でも貴女の前で、私は私自身でいたいと思ってしまう。
如何したらいいか、わからなくなってしまうわ。
茅倉 牡丹
Botan Kayakura
Profile/Data
誕生日│学年│身長│バストサイズ
宝石(石言葉)│印象色
華やかな星の下に生まれた。公爵位の祖父を持ち、名を牡丹という。父である茅倉氏は公爵家の四男に生まれ、爵位こそ持たないけれども文化人としては一寸したもので、趣味を極めて劇作家として大成した人であった。母は花柳界から美貌を見出され、サイレント映画のスターにまで上り詰めた女優・茅倉百合子。両親の才気を余すところなく受け継いで、なめらかなアイボリーの肌をした象牙の彫像のような少女は、そのすべてで以て両親のみならず祖父である茅倉公爵にもいたく愛されていた。望むものは皆与えられ、何不自由のなく蝶よ花よと育てられた御令嬢。けれどその実、少女の実態が人々に鮮やかな印象を与えることはまずないだろう。大人びていると言えば幾らか聞こえはいいが、名前に見合わず冷ややかな娘である。怜悧な眼差しは意思の在処を示すばかりでにこりとも笑わない。年長者であれ上級華族であれ物怖じしない態度としなやかな物腰からは、流石に家柄に裏打ちされた自信と教養が窺えようけれども、感情の変遷はおよそ僅かな眉の動きで表わされるのみ。母によく似た華のかんばせさえ冷たく色がない。愛想というものは欠片も持ち合わせていなかった。唯一心を傾けるものは、母から受け継いだ演技の才だった。最初は、周囲の期待に応える令嬢然とした態度を取ってみたことが始まりだった。やがて両親の伝手で舞台に映画に子役として名を連ね、スポットライトの熱を浴びて役に入り込むことは、息をするのと同じようにいつの間にか身についていた。茅倉牡丹は女優の子だった。文化人の才を受け継いでいた。演技の中で輝ける人間だった。与えられた分だけ向けられる期待にその才能で応えて来た。何時しか演じることに慣れ切って、ひと足もふた足も早く大人になった娘は、自分というものを何処かへ置き去りにして、演技の中でしか生きられないまま、今日も人形のように息衝いている。
「申し分ない家柄だ」と父は言う。「人となりも立派な方で」と母も言う。当の娘は言う、「あの人もお母さまがお好きなのよ」と。彼の人はとある映画配給会社の御曹司。牡丹よりなんと十五も年上だとか。御家の為の結婚であることは誰の目にも明らかなれど、「あたたかい家庭を築こう」と彼の人は言い、幾つも年下の小娘と健全な関係を築こうとしていた。その証拠に、結婚は女学院を卒業してからと確約され、月に一度は必ず手紙が来る。学業に励むフィアンセを慮る手蹟が綴られたは既に何十通にもなって、中には仏蘭西や伊太利亜から投函された珍しい絵葉書もあった。悪い人ではない筈だ。けれど、娘は初めて彼の人に会った日から一度も笑顔を向けたことがない。牡丹はよく覚えている。年端も行かぬ少女を前に、婚約者殿は初対面の第一声でこう言った。「御母堂様と瓜二つだ」と。