真っ直ぐに。そこにいることを確かめるように、みえなくても瞳の奥にその姿を思い描いて、1拍。)……ありがとう、出会ってくれて。なんか、ここまで迷惑かけっぱなしでこんなこと言う権利ないかもしんないせど……本当に幸せだと思ってる、しのに、出会えて。(たとえ何もかもが壊れるのだとして、それでもただ伝えたかった。たったひとつ、何よりも大事なほんとうを、誰よりも大切なあなたへ。浮かべる笑みは相も変わらず下手くそで不器用だけれど確かな幸せを思ってどこか、柔らかに。)
Published:2018/12/23 (Sun) 21:32 [ 38 ]
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仁科忍
(ぎゅっと強く抱きしめた温もりを、きっと生涯忘れることはないだろう。キンと冷えた朝の空気、人っ子ひとり歩いていない道、次第に明るくなっていく空。写真館の道すがら彼女の思いを聞いたことも、それに応えられるだけの度胸が自分自身になかったことも。もっと彼女みたいになにか胸を張れるような特技があれば、違った選択も出来たかもしれない。このまま連れ去って、どこか遠くで共に暮らせたかもしれない。けれど現実はそんなに甘くはない。この時代で、女だけで生きていくことの辛さは想像を絶するものだろう。しかも、今まで比較的裕福な家庭ならばこそ、その辛さに耐えられなくなって、結局は連れ出さなければよかったと、仁科に付いて来なければよかったと後悔する日が来るかもしれない。来てもいない未来を悲観するなんて馬鹿らしいけれど、否定する意味を見つけ出さない限り手を引いて汽車に乗り込んでしまいそうだったから。どくどくと心臓が血を流す音がする。自分のものか、彼女のものか。どちらだろう、どちらでもいい。このままひとつになってしまえばいいのに。)ううん、こっちこそ、ごめんね。わたし、千歳ちゃんのこと大好きよ、W……友達として。"実家へ帰っても、必ず会いにいく。多分昔馴染みなんだしおじ様やおば様も会わせてくれるでしょう?(抱きしめているせいで顔が見えないから、震える声で泣いているのかと思い、慰めるように背中を優しく撫でながら子供を諭すように告げる。婚約破棄になった今なら、それぞれが嫁に行く場合よりもずっと会える様になる筈、というのは自分自身への慰めでもあるだろう。)うん、そうだね。僕も、今ほど本当の男児だったらよかったのにって悔いたことはないよ。…………千歳ちゃんは、優しいね。わかった、責めないようにする。(次の言葉をゆっくりと待とう。海色の瞳が此方を向いてくれたなら、そっと頬を撫でようか。)ふふ、それはわたしもよ。千歳ちゃんと出会えて人生幸せになったわ。初めて会った時、話しかけて本当によかった!(嬉しい言葉に心がむず痒くなってくる。ふふ、と柔く笑みを浮かべて、もう一度頬を撫でたのちそっと額に唇を寄せよう。感謝の気持ちと、ひた隠しにしている気持ちを込めて。)
Published:2018/12/25 (Tue) 20:32 [ 39 ]
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松島千歳
(もしも、を考えるならばいくらでも想像できてしまう。それが余計に苦しくて、けれども考えられずにはいられない。夢の翼はいくらでも広げられるというのに、現実に選び取れる道はたった1つ。そして其の1つですら、もはやはじめから定められているに相違ない。若さを言い訳に、いくらでも行動はできるかもしれないけれど、それが如何に非現実的であるかは分かってしまうくらいには、もうとっくに大人だったのかもしれない。二人で並び立って何処かへ行けてしまえたらどんなに良いだろう。けれどそれが出来ない事ダということなんて、とっくに気がついている。だからこそ――友達として、と彼女が口にしてくれたことが何故か少しだけ、嬉しかった。)……うん、有難う。ありがとう、しの。(ごめん、と紡ぎかけた言葉を今度はどうにか飲み込んだ。泣かないようにと、涙のでそうな気持ちも一緒に。背中を撫でてくれるその手に、嗚呼、また涙が出そうになるけれどぐ、と堪えて代わりに1つ『ありがとう』と小さな声で付け足した。帰っても会える、だろうか。或いは彼女ならば両親も面会を許可してくれるかもしれない。そうだといい、そうではなくてはきっとやっていられない、なんて思いながら強く、目を閉じた。嫁ぐよりずっとたくさん会えるなら、それでいい。そう思おう。恋に破れた今、けれどもそれが残酷なことだとは不思議と思わず、寧ろ喜ばしいことだと信じられるから。息を吸って、ゆっくりと瞼を押し開く。ぼやけてばかりだった視界は徐々に鮮明さを取り戻していくばかり。見える、ならばきっと、描ける。それを幸いとするしかない、きっと、そうだ。――頬に触れる手のぬくもりについに涙はこぼれ落ちる。嬉しいくせに悲しくて、切ないくせにあたたかくて。)優しくないよ。しのがずっとこの事抱えてたら、ただ私がイヤってだけ。そんだけだよ。……ままならない世の中だけどさ、だから……楽しくって、素敵なんでしょう、きっと。――しのが私の初めての“友達”で、本当に良かった。(自らに言い聞かせるように友達、の言葉を強調して、涙しながら笑っていた。近い距離で、男女ならば睦み合う様な事なのかもしれない。けれどもそうだ、“おんなのこ同士”ならばなんでもないただのふれあい。額への感覚に目を丸くして、気恥ずかしそうに視線を逸らす。)……ずるいなぁ。(最後に1つ、そう溢しては手の甲できゅ、と涙を拭う。浮かぶ笑みは何時も通り、彼女にだけ見せる、何処か柔らかなそれ。)……行こっか。(もう見えるから、今度は先導だってできるはず。ゆっくりと笑みを浮かべて、写真館へと歩み行こう。ほろ苦い思い出を、けれども確かなさいわいとして、どうか世界が、燃え尽きるまで。)
Published:2018/12/29 (Sat) 15:38 [ 40 ]