スピカが流れた日

あなたの呪いを解いてあげる

解呪の契りを違えるつもりは毛頭ない。だからこそ、わたしは箱庭を飛び交う噂の渦中に飛び込むこととした。噂の中心にいるのは、いとしいあの子のみにあらず。そう、瀬尾写真館の女主人。虹を閉じこめたかのような彼女の瞳を思い起こせば、彼女へと問いかけを投げる価値は十二分にあるように思われて──だから、わたしは過日ふたりでゆるやかに歩んだ道を駆けていく。はしたないと思われても構わなかった。あの子に幸いを齎すことができるのならば、謗りなど幾らでもこの身に受けよう。

かくして、たどり着いた先、九重葛が飾られぬ戸を無遠慮に開く。写真館の主は、すぐに見つかった。けれど、ひとりではなかった。日を改めようかと思ったけれど相対する女性の眼窩に黒真珠が煌めいていることを察すれば、理性よりも先に、唇が震えていたの。

「あなたたちは──、その瞳は、何?」

不意に耳朶に触れた声音に、彼女達が瞠目したのは刹那のこと──わたしが、あの子に起こっている異変を紡げば、穏やかな声音にて、真実を紡いでくれた。

「玉眼症と、お医者様は名付けていたわ。」
「瞳が、宝石のようになってしまう病気なの──治療法は、ないようね。」
「けれど、わたしたちは視力だけは喪わなかった。瞳の色ばかりは、元に戻ることはなかったけれど」

奏でる声音には、哀愁が滲む。時折、虹色の瞳は、相対する女性の左手の薬指に眼差しを向けていた。どのように視力を戻したのですか、と問いかければ、僅かに相貌に蔭をさして、数秒の静寂を置いて答えが紡がれる。

「大切なものと引換えなのでしょうね。」
「わたしたちは、初恋と引き換えに、未来を選んだの。」

──御伽噺のような物語だと思った。
でも──

「あなたは、きっと、辛い選択を迫られることになるわ。」

最後に紡がれた言の葉が耳に残って、離れない。学園に帰る道中、ふと、学園の方から歩いてくる見たことのない男性とすれ違う。先生方に教えて頂いたとおりの作法でご挨拶のみはしたけれど──その瞳を見た刹那、そわり、と嫌な予感がわたしの背を駆けた。ええ、そう。わたしたちの心をまた置き去りにして、学園は新しい噂で持ち切りになっていたのよ。

どうしてあの子ばかり、こんなにも苦しまなければならないのかしら。