スピカが流れた日

わたくしの瞳は、最早用を成さない。離れていく学友たち、不穏な態度の先生方、初めはそれはそれは哀しくて、夜毎涙を流したわ。けれど、寂しくなかったのは貴女がいてくださったから。皆が寝静まった頃にお越しになるの。足音だけで貴女だと分かるようになったと言ったら、少し複雑そうにしてらしたわね。でも、穏やかな声音も、あたたかな指先も、甘い花のような香りも、見えないからこそ以前より強く近く感じられるの。淡く月が光る夜に、貴女はわたくしの呪いを解いてくださるとおっしゃったけれど、わたくしはこのままでも良いかも知れないと思うのよ。

先ほど、婚約者様に久しぶりにお会いしたのだけれど、わたくしをご覧になって何とおっしゃったと思う?

「想像以上に気味が悪いな。」
「突然瞳の色が変わるだなんて不吉だ。」
「こんな娘が妻になるなんて、いくら金を積まれようと願い下げだよ。」
「これは俺の一存ではない。うちとお前の、家の決定だ。」
「嗚呼、それから──お前の親からの言伝も預かっている。」

まさか面と向かって言われるとは思っていなかったから、驚いてしまったわ。以前お会いしたときは、わたくしの器量をやたらと褒めていらしたのに。お陰様で婚約話は立ち消えてしまったの。お家のためとは言え、あんなふうに口の悪い方に嫁ぐ予定だったなんて、そちらの方がずうっと恐ろしい呪いよ。わたくしからお断りしなくて済んで、幸いだわ。

これでわたくしは、夢見る乙女でいられることになったの。けれど、お父様とお母様は、わたくしを実家に連れ戻すとおっしゃるの。言葉こそ優しく「勉強するには不便だから、帰っておいで」なんておっしゃるけれど、きっと「不吉な娘」を外に出してはおけないのでしょうね。隠してしまいたいんだわ。わたくしはきっと、実家でひっそりと生きて、死んでいくのね。

それ自体は、哀しいことではないわ。哀しいのは、貴女の傍を離れること。その姿を二度と見られないこと。優しい眼差しも、薔薇色の頬も、艷めく黒髪も、この瞳に写せないこと。この初めて感じる気持ちを、何と名付けるのが良いかしら。

──貴女も同じ気持ちでいてくださったら、とても素敵なのに