ペイル・ムーン・シャドウ

──この学園の寮の一室に、囚われの姫君がひとり。

始まりはいつのことだったのか、分からない。彼女が「少し目の調子が悪いみたい」と微笑んでいたときより前のことかも知れない。如何いう訳か、彼女の瞳は、光と色を写すことを拒み始めた。それとは裏腹に、美しく色付いていった。光と色を、そこで堰き止めているかのように。以前の黒曜石のような瞳も美しかったけれども、今はまた別の宝石のような、それはそれは美しい色なの。

神様が彼女の美しさに嫉妬したのかしら。今、彼女は仄暗い世界にいる。これまで仲睦まじくお話をしていたお嬢様方は、「色付きの瞳が恐ろしい」等と仰って距離を置いてしまい、先生方でさえ「得体が知れない」といった視線を彼女に向ける。その瞳を「呪われし者」の証と称する方もいる始末。いつしか普通の生活が送れなくなってしまった彼女は、とうとう寮の一室に置き去りにされてしまった。あゝ、如何して、あれほどに美しく、か弱い乙女を閉じ込めることなど出来るのでしょう。

満月の灯に導かれて、わたしは姫君のもとへと向かう。真夜中なら、先生方も眠ってしまうから、大きな物音さえたてなければ、心配は要らないわ。茶器の音がカチャカチャと鳴るくらいは聞き逃してもらえるでしょう。目の周りを紅くそめた彼女は、わたしに気付くと無理をして微笑む。痛々しく、愛らしい姫君。暗闇の中、彼女の手をとり、わたしは誓います。

──きっと、きっとわたしが、あなたに掛けられた呪いを解いてみせる。


だから、ひとりで泣いたりしないで。